最高値を更新し続ける仮想通貨ビットコインと同時に、暗号通貨の世界で今年注目が集まったのは中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)だ。

まず1月にスイス・ダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)でCBDCに関する政策立案者向けのツールキットが発表された。以来、世界中の中央銀行が積極的にCBDCについて調査、研究、テストなどを開始したという報道が相次いだ。オーストラリア、ブラジル、カンボジア、エストニア、ジャマイカ、カザフスタン、ケニア、リトアニア、ロシア、韓国、スウェーデン、タイ、アラブ首長国連邦などだ。

そんな中、先進国よりも新興国の中央銀行の方がCBDCの発行に向けた動きが加速しているというトレンドも明らかになってきた。例えば、欧州中央銀行は来年からデジタル・ユーロの検討段階に入ることを検討しているが、デジタル・ユーロの立ち上げは少なくとも5年計画である。カナダもCBDCを「良いペースで」展開していると、カナダ中銀のティモシー・レーン副総裁は述べている。元日銀関係者によると、日本のデジタル円の発行には数年かかるという。

一方のバハマは今秋、世界で初めて正式にCBDCを立ち上げた国の一つとなった。ロシアは来年、デジタルルーブルの最初のパイロットを開始すると予想されている。

また中国では「DCEP」と呼ばれるデジタル人民元プロジェクトが今年深セン等の都市で試験的に展開され、日本でも衝撃が走った。

(参考記事「着々進むデジタル人民元、ネット商戦に合わせ2万件の取引実施」「中国深センのデジタル人民元配布プロジェクト 当選者 95%が実際に使用」「中国デジタル人民元プロジェクト、動画投稿最大手と「世界で最も革新的な企業」が参画」「デジタル人民元のパイロットプロジェクトは既存の金融システムに影響を与えない=中国人民銀行」)

国家によって発行されるデジタル通貨に関してはプライバシーに関する懸念が強いのも確かだが、「今そこにある現実」になりつつあるのが事実だ。中銀発行のデジタル通貨はサイファーパンク思想を源流とした非中央集権主義の対局に位置するものかもしれないが、新しい貨幣秩序の一部となる可能性があるため無視できないトレンドだ。

そこでコインテレグラフでは年末年始企画として、仮想通貨・ブロックチェーンの識者に話を聞いた。

米Hyperledgerエクゼクティブディレクター ブライアン・ベーレンドルフ氏

CBDCに関する中央銀行の技術レベルは驚くべきものだ。今年は単なる研究プロジェクトだけでなく試験的パイロットなども見られた。BISやOECDのような機関が規制問題に正面から取り組んでいる。重要な問題は、これらのCBDCネットワークがアカウント(口座型)ベースなのか、ベアラー(所有者・トークン型)ベースなのかということである。後者は、暗号通貨コミュニティのほとんどが(分散型システムとして)直感的に理解しているものだ。

(CBDCを通して)犯罪や詐欺と戦うための規制上の必要性が、個人が選択したソフトウェアを実行する自由と衝突するリスクがある。自分で選択した暗号を使えるようにするための長い戦い(編集部注:サイファーパンク運動等)の延長線上にある話だ。現状では規制当局が非カストディアル・ウォレットの禁止に向けて急ぐことになる可能性がある。それは、暗号学・暗号通貨、CBDC、他のあらゆる種類のデジタル資産に関わるすべての人にとって良くないことだ。

私見だが、規制当局と中央銀行は(おそらくユーザー自己主権型の)デジタルIDシステムとデジタル通貨ネットワークを連携させKYC(顧客本人確認)/AML(反マネロン)機能を実装することで満足するのではないか。また、デジタル通貨の決済便宜性を考えて規制判断の遅効性を付与する。規制当局がこれらのことを他の国よりもよく理解している国の銀行は、競争上の優位性を持つことになる。今日CBDC の展開が最も進んでいると考えられる国が今後そういった優位性をもつとは限らないだろう。

米財務省 通貨管理局 通貨管理官代理 ブライアン・ブルックス氏

中央銀行発行のデジタル通貨は今議論されている一番重要な議題の一つだ。ドルをはじめとする法定通貨のデジタル化を実現すべきかどうかではなく、どのように実現するかという話になっている。

米国は通常、革新的でダイナミックな民間部門の力を解き放つことに注力している。政府はプロダクトを作るのではなくルール作りに徹したときに勝利を収める。だが他国がデジタル通貨分野に力をいれていることを考えると、米国はドルの重要な役割を鑑みこの(CBDC)分野で前に出て動く必要があると言わせて頂きたい。

仮想通貨NEOの創始者 ダー・ホンフェイ氏

CBDCの急速な発展はブロックチェーン業界にとっても大きな恩恵だ。ブロックチェーンが明日の世界を構築する上で不可欠な役割を果たすことが確認されたからだ。ブロックチェーンのイノベーションが加速するにつれ、世界中の国々が今日の世界秩序の非効率性や欠点を解決する、真にデジタルな未来を構築する必要性を認識するようになってきている。資産のデジタル化が進むにつれ、未来のスマートエコノミーが動き出すと確信している。

米Stellar Development Foundationエクゼクティブディレクター ダネル・ディクソン氏

CBDCは特に金融包摂のためのツールとして大きなイノベーションを起こしつつある。今年のコロナ危機もCBDCのインパクトを浮き彫りにした。政策立案者、政府、中央銀行は、市民により良いサービスを提供し、より速く、より安く、より効率的な方法で金融システムへより公平なアクセスを創出する方法があることを認識するようになった。CBDCに関する技術を探求している世界中の政府との議論から考察すると、2021年には中央銀行が今年の教訓を活かし、CBDCを実践し始めることになると思う。

IOTA基金共同創立者 ドミニク・シェイナー氏

2021年は中央銀行がCBDCの内部テストを試験的に実施していく年になる。その際プライベート・チェーン、またはブロックチェーンではない(独自)ネットワークが使われるだろう。また、CBDCは技術よりも規制上の不確実性に阻まれることになるだろう。だから現実社会でのCBDCの展開は2021年から2022年、さらには2024年以降にまで引き延ばされるのではないか。

米コーネル大学コンピューターサイエンス准教授、IC3共同ディレクター エミン・ガン・シラー(Emin Gün Sirer)氏

(米におけるCBDCの取り組みに関しては)Facebookのリブラが契機となって金融当局と中央銀行が本格的に動きだした。従来の金融システムのゲートキーパーが暗号通貨の重要性を認識したことは、紛れもなくポジティブな動きだ。一方中国は先手を打って同分野での官民の動きを活性化させることで、今のところ先頭を走っている。米国の政治家や規制当局が自らの取り組みを加速させ、数十年ぶりに米ドルの覇権を脅かす真の脅威を撃退する動機として、中国ほど明確なものはないだろう。

米商品先物取引委員会 委員長兼最高経営責任者 ヒース・ターバート氏

2020年は多くの国がCBDCに触れるのを見てきた。きっかけとなったのは新型コロナ危機だ。政府の補助金等がCBDCを通して個人に払われたのも垣間見れた。より多くの国が新型コロナ・パンデミックで学んだことを活かし、自国のCBDCをどのように進めていくかを見極めることになると想像している。

米国ではドルのCBDCは主に連邦準備制度理事会の管轄にある。(米商品先物取引)委員会としてはCBDC の設計と技術を探求するボストン連銀と MIT の仕事を注視している。また、CBDCに関するBIS(国際決済銀行)のイノベーション・ハブの活動にも勇気づけられている。

これは個人的な信念だが、米国はここ(CBDC分野)でリードしなければならないと思っている。その際政府のみに頼っていてはだめだ。動きの早い民間部門と連携しながら規制上の解決策を決定していくことが、物事を前進させるための最良の道だ

英仮想通貨投資顧問企業コインシェアーズの投資ストラテジスト ジェームズ・バターフィル氏

CBDCがビットコインなどの暗号資産に取って代わる可能性は非常に低いと考えている。これは主にビットコインが分散型台帳、ピアツーピアシステムであることに起因する。特にビットコインは供給量を変更することができないあらかじめ決められた金融政策を持っているため、CBDCと比較して非主権的な価値の貯蔵庫としての魅力がはるかに高い。

CBDCのコンセプトは2020年後半にかなりの注目を集めた。2021年には詳細が明らかになるにつれて、誇大広告や混乱が増えると予想している。

克服すべき課題は相当なものがある。例えばCBDCを発行する中央銀行は、マネーロンダリング防止とテロ資金供与対策の要件を確実に満たすだけでなく、他の監督・税制の公共政策上の要件も満たさなければならない。一部の提案では、中央銀行が銀行などの規制対象事業体が接続できるインターフェイスを備えた中核台帳を管理することが挙げられている。これではピア・ツー・ピア台帳システムが持つべき約束された効率性の向上はほとんど達成されていない。また、中央銀行がウォレット・プロバイダーになれば、商業銀行を空洞化させ、小売預金のような安価で安定した資金源を奪うリスクがある。金融危機的などが起こると顧客は中央銀行がバックアップするウォレットの安全性を好むため、弱小銀行では取りつけ騒ぎがおきかねない。さらにCBDCの台帳は分散型ではなく中央集権型になるため、安全性・信頼性の高いものになるかはわからない。

これらの問題の多くは解決が難しく時間のかかるものであるため、CBDCはすぐには登場しないだろう。デジタル通貨が提供する効率性の向上は期待でるものの、ビットコインのようなデジタル資産が提供する資産多様化のメリットや価値保存機能を提供するものではなく、基礎となる法定通貨に近いものだ。

ビットコイン開発にもかかわるプログラミング・ブロックチェーン講師 ジミー・ソング氏

(CBDCは)政府に監視されることを嫌う人が増えることを除けば、暗号通貨にそれほど影響はないと思う。CBDCは中央銀行が現状以上に私たちの金融生活をコントロールするための手段だからだ。中国は非常に権威主義的なので最初のCBDC推進国の一つになるのではないか。各国民に中央銀行の直接銀行口座を与えるのではないかと想像している。

仮想通貨イーサリアム共同創業者・米コンセンシス創業者 ジョセフ・ルービン氏

コンセンシスが2020年1月の世界経済フォーラムで『中央銀行とデジタルマネーの未来』という白書を発表した背景には、マネーの仕組みが劇的に変化しつつあることがあった。それ以来起こった新型コロナの大流行は、マネーの動き方を加速的に変えた。例えば企業によって発行されたステーブルコインは今年に入ってから2倍近くに増え、現在の時価総額は230億ドルに達している。

数年前から続くCDBCの動きは本当に興味深い。中国のDC/EPは、既に4つの主要都市で実証実験が行われた。また今年はバハマとカンボジアは金融インフラにデジタル通貨を導入した最初の国となった。11月には欧州中央銀行のクリスティーヌ・ラガルド総裁が、数年以内にデジタル通貨を作成する可能性があることを示唆し、政策立案者は2021年半ば頃にその準備をするかどうかを決定する意向を示している。コンセンシスでも今年の第3四半期に香港通貨管理局、ソシエテジェネラル・フォージ、タイ銀行、オーストラリア準備銀行との4つのCBDCプロジェクトを発表した。

マネーの動き方が急速に進歩している時代には、お互いに連携して取引を行うためのシステムが必要だ。世界各国でCBDCを設立する動機は異なり中央銀行間でリザーブ通貨の位置をめぐって競争も起こるだろうが、私個人としてはブロックチェーンベースのシステムが、最終的には信頼性の高いコラボレーションを増やすための基盤になり得ると信じている。

Hedera Hashgraph及びSwirlds Inc.共同創業者兼CEO マンス・ハーモン氏

CBDCは本質的には暗号通貨から概念の多くを借りていることから暗号通貨業界を検証するものだ。中央銀行によるデジタル通貨は暗号通貨と分散型台帳業界にスポットライトを当て続けることになる。だがCBDCと暗号通貨の間には、根本的な違いがある。それはCBDCが集権的であり、暗号通貨のもつ公的・透明性を備えていないことだ。

2021年には、小国が最初のデジタル通貨を発行するケースが出てくるだろう。その場合はおそらく(ビットコインのようなパブリックチェーンではなく)プライベートな台帳がベースとなるだろう。また、一歩先を進んでいるデジタル人民元はさらに進歩するだろう。

アーンスト・アンド・ヤング ブロックチェーン技術主幹兼グローバルイノベーションリーダー ポール・ブロディ氏

CBDCに関しては中国が既にリードしており当面はその地位を維持することになるだろう。中国は明確な政策目標とロードマップを持ってDCEPの展開をしているからだ。

また注目すべきはイーサリアム上のスマートコントラクト上でステーブルコインを使う実験も進行中であることだ。イングランド銀行がCBDCの規制フレームワークを構築することを決定したことも良いことだ。CBDCの影響を理解し管理するために良いステップだ。

Bitcoin.com代表 ロジャー・バー氏

次の大きなうねりがどこからくるかわからないのが(暗号通貨)の世界の面白さだ。次の革新はどこかの国民国家から来るかもしれないし、フェイスブックからかもしれない。あるいはサトシ・ナカモトのような一匹狼からくるかもしれない。一つだけ確かなのは、イノベーションのペースは加速していくというだ。

米ブロックストリーム社 チーフストラテジーオフィサー サムソン・モウ氏

CBDCはビットコインと競合しない。ステーブルコインや商業銀行と競合するものだ。

中国は間違いなくCBDCの開発をリードしている。他国もすぐに追随しようとするだろう。また、バミューダ政府がリキッドネットワーク(※ブロックストリーム社が開発したサイドチェーン・ソリューション)で発行された経済浮揚目的のトークンを実験しているがこれは非常に面白い動きだ。

世界経済フォーラム  ブロックチェーン及び分散型台帳技術部門代表 シーラ・ウォーレン氏

2020年はデジタル通貨への関心が強まった一年だった。特に規制当局やエコノミストがデジタル通貨を注視しはじめたのが大きい。これにより暗号通貨産業が「正常化」に向けて動き出した。今年はまた実証実験が進んだ。バミューダ、東カリブ海諸国、カンボジアでの興味深い成果もあり、新興国が先頭に立っている。もちろん中国も引き続き注目すべき国だ。

ブロックチェーンID管理システムのCivic社CEO ヴィニー・リンガム

初期は中国がCBDCでリードしていくだろう。中国が人民元を世界の基軸通貨にしたいと考えていることは明らかだ。だから将来米中は王座をかけて決闘することになるだろう。

ただCBDCは暗号通貨とは根本的に異なるものだ。ビットコインの肝は、それが非政治的であるということだ。この点はビットコインを利用する多くの人々にとって重要なことだ。ユーザーはビットコインが国家による操作の対象になることを望んでいない。一方で政府は本来非政治的であることはできない。CBDCと暗号通貨は共存するかもしれないが、決して一緒にはならない。

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