資産運用に取り組むときは、分散投資が基本だ。分散投資では、どの資産にいくら投資するか判断する必要がある。しかし、投資経験や金融知識がないと、資産配分(アセットアロケーション)をどのように決めたらいいかわからないのではないだろうか。
リスクを軽減しながら安定的に資産を増やすには、アセットアロケーションへの理解が不可欠だ。今回は、アセットアロケーションの決め方や考え方について詳しく解説する。
アセットアロケーションとは
アセットアロケーションとは、どの資産にどのような割合で投資するかを決めることだ。アセット(asset)は「資産」、アロケーション(allocation)は「配分」という意味がある。
投資では、資産の種類ごとに値動きや期待リターン、リスクは異なる。また、その人の資産状況や運用目的などによって、最適な資産配分は変わってくる。
個人がリスクを軽減しながら安定的に資産を増やしていくには、主要な資産の特徴を理解した上で、自分に合ったアセットアロケーションを作ることが大切だ。
アセットアロケーションとポートフォリオの違い
アセットアロケーションと似た意味を持つ言葉に「ポートフォリオ」がある。ポートフォリオとは、金融商品の組み合わせのことだ。
アセットアロケーションが「株式」「債券」といった資産クラスの組み合わせであるのに対し、ポートフォリオは「投資信託A」「株式B」のように、具体的な運用商品の組み合わせを意味する。
資産運用では最初にアセットアロケーションを決定し、その上で投資対象資産ごとに運用商品を選択してポートフォリオを組むのが基本となる。
資産クラスと相関係数
主な資産クラスの種類
資産クラスとは、投資対象となる資産の種類や分類のことだ。アセットアロケーションを決めるには、どんな資産クラスがあるのかを理解しなくてはならない。主な資産クラスは以下の通りだ。
代表的な資産クラスが株式と債券で、それぞれ国内と外国に分類できる。外国株式・債券・不動産については、米国など特定の国・地域、先進国、新興国といった分類もある。また、株式は日本を含めた先進国、新興国が投資対象の「世界株式」という資産クラスもある。
最近では、ビットコインをはじめとする仮想通貨(暗号資産)の存在感が高まっている。そのため、仮想通貨も資産クラスの1つと捉える考え方もあるだろう。
相関係数とは
相関係数とは、資産クラス間の値動きの連動性を表す指標のことで、1からマイナス1の範囲で表される。
相関係数がプラスの場合、1に近づくほど資産クラス間の連動性が強く、同じような値動きをする。一方、相関係数がマイナスなら連動性は弱く、マイナス1に近づくほど逆の値動きをする傾向がある。0に近付くほど相関は弱くなる。
資産クラス間の相関係数
J.P.モルガン・アセット・マネジメントの資料によれば、資産クラス間の相関係数は以下の通りだ。
出所:J.P.モルガン・アセット・マネジメント Guide to the Market
直近10年間では、多くの資産クラスの相関係数がプラスになっている。中でも株式同士の相関係数は1に近く、似た値動きをしていることが読み取れる。
株式と債券は相関係数がマイナスになっており、逆の値動きをする傾向にあることがわかる。特に株式と米国10年国債については、相関係数のマイナスが大きい。
直近3年間においても、直近10年間と同じような傾向にある。日本株式と米国株式は「0.66→0.81」、日本株式と世界株式は「0.68→0.83」となり、以前よりも1に近づいている。このことから、日本株式と米国株式・世界株式の連動性がより強まっているといえる。
複数の資産クラスを組み合わせてリスクを軽減する
投資のリスクを軽減するには、相関係数がマイナスの資産を組み合わせて運用を行うことが有効だ。相関係数がマイナスであれば逆の値動きをすることが多いので、特定の資産の値下がりを他の資産の値上がりでカバーできる。
先程の例であれば、日本株式だけに投資するのではなく、日本国債や米国10年国債を組み合わせるほうが、資産全体の値動きを緩やかにする効果が期待できる。
日本株式と米国株式・世界株式の組み合わせは、資産・銘柄の分散という点ではリスク軽減が期待できるだろう。しかし、相関係数が1に近いプラスで、似た値動きをすることが多いため、価格変動リスクの軽減は期待できない。
アセットアロケーションの決め方・考え方
実際に資産運用を始めるときは、どのようにアセットアロケーションを決めればよいだろうか。ここでは、アセットアロケーションの決め方や考え方について確認していこう。
目標利回りを設定する
アセットアロケーションを決めるには、目標利回りを設定する必要がある。目標利回りがはっきりすれば、どの資産をどれくらいの比率で保有するべきかが見えてくるからだ。
J.P.モルガン・アセット・マネジメントの資料によると、主な資産クラスの期待リターンは以下の通りだ。
資産クラス |
期待リターン(2020年) |
日本株式(大型株) |
5.10% |
先進国株式(除く日本:為替ヘッジなし) |
3.40% |
新興国株式(為替ヘッジなし) |
5.80% |
世界株式(為替ヘッジなし) |
3.70% |
日本国債 |
0.40% |
先進国国債(除く日本:為替ヘッジなし) |
0.30% |
新興国国債(為替ヘッジなし) |
3.80% |
株式は債券より期待リターンが大きく、4~5%程度のリターンが期待できる。高いリターンを目指すなら、株式の保有比率を増やすことが有効だ。
たとえば、目標利回りを年4~5%とする場合は、「100%株式で運用する」という選択肢もあるだろう。さらにリスクを取れるなら、資産の一部をビットコインなどの仮想通貨に振り向けるのも選択肢の一つだ。
一方で、年2~3%の利回りを目標とするなら、「株式50%、債券50%」というアセットアロケーションでもよいかもしれない。
上記で示した期待リターンは、あくまでも過去の実績などに基づく予測・見通しであり、この通りに運用できるとは限らない点に注意が必要だ。
リスク許容度を検討する
リスク許容度とは、資産運用で許容できるリスクの度合いのことだ。投資対象資産には価格変動リスクがあるため、運用の途中で価格が下落し、一時的に保有資産が大きく目減りする可能性がある。
長期の資産形成では、短期の値動きに一喜一憂せずに運用を続けることが大切だ。しかし、リスク許容度を超えるような大きな損失が生じると、その状態に耐えられなくなり、運用を続けられなくなるかもしれない。
たとえば、日本の株式は2019年以降のリターンが大きくプラスになっているが、2018年は10%を超えるマイナスだった。また、2008年のように40%の大きなマイナスが発生した年もある。
出所:J.P.モルガン・アセット・マネジメント Guide to the Market
リスク許容度は資産状況や収入、年齢、家族構成、投資経験などによって変わってくる。保有資産が多い人や収入が高い人は投資に回せるお金が多いため、リスク許容度は高くなる。
一方で、高齢の人や元本を減らしたくない人のリスク許容度は低い傾向にある。
自分の状況や性格などを整理し、リスク許容度を見極めた上で、無理なく運用を続けられるアセットアロケーションを作ることが大切だ。
プロのアセットアロケーションを参考にする
自分でアセットアロケーションを決めるのが難しい場合は、プロの運用を参考にするのも1つの方法だ。
たとえば、年金積立金の管理・運用を行う「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」では、長期的に実質的な運用利回り1.7%を最低限のリスクで確保することを目標に、基本的な資産構成割合を以下のように定めている。
国内株式 |
国内債券 | 外国株式 | 外国債券 |
25% |
25% | 25% |
25% |
投資初心者の場合、GPIFのアセットアロケーションをそのまま採用してもいいだろう。また、「国内株式と外国株式は25%ずつ、債券部分(国内債券+外国債券)はすべて国内債券で運用する」といった具合にアレンジする方法もある。
実際に運用を始めてみて、各資産クラスの特徴や自分のリスク許容度などが理解できた段階で、必要に応じてアセットアロケーションを変更してもいいだろう。
年齢や目的に応じてアセットアロケーションを見直す
一度決めたアセットアロケーションは、むやみに変更しないのが基本だ。しかし、年齢によってリスク許容度は変わってくる。また、保有資産が目標金額に達して安定的な運用に変更したい場合もあるだろう。
一定の年齢に達してリスク許容度が変わったり、運用目的が変わったりした場合は、アセットアロケーションを見直す必要がある。
安定的な運用に切り替えたい場合は、株式の比率を減らして債券を増やすのが有効だ。反対に、高い利回りを目指すために積極的な運用に切り替えたいなら、株式の比率を増やすといいだろう。
自分の状況に合ったアセットアロケーションを作ろう
アセットアロケーションに唯一の正解はなく、最適な資産配分は人それぞれだ。目標利回りやリスク許容度を十分に検討した上で、無理なく運用を続けられるアセットアロケーションを作る必要がある。
ただし、投資経験がなく、自分でアセットアロケーションを決めるのが難しい場合は、GPIFの基本の資産構成割合をそのまま採用するか、参考にしながらアレンジしてみよう。
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