一部の犯罪組織はいまだに「仮想通貨は追跡できない」と誤信しており、それが近年相次ぐ仮想通貨関連の誘拐事件の一因になっているかもしれない。ブロックチェーン分析企業チェイナリシスの最高経営責任者(CEO)であるジョナサン・レヴィン氏は、2025年のコンセンサス・カンファレンスにおいてそう語った。
レヴィン氏は「盗まれた資金や仮想通貨による身代金の追跡において、法執行機関の成功例が増えており、実際に多くの逮捕が行われている」と指摘する。
「なぜか、仮想通貨が追跡不可能な資産だという認識が広まっており、それが一部の犯罪者に特定の行動を取らせる土壌になっている」と同氏は語った。
「仮想通貨は追跡可能であるというメッセージが、フランスを含む一部の組織犯罪グループにはまだ届いていないようだ」
フランスで続く仮想通貨関係者への襲撃事件
フランスでは仮想通貨関連の襲撃事件が相次ぎ発生している。5月13日には、仮想通貨取引所ペイミウムの共同創業者兼CEOであるピエール・ノワザ氏の娘と孫が誘拐されかける事件が発生した。
さらに、仮想通貨起業家の父親が700万ユーロ(約11億円)の身代金を要求され、数日間拘束される事件があった。
2025年1月には、仮想通貨ハードウェアウォレット大手レジャーの共同創業者であるダビッド・バランド氏がフランス中部の自宅から連れ去られ、翌日夜の警察の突入作戦によって救出された。
この一連の事件を受け、フランスの内務大臣は仮想通貨関係者と会合を持ち、セキュリティ対策について協議する方針を表明した。
2024年10月には、ブロックチェーン調査で知られるZachXBT氏が「西ヨーロッパで仮想通貨関連の自宅侵入事件が急増している」と警告を発していた。
チェイナリシスのレヴィン氏は「仮想通貨の支払いは追跡可能であり、法執行機関内の専門部隊が誘拐犯の摘発で成果を上げていることを、もっと広く伝える必要がある」と述べた。
「実行犯だけでなく、背後にいる組織犯罪グループにまで遡って摘発が進んでいる」
仮想通貨犯罪に“儲け”はない
レヴィン氏は「仮想通貨犯罪がもう“儲かる商売ではない”ことを、犯罪組織にも理解してもらいたい」と語る。
「支払いが追跡され、場合によっては一部が回収されることもある。だが真の目的は資金の回収ではなく、関係者を法の下に裁くことだ」
それでもなお、業界関係者へのオフライン強盗が続いている現状について、レヴィン氏は「依然として厳しい状況にある」と述べ、業界全体として防犯対策の強化を求めた。
「自分に関する情報をネット上に公開する際には、最大限の注意が必要だ」
サイファーパンクで自己保管型ウォレット企業カーサの共同創業者であるジェイムソン・ロップ氏が作成したリストによれば、今年これまでに発生した仮想通貨関連の対面強盗事件は22件。2024年の28件に迫るペースで推移している。
ただし、ケンブリッジ大学が2024年9月に発表した研究によれば、こうした「レンチ攻撃(物理的な資産強奪)」は再被害を恐れて報告されにくく、実際の件数はさらに多い可能性があるという。