2025年に入ってから、仮想通貨企業の新規株式公開(IPO)が相次いでいる。5月には、イスラエルの取引所eToroと、デラウェア州に拠点を置く金融サービス企業ギャラクシーデジタルがナスダックに上場。続いて6月5日には、ステーブルコインUSDCの発行元であるサークルが華々しくNYSEに上場し、IPOブームに火を付けた。上場から間もない今、ティッカー「CRCL」はIPO価格から約290%の上昇を記録しており、投資家の熱狂ぶりを物語っている。
この盛り上がりが示すのは、実際の収益を生み、コンプライアンス体制が整い、スケーラブルなインフラを備えた「仮想通貨ネイティブ企業」への強い需要だ。これは市場からの信任と、他の仮想通貨企業にとっての“ゴーサイン”でもある。
いま、仮想通貨IPOの「窓」は開かれている。市場には食欲があり、チャンスが溢れている。
ジェミナイとブリッシュもIPO申請へ
サークルの上場から1週間も経たないうちに、ニューヨーク拠点の仮想通貨企業2社が続いてIPO準備に入った。
6月6日には、ウィンクルボス兄弟が設立した仮想通貨取引所ジェミナイが、米証券取引委員会(SEC)に「フォームS-1」を提出したことを発表した。IPO対象はA種普通株式とされているが、株数や価格など詳細は非公開となっている。
6月11日には、仮想通貨取引所ブリッシュも同様にSECへ文書を提出したとフィナンシャル・タイムズが報じた。ピーター・ティール氏が支援するこの取引所は、かつて2021年にSPACによる上場を目指したが、2022年の市場混乱の中で頓挫していた。
今回はタイミングが味方している。米国では仮想通貨に関する規制の明確化が進み、機関投資家の仮想通貨エクスポージャーも常態化。世界的なマクロ経済の不透明感もあり、分散投資への関心は高まっている。今後も新たなIPO発表が続く可能性は高い。
次に続くのはどの企業か?
最も注目されているのが、米国の大手取引所クラーケンである。ブルームバーグによれば、クラーケンは早ければ2026年初頭にも上場を計画しているとされる。直近の資金調達は2019年で、評価額は40億ドルだった。
次に名前が挙がるのが、米国で規制下にあるカストディ企業ビットゴーだ。今年2月には、同社が「早ければ年内にも」IPOを目指しているとの報道があった。2023年8月時点の評価額は17億5000万ドルだった。
このほかにも、IPO候補と目される仮想通貨企業は複数存在する。
メタマスクなどのイーサリアム系ツールを開発する米国企業コンセンシス。評価額は約70億ドルに達しており、上場を狙える立場にある。
フランスのハードウェアウォレット大手レジャー。2023年時点の評価額は14億ドル。グローバルなブランド力を活かし、ユーロネクストまたは米国市場で上場する可能性がある。
ニューヨークを拠点とする機関投資家向けカストディ企業ファイアブロックス。2022年のシリーズE調達で評価額は80億ドルに。2023年〜2024年にかけて幹部人事を拡充しており、事業規模を拡大中だ。
同じくニューヨーク拠点で、法執行機関や金融機関向けにブロックチェーン分析を提供するチェイナリシス。2022年の評価額は86億ドル。2024年12月には初のCFOを迎えている。
サークルの成功に続けるか?
サークルのIPOは成功のハードルを一気に引き上げた。CRCLの株価は数日で240%超の急騰を見せ、今回の仮想通貨IPOブームの流れを決定づけた。しかし、他の仮想通貨企業がサークルと同様のパフォーマンスを見せられるかは別の話だ。
サークルの事業モデルは「ブロックチェーン化されたドル」に近く、USDCの準備金運用から金利収入を得るという構造は、伝統的金融にもなじみが深い。一方、仮想通貨取引所やインフラ企業、データ分析会社のビジネスモデルは、ビットコインやイーサリアム、Web3の発展と密接に結びついており、より深い理解が求められる。
実際、eToro(ETOR)やギャラクシーデジタル(GLXY)の5月のIPOは、初日の上昇率が43〜46%にとどまり、サークルには及ばなかった。
それでも、たとえ今後のIPOがサークルのリターンを下回ったとしても、象徴的な意義は大きい。各社の上場は、仮想通貨業界と伝統的金融業界との結びつきをさらに強める契機となる。
仮想通貨は、いまや株式市場の一部になりつつある。マイクロストラテジー(MSTR)、ライオット・プラットフォームズ(RIOT)、マラソン(MARA)といった企業も戦略を転換して仮想通貨業界の一員となり、2024年12月にはMSTRがナスダック100に、2025年5月にはコインベース(COIN)がS&P500に加わった。世界を代表する株価指数にも、仮想通貨業界のプレゼンスが刻まれたことになる。
かつては「投機的で危うい」と見なされていた業界が、いまや上場基準を満たし、予想を超える実績を上げる企業を生み出している。次にその扉を開くのは、どの企業になるだろうか。
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