2017年に設立された海外の仮想通貨取引所「バイナンス(Binance)」は、世界最大級の取引高を誇る。独自の仮想通貨「バイナンスコイン(BNB)」を発行するなどユニークな取引所であるが、金融庁が定める日本の仮想通貨交換業の登録が行われていないため、日本居住者による利用は注意が必要だ。

本記事では、バイナンスの取引所としての特徴のほか、バイナンスが取引所以外に手がけている事業についても紹介する。またバイナンスの創業者ジャオ・チャンポン氏(通称CZ)とはどのような人物なのか、そして今後のバイナンスの展望についても詳しく解説する。

仮想通貨取引所バイナンスとは?

バイナンスは、ユーザー数・取引高共に世界最大級の仮想通貨取引所である。レバレッジ倍率の高さや取扱通貨の種類の豊富さ、手数料の安さなどが、多くのトレーダーの支持を集めている。2017年に中国で設立されたが、現在はマルタ島に本拠地を移している。


バイナンスの特徴

海外には多くの仮想通貨取引所があるが、その中でも特に利用者の多いバイナンスにはどのような特徴があるのか。バイナンスの主な特徴について説明する。

レバレッジ

バイナンスのレバレッジ倍率は「最大125倍」となっている。日本国内の仮想通貨取引所では、レバレッジ倍率は「最大4倍」(21年5月1日からは2倍)に規制されていることを考えると、非常に高いレバレッジ倍率といえるだろう。

手数料

バイナンスでの取引手数料は、月間の取引高が50BTC以下の場合は0.1%と比較的安価である。なお取引手数料の支払いにBNBを使用すれば、25%割引され0.075%になる。友人など利用者を招待すると、手数料はさらに下がる。

取扱通貨

バイナンスではビットコインやイーサリアムのほか、日本では取り扱いのない多数のアルトコインを売買できる。その中にはテザー(USDT)、ポルカドット(DOT)、カルダノ(ADA)、チェーンリンク(LINK)、ドージコイン(DOGE)、バイナンスの独自通貨であるバイナンスコイン(BNB)などが含まれる。

取り扱い通貨の一覧はリンクから確認できる。

日本居住者は注意が必要

世界中に多くのユーザーを抱えるバイナンスだが、日本居住者による利用には注意が必要だ。

仮想通貨交換業登録は完了していない

日本国内で仮想通貨取引所を運営するには、仮想通貨交換業登録を完了している必要がある。しかし2021年3月現在、バイナンスは仮想通貨交換業登録を完了していない。過去には日本居住者向けに未登録で営業を行なったとして、金融庁から警告を受けたこともある。このため金融庁は、日本居住者に対してバイナンスの利用を認めていない。

日本円の出金はできない

バイナンスは、クレジットカードで仮想通貨を購入できるが、日本円の出金には対応していない。そのためバイナンスにある資金を日本円で出金したい場合は、ビットコインなど国内取引所で取り扱いのある通貨にバイナンス上で交換し、国内取引所に送金した上でその通貨を売却、日本円を銀行に出金する必要がある。

ただし、バイナンスではP2P取引も行うことができ、日本の銀行やLINE PAYなどを使ったユーザー同士の直接決済を通じて仮想通貨の売買ができる場合もある。


バイナンスの口座開設手順

バイナンスの口座は、下記の手順で開設できる。

1. バイナンスの公式サイトで右上の「登録」をクリックする。

バイナンスの登録画面

2. メールアドレスとパスワードを入力し「アカウント作成」をクリックする。

バイナンスのアカウント作成画面

3. 登録したメールアドレスにメールが届くので、メール内に記載されたリンクをクリックする。

バイナンスのアプリ/ツール

バイナンスは、PCのほかスマホアプリにも対応しており、外出先でもスマホでチェックしたりトレードしたりすることができる。2021年3月現在、バイナンスのPC画面とスマホアプリは、いずれも日本語に対応している。またバイナンスのトレード画面には、中~上級者向けで値動きをより細かく分析できる画面のほか、初心者向けのシンプルな画面の「バイナンス ライト」も用意されている。

取引所以外のバイナンスの事業 

バイナンスは、ブロックチェーンやウォレット開発など、仮想通貨取引所以外の事業も手がけている。

BC(バイナンスチェーン)とBSC(バイナンススマートチェーン)

バインナンスは独自のブロックチェーンであるBC(バイナンスチェーン)とBSC(バイナンススマートチェーン)を構築している。両チェーンには相互運用性があり、どちらもネイティブトークンはBNBだ。BSCではスマートコントラクトが使えるようになった。

バイナンスは19年2月、バイナンスチェーン上で分散型取引所(DEX)である「バイナンスDEX」を開設した。上記で解説してきたバイナンスの取引所は、管理者のいる中央集権型取引所(CEX)と呼ばれる。一方バイナンスDEXでは、仲介者を排除しP2Pによる直接取引が可能である。DEXではユーザー自身がウォレットを使って秘密鍵を管理する必要がある。

バイナンススマートチェーンは、主に分散型アプリケーション(DApps)の構築などを目的としている。BSCを利用するDeFiプロジェクトには「Binance Smart Chain Accelerator Fund」から開発資金が提供される場合がある。

BSCでは、20年9月に匿名の開発者によりDEX「パンケーキスワップ」がローンチされ大流行している。ユニスワップやスシスワップと同様にAMM(自動マーケットメーカー)の仕組みを採用しており板取引がない。また流動性プールに仮想通貨を預託する「ステーキング」機能を通してユーザーはリターンを得ることができる点などが共通している。イーサリアム上で構築されているユニスワップやスシスワップはガス代(手数料)が高騰しており小口投資家が利益をあげるのが難しくなっているが、BSC上のパンケーキスワップは手数料が安いため、ユーザー数が増加している。

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バイナンスアカデミー

バイナンスは2018年から、ブロックチェーン・仮想通貨教育プラットフォーム「バイナンスアカデミー」を無料で提供している。日本語を含む17言語に対応しており、200記事以上が掲載されている。ビットコインやブロックチェーンの歴史、トレード技術まで幅広く解説している。

バイナンスチャリティ

バイナンスは慈善団体「バイナンスチャリティ財団(Blockchain Charity Foundation)」を設立し、ブロックチェーン技術を活用して世界の経済格差是正を目指している。仮想通貨による寄付を集め、その履歴はすべてブロックチェーンに記録される。2018年の西日本豪雨などの災害や、2020年のコロナ禍での医療支援などにおいても、バイナンスチャリティによって日本への寄付が行われている。
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ジャオ・チャンポンCEO(通称CZ)ってどんな人?

バイナンスCEOのジャオ・チャンポン氏(Changpeng Zhao、趙長鵬)、通称「CZ」は、バイナンスを創設した人物でもある。

ジャオ氏はどのような人物なのか、その経歴や人となりを紹介する。

CZはカナダでコンピュータサイエンスを学び、東京証券取引所での勤務経験も

1977年、中国の江蘇省で教師の両親のもとに生まれたCZは、1980年代後半にカナダへ移住し、モントリオールのマギル大学でコンピューターサイエンスを学んだ。マギル大学はカナダで最も歴史ある大学であり、現カナダ首相のトルドー氏をはじめ、ノーベル賞受賞者やオリンピックメダリストなど、多数の著名な卒業生を輩出している。

CZは大学卒業後、主に金融業界でソフトウェアエンジニアとして働き、東京証券取引所のシステム構築に携わった経験もある。

2013年にポーカー仲間から仮想通貨を教えてもらったのをきっかけに仮想通貨の世界に入った。ビットコインのウォレットを手がけるBlockchain.infoや仮想通貨取引所OKCoinでの勤務を経て、17年に自ら仮想通貨取引所「バイナンス」を設立。設立から1年未満で世界有数の取引所に成長させた。

CZは自ら情報発信を積極的にしており、ツイッターの公式アカウント(@cz_binance)は21年3月時点でフォロワーが100万人以上いる。


CZは資産家だが贅沢を好まず、チャリティにも積極的

CZは若くして仮想通貨事業で成功し、2018年にはフォーブスの「世界の仮想通貨長者ランキング」で世界3位にランクインしたほどの資産家である。フォーブス米国版の表紙を飾ったこともある本人は、贅沢は好まないと語っており、高級車にも高級時計にも興味がないという。

2018年の西日本豪雨災害の際などには、自身のツイッターで仮想通貨による募金を呼びかけるなど、高いチャリティ意識を持っていることもうかがえる。


バイナンスは日本で取引所を提供するのか?

2021年3月現在、バイナンスは日本で仮想通貨取引所を提供していない。今後バイナンスが日本で取引所を展開する可能性はあるのか解説する。

金融庁の規制により日本居住者向けのサービスを終了

バイナンスは2017年の設立後、日本語でのサービスを提供しており、多くの日本人トレーダーが利用していた。一方、日本では2017年に改正資金決済法が施行され、仮想通貨取引所には仮想通貨交換業登録が義務付けられるようになった。

これを受けて金融庁に無登録だったバイナンスは、日本に拠点を置くことも検討したものの、すでに取扱い通貨数が制限を上回っていたことなどから断念しており、現在に至るまで登録を完了していない。

金融庁は18年、バイナンスに対し、無許可で営業を行っているとして警告を行った。バイナンスはその後一時的に日本語対応を終了。20年1月には日本居住者向けのサービス提供を段階的に終了すると発表した。

その後も日本市場への復帰を目指し、仮想通貨取引所「TaoTao(タオタオ)」との戦略的提携に向けた交渉を進めていたが、20年10月に交渉を終了している。

CZ「日本での事業展開の可能性は低い」

20年6月から、バイナンスのウェブサイトでは日本語対応が復活している。しかし同年12月、仮想通貨メディアからの取材に対し、CZは「日本での事業展開の可能性は低い」とコメントしている。

日本で仮想通貨取引所を開設するためには、仮想通貨FX取引のレバレッジ倍率や、取り扱う仮想通貨の種類など、金融庁の定める制限に従う必要がある。

高いレバレッジや豊富な取扱い通貨を特徴とする海外仮想通貨取引所にとって、日本国内で仮想通貨取引所を開設することは、いまだ大きなハードルがあるといえるだろう。

ただし今後の金融庁の規制変更などで状況が変わる可能性もあり、引き続き今後の動向が注目される。