「投資を始めてみたいけれども、リスクはできるだけ抱えたくない」と考えている人には、債券投資が良いだろう。債券は、株式や不動産と比較して高いリターンは期待できないものの、リスクが低いといわれているため、投資の初心者でも始めやすい。
本記事では、債券の仕組みや種類、リスクなどをわかりやすく解説する。
債券とは
債券とは、国や企業が事業を行うために投資家からお金を借りる際に発行する有価証券だ。お金を借り、債券を発行する側を発行体と呼ぶ。発行体は、あらかじめ決められた償還期限(満期日、返済期限)を迎えるまで、投資家に対して一定の利息を支払い、償還期限が来たら投資家に借りた金額を一括で返済する。
たとえば、企業が投資家から100万円を借りるために、利率(表面利率)0.5%、償還期限5年、額面金額100万円の債券を発行したとしよう。償還期限を迎えるまでは、額面金額100万円の0.5%である5000円を、利息として投資家に毎年支払う。償還期限を迎えると、債券を発行した企業は額面金額である100万円と、5000万円の利息を合わせた100万5000円を投資家に支払う。ただし後述する「割引債」の場合は、利息を受け取れない。
債券は、償還期限までに発行元が倒産などでなくならない限り、元本が保証されているため、発行者の信用度が高ければ比較的リスクの低い金融商品と考えられる。
債券の額面金額と発行価格
債券には、区別して理解しておくべき用語として「額面金額」と「発行価格」がある。
債券の額面金額とは、債券に記載された10万円や100万円という金額のことであり、債券が償還を迎えた際は、購入金額ではなく額面金額で払い戻される。また、利息は債券の購入価格に対してではなく、額面金額に対してつく。
債券の発行価格は、100円を単位とした金額で表示される。発行価格は額面金額と1:1と同額の場合もあれば、100.25円や99円となる場合もあり、債券の発行価格は必ずしも額面金額に一致しているわけではない。発行価格は金利動向によって、販売できる発行価格を発行体と引き受けの証券会社が相談して決めている。
たとえば、額面金額100円あたりの発行価格が101円の債券を、額面金額100万円購入した時の購入代金は101万円である。償還日には額面金額の100万円が払い戻される。
額面100円あたり100円で発行される場合を「パー発行」、100円より高く発行される場合を「オーバーパー発行」、100円より安く発行される場合を「アンダーパー発行」という。
アンダーパー発行された債券は償還日に額面で返ってくるので利益(償還差益)が得られ、オーバーパー発行された債券は損失(償還差損)になる。
債券は償還日前に売却し換金することも可能
債券は、償還日前に市場で売却して換金することもできる。債券の額面金額は、償還期限を迎えるまで一定である。一方で債券の価格は、政治や金利、経済環境など、さまざまな要因で変化する。
購入したときよりも高い金額で売却できると売却益を得られるが、安い金額で売却すると損失が発生する。また、債券を売却したり利息を受け取ったりすると、20.315%の税金が課せられるため、利益のすべてが手元に入ってくるわけではない。
債券投資のリスク
低リスクではあるが、債券にもリスクはある。債券のリスクには、金利変動リスク、信用リスク、為替リスク、流動性リスクなどがあり、この記事で解説している。ここでは、債券において特に知っておくべき2つのリスクについて詳述する。
債券の金利変動リスク
債券の金利変動リスクとは、債券を購入してから償還期限を迎えるまでの金利が変動することで、債券価格が上下するリスクである。具体的には、市場の金利が上がると債券価格は下がり、市場の金利が下がると債券の価格は上がる。市場の金利と債券価格は、相反関係にあるのだ。
たとえば、額面金額100万円、利率は市場金利と同じ1%、償還期限5年のパー発行の債券Aを購入したとしよう。債券Aを購入した投資家は、1年間に1万円の利息を得られる。しかし翌年、市場金利が1%から2%に上昇。新規で発行される債券Bは、額面金額100万円でパー発行、利率が2%、1年間に得られる利息収入は2万円だとする。
すると、債券Aの投資家は、債券Bを持っていた方が大きな利益を得られるため、債券Aを売却しようとするので、債券Aの価格は下がる。金利が下落した場合は、これとは逆のことが起こるため債券価格が上昇する。一般的に償還期限が長い債券、低金利の債券ほど、価格変動が大きくなる。
債券の信用リスク
信用リスクとは、発行元の財務状況が悪化して、元本や利息の支払いが困難となるリスクだ。たとえば企業の信用力が低いと、業績の不振により予定通りに利息が支払われない恐れがある。最悪の場合、債券の償還期限を迎えるまえに企業が倒産して、額面金額が投資家に戻ってこないケースもありえるのだ。
そのため債券を購入する際は、国や企業の信用力の指標である「格付け」を必ず確認しよう。たとえば日本格付研究所のなどの格付け機関は、一般的には以下の通りAAAからDの間で債券を格付けしている。
格付けが高いほど国や企業の信用力が高く、リスクは低いといえる。 ただし信用力が高いほど金利が低い傾向にあるため、大きな収益は期待できない。格付けが低いと高いリターンが期待できる一方で、 利息が予定通りに支払われないリスクや償還されないリスクが高まる。BBB以上に格付けされている債券は投資適格債、それ以外は投資不適格債と言われている。
債券の種類
債券にはさまざまな種類があるため、それぞれの特徴を説明する。
公共債と民間債
国や公共機関、地方公共団体が発行する債券を「公共債」、民間の企業が発行する債券を「民間債(社債)」という。
公共債はさらに、国(財務省)が発行する「国債」、公庫や独立行政法人が発行する「政府関係機関債」、都道府県や市町村が発行する「地方債」に分かれている。また個人の投資家を対象にした国債を「個人向け国債」という。政府関係機関債には「政府保証債」や「財政機関債」などがある。
また発行場所や発行される通貨、発行体のいずれかが外国である債券を「外国債券(外債)」という。外国債券には、払い込みや利払い、償還金が円建てで行われる「円建て外債/ユーロ円債」や、それらが外貨建ての「外貨建て債券」がある。
新発債と既発債
新しく発行される債券を「新発債」、すでに市場に流通している債券を「既発債」という。
新発債は、額面金額や償還期限などの発行条件が提示されたうえで、一定の期間募集される債券だ。既発債は、価格が日々変動するのが特徴だ。
利付債と割引債
利付債とは、半年後や1年後など、定期的に利息が支払われる債券を指す。利息は、額面金額に表面利率をかけて計算される。利率が変動する銘柄もあれば、固定されている銘柄もあるため、投資先を選定する際に確認しよう。
割引債(ゼロクーポン債)は、額面金額よりも安い価格で発行される債券だ。満期日には、額面金額が償還される。利付債とは違い、利息による収入は受け取れないが、購入価格と満期受取額との差が利益となる。
債券の利率と利回り
利率とは、額面金額に対して受け取れる利息の割合だ。対して利回りは、投資した金額に対する利息を含めた収益合計の割合を表す。債券の利回りには「応募者利回り」「最終利回り」「所有期間利回り」「直接利回り」の4種類があり、それぞれの定義と計算方法は、以下の通りだ。
- 応募者利回り:新発債を購入して償還期限まで保有した場合の利回り
- 最終利回り:既発債を購入して償還期限まで所有した場合の利回り
- 所有期間利回り:償還期限前に売却した場合の利回り
- 直接利回り:購入金額に対して年間で得られる利息の割合
債券を選ぶ際は、利率だけではなく利回りも確認することが大切である。利率や償還期間が同じあっても、購入時の価格によって利回りは変わるためだ。
たとえば既発債を購入する際は、最終利回りを計算する。利率5%、額面金額100万円、残存期間5年の既発債を購入するとしよう。購入価格が額面金額100円あたり100円(100万円)である場合、最終利回りは5%だ。しかし購入価格が額面金額100円あたり105円(105万円)になると、最終利回りは約3.809%となる。購入価格が額面金額100円あたり95円(90万円)である場合の最終利回りは、6.315%となる。
利回りが高いほど、少ない投資金額で高い収益が期待できる。個別銘柄の債券に投資する際は、利回りを計算し投資効果を考えよう。
債券投資を始めるには
債券投資を始める方法には、大きくわけて「個別で債券を購入する」「投資信託やETFを購入する」の2種類がある。それぞれの購入方法について解説していく。
個別で債券を購入する
個人投資家向けに販売されている債券には「個人向け国債」や「個人向け社債」などがあり、証券会社で購入が可能だ。
個人向け国債には、発行時から償還まで利率が変わらない「固定金利型」と、実勢の金利に応じて利率が変動する「変動金利型」の2種類がある。変動金利型は、0.05%(税抜)の金利が最低保証されている。何より国が破綻しない限り満期日に額面金額が戻ってくるため、元本割れする心配はないに等しい。また固定期間型の償還期間は3年または5年、変動金利型は10年となる。
個別の債券は、1銘柄当たりの最低購入金額が1万円や10万円ほどであるが、中には100万円を超える銘柄もある。
投資信託やETFを購入する
投資信託とは、投資家から募った資金を運用のプロであるファンドマネジャーが、債券や株式、不動産などに投資をして運用益を狙う金融商品だ。投資信託(ファンド)を運用して、得られた利益は、出資金額に応じて投資家に分配される。ETFは、株式と同じようにリアルタイムでの取引が可能な投資信託である。
投資信託は1銘柄につき100〜1000円程度、ETFは1〜2万円程度で購入できる。また1つの銘柄で複数の銘柄に分散投資されるため、個別銘柄を購入するよりも少額でリスクを軽減しやすい。初心者は、投資信託やETFを購入して債券投資を始めるのも方法の1つだ。
金融機関でiDeCoやNISAの口座を開設したうえで、投資信託・ETFなどを購入することで、一定額まで非課税で運用が可能だ。ただしiDeCoやつみたてNISA、一般NISAでは、個別の債券に投資できない。また選択できる商品は投資信託がほとんどであり、ETFの選択肢は限られる。
加えて投資信託やETFや信託報酬や売買手数料など、コストを支払わなければならない。コストや期待できるリターン、リスクなどは銘柄によって異なるため、比較したうえで投資先を選ぼう。
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