世界第2位のステーブルコイン発行企業サークルが、詐欺やハッキングで失われた資金を回収するために、取引を巻き戻す「可逆性」の仕組みを検討していると報じられた。これは「取引は最終的かつ中央集権的に管理されない」という仮想通貨の基本理念の1つに反する動きともなる。

サークルのヒース・ターバート社長は26日、フィナンシャル・タイムズに対し、「不正やハッキングのケースで取引を取り消せる可能性を模索している」と述べる一方で、「決済のファイナリティ」を維持する必要もあると語った。

「取引の可逆性を導入できるのかどうかを考えているが、同時に決済のファイナリティも求めたい。即時に送金できても、それが取り消し不可能であることとの間には本質的な緊張関係がある」とターバート氏は語った。

仮想通貨の理念との衝突

取引の可逆性を支持する立場は、詐欺被害者の救済やステーブルコインへの信頼向上につながると主張する。ただし、この発想は「一度行われた取引は発行者やバリデーターによる一方的な変更を受けない」という仮想通貨の分散型モデルを揺るがすものでもある。

コインテレグラフはサークルに対し、どのような条件や基準で取引を巻き戻すのかについてコメントを求めている。

一方で中央集権的リスクがあるにもかかわらず、取引の可逆性が役立った例もある。5月22日、分散型取引所Cetusが2億2000万ドル以上の不正流出が発生した際、Suiのバリデーターは1億6200万ドルを凍結することに成功。その1週間後、Suiのバリデーターはガバナンス提案を承認し、凍結資産をCetusに返還した

一部の分散型支持者はバリデーターが資産を凍結できることを批判したが、業界関係者の中には迅速な対応を評価する声もあった。

伝統的な金融からの学び

ターバート氏は「ブロックチェーン、ステーブルコイン、スマートコントラクトは現行の金融システムよりも優れた技術とされるが、既存の仕組みにも一部取り入れるべき利点がある」と述べた。

そのうえで「不正取引に対するある程度の可逆性が必要だと考える開発者もいる。ただし関係者全員の合意が前提となる」と強調した。

サークルは現在、機関投資家向けインフラ整備を加速している。8月初めにはレイヤー1ブロックチェーン「Arc」を発表。ステーブルコイン決済、外国為替、資本市場アプリケーション向けの「エンタープライズ級基盤」を提供する新ネットワークとして設計されている。

ArcはサークルのUSDCをネイティブガストークンとして活用し、2025年末の本格ローンチに先立ち、今秋にパブリックテストネットを開始する予定だ。カストディとコンプライアンスを支援するため、ファイヤーブロックスのデジタル資産カストディ・トークン化プラットフォームとも統合される。ファイヤーブロックスはすでに2400以上の銀行を顧客に持つため、Arcの初日から金融機関や資産運用会社がアクセス可能になる。

不変性は制度設計にそぐわない?

ファルコン・ファイナンスの創業パートナー、アンドレイ・グラチェフ氏はコインテレグラフに対し、「不変性はブロックチェーン設計の中核だが、すべての取引が『いかなる状況でも不可逆』であるという発想は初期の仮想通貨思想に過ぎない。制度的な金融システムの運用実態とは一致しない」と指摘した。

同氏は「明確なルール、ユーザーの同意、オンチェーンでの執行を伴うなら、可逆性は欠陥ではなく有用な機能となり得る」と述べ、詐欺時の返金を可能にするスマートコントラクトや、限定的に決済変更を認める権限ベースのステーブルコインといった仕組みが考えられるとした。

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