FRB議長によるリブラへの「深刻な」懸念表明、トランプ大統領のアンチ仮想通貨発言、そしてビットポイントのハッキングと12日の仮想通貨相場はまさに「トリプルパンチ」に見舞われた。しかし、執筆時点(7月12日17時30分)では、ビットコインなど主要仮想通貨への影響は限定的だ。一連のビッグニュースを国内の仮想通貨アナリストはどのように見ているのだろうか?
(出典:Coin360)
FRB議長、トランプ、ハッキング
「トリプルパンチですよね」。
マネックス仮想通貨研究所の所長である大槻奈那(おおつきなな)氏は、一連のニュースについて上記のように表現。パウエル発言から弱含んでいた市場にトランプ発言、ビットポイントのハッキングが起きた点を指摘した。
ただ大槻氏は、「最近の市場は、ハッキングよりも、実用性の方でよく動くので、既にリブラ関連の2つのネガティブなニュースほどの影響はないかもしれない」とみている。
また今回のハッキングの救いとして、「今後はホットウォレットに置かれている資金については同種同等の資産を保有しなければならないとの規制が施行されるため、今後は同様の事案には対応できる」と指摘。「将来にわたって市場のシステム全体を揺るがすほどの影響ではないかもしれない」と続けた。
先月、改正資金決済法と改正金融商品取引法が成立。顧客資産をホットウォレットなどで管理する場合は、見合いの弁済原資(同種・同量の暗号資産)を保持することを義務付けた。
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FXcoinのシニアストラテジスト松田康生氏も、この点に同調する。
「ハッキングに関しては必ずしも売り材料とは限らない。今回の様に直ちに状況が公表され、日本のルールに基づいて全額補償されると示されれば5月のBinanceの時の様に買い材料にすらなり得る」
今年5月、仮想通貨取引所大手バイナンスで約44億円分のビットコインが引き出されたが、バイナンスは直後に保険のために用意されたSAFUファンドがあり損失負担には十分だと発表。その後、相場は上昇を続けた。
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松田氏は、前提として4月のはじめの50万円から150万円まで急騰した相場を支えたのは、以下の要因が大きかったと分析。最もインパクトの大きかった②の要因が米中首脳会談後に剥落したため反落が起きたが、まだ①と③が残っているため市場は底堅さを見せていると解説した。
- 3月15日の仮想通貨(暗号資産)関連法案の提出と25日のディーカレット登録認可やTAOTAOの口座開設受付など国内交換業を取り巻く環境の好転
- 5月の米中貿易戦争激化による中国からの逃避フロー
- 5月の終わり頃から米利下げ観測が急浮上したことによる代替アセットとしての買い
また、10日にFRB議長はリブラ懸念発言以外に7月の利下げを決定的なものにする発言をしており、「7月末に実際に利下げが行われるまではサポート材料となる」と予想。さらに12日のトランプ大統領の発言に関しても、ネガティブ材料にならないという見方を示した。
「米財政政策や金融政策に疑問を持つ人がBTCのサポーターになる訳で、そうした人は大統領がアンチな発言をしても耳を貸さないだろう。むしろ、アンチトランプ層にBTCへ興味を持たせるアナウンスメント効果があるかもしれない」
新規ユーザーへの悪影響と金融庁の信用リスク
ただ松田氏は、ビットポイントのハッキングについて「これから仮想通貨取引を始めようとしていた国内投資家に与える心理的影響は未知数」であることを警戒。「今後は上昇のペースが緩やかになる可能性があろう」と予想した。
クリプトキャピタルのチーフ・リサーチ・オフィサーである日枝千代氏も、一般利用者への悪影響を懸念する。
日枝氏は、これまでの同社の操作性、ユーザーサポート、経営基盤などの観点から「ハッキングによるビットポイントの暗号資産流出に大きな驚きはない」と発言。「流出金額が他社の流出に比べ小さいため、同社の信用不安が急速に高まることもないだろう」と述べた。
ただ、ビットポイントより金融当局への信用リスクが高まるだろうと指摘した。
「同社は金融庁による業務改善命令が6月28日に解除されたばかりだ。改善内容の一つにシステムリスク管理体制の構築があったが、結果が伴っていないことが露呈した」
その上で同氏は、「暗号資産のハッキングリスクは、金融当局による指導があっても起きてしまう」ことが明白になり、「たとえ登録業者であっても資産保全の点で暗号資産はリスクが高いとの印象を一般の方々に与えた点では業界全体にとってもバッドニュース」と総括した。
今後、仮想通貨相場の注目点としては7月のFOMCでの利下げ確認の他、新たな規制に基づいて損失額の全額補償体制があることをユーザーに示せる点になるであろう。加えて大槻氏は、来週予定されているリブラ関連の公聴会の動向も注視している。