先週金曜日、参議院本会議で改正資金決済法と改正金融商品取引法が可決され、成立した。コインテレグラフ日本版が関係者に取材したところ「機関投資家の参入を促す」などと歓迎する見方がある一方で、新たに規制対象となるカストディアンの定義をめぐってまだ不透明感があるという指摘が出た。また、今後の焦点として法律のより具体的な実施方法を決める内閣府令などを注視する関係者もいる。

改正資金決済法と改正金融商品取引法の概要は以下の通りとなっている。3月15日に閣議決定した法案の内容と変更点はない。

改正資金決済法

  • G20など国際会議での動向に従い「仮想通貨」から「暗号資産」に名称を変更。
  • 仮想通貨(暗号資産)交換業者に対して、顧客の仮想通貨を原則としてコールドウォレットなど信頼性の高い方法で管理することを義務付け。ホットウォレットなどそれ以外の方法で管理する場合は、見合いの弁済原資(同種・同量の暗号資産)を保持することを義務付け。
  • 仮想通貨交換業者に対し、広告・勧誘規制を整備
  • 仮想通貨の管理のみを行う業者(カストディ業者)に対し、仮想通貨交換業規制のうち仮想通貨の管理に関する規制を適用

改正金融商品取引法

  • 仮想通貨を用いた証拠金取引はFXと同じように金融商品取引法上の規制対象。
  • 収益分配などが見込まれ投資とみなせるICOについては金融商品取引規制の対象。
  • 交換業者による虚偽表示や誇大広告の禁止、風説の流布・価格操作等の不正行為の禁止。

この他、匿名通貨を禁止する規定はないが、交換業者が取り扱う仮想通貨の変更を事後届出制から事前届出制にしてチェックする体制を整えた。アンダーソン・毛利・友常法律事務所の河合健弁護士は、コインテレグラフ日本版の取材に対して「どのような暗号資産の取扱が認められるかは、JVCEA(日本仮想通貨交換業協会)の自主規制規則が重要な役割を果たす」と指摘した。

「機関投資家の参入に期待」

金融庁に登録されている仮想通貨取引所からは今回の法改正を歓迎する声が多い。リキッド(Liquid)「率直に素晴らしい」とし次のように述べた。

「改正された内容によって、顧客保護がさらに追求されておりますので、仮想通貨関連規制の面で日本がさらに世界をリードする立場になっていけると思いますし、機関投資家の参入も増えてくるのではないかと考えています。」

またリキッドは、STO(セキュリティ・トークン・オファリング)など新たな取り組みも可能になる中、仮想通貨と既存の金融の境目がどんどんオーバラップしてくるのではないかとみている。傘下の仮想通貨取引所QUOINEの代表取締役Head of CEO Officeである紺野勝弥氏は、以前コインテレグラフ日本版に対してヘッジファンドやグローバルな投資銀行などが参入しやすい市場としてセキュリティートークン市場に期待していると話していた

また、ビットポイントジャパンもコインテレグラフ日本版の取材に対して「非常に前向きに受け止めている」と回答。ルールが明確になることで「機関投資家の参入も期待され市場拡大につながる」と述べた。

その上で2020年4月の施行日まで「ウォレット管理体制の見直し、法定通貨の信託、そして第1種金融商品取引業の取得」を考えていることを明かした。

一方ビットポイントは、課題としてはホットウォレットの管理をあげた。

「課題については、顧客資産をコールドウォレットで管理する必要があり、他方で顧客の利便性を考えた場合には一部はホットウォレットも必要になる。ここについてオペレーション体制の強化と一部は自己でホットウォレットに入れる必要があると考えている。」

今年1月に金融庁に登録されたコインチェックは、今回の法改正により規制の対象や基準が明確化することで仮想通貨業界の健全な発展につながるのではないかと述べる一方、次のように述べた。

「仮想通貨の名称が暗号資産に変わることによって、仮想通貨のもつ決済手段としての機能が後退することも懸念される」

その上でコインチェックは「そうならぬよう、業界として努力していきたいと考えている」と話した。

全体的にコインチェックにとって今回の法改正は「想定の範囲内」。ただ「今後、出される内閣府令等を見ながらどのように対応していくか具体的に検討していく」と述べた。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所の河合弁護士も、内閣府令等を注視。コインテレグラフ日本版の取材に対して次のように述べた。

「具体的な内容は内閣府令等に委ねられている部分が多いので、今後、内閣府令やガイドライン等においてどのように規制が具体化されていくかが重要と考えています。」

曖昧な部分も

ウォレット事業者にとっては曖昧な部分が残る規制となっている。

メードインジャパンのモバイルウォレットとハードウェアウォレットを開発するAndGoは、コインテレグラフ日本版に対して次のように答えた。

「今回の規制も細部や解釈は曖昧なところが多く、ウォレット事業者はグレーな部分に関しては今後も個別に金融庁にお伺いを立てなければならないとみています。

AndGoは今年の第2四半期に商品をローンチする予定だが、商品サービス設計で規制を常に意識しているという。

法改正では、仮想通貨の管理のみを行う業者(カストディ業者)が新たに規制されることになる。「ウォレット事業者には2種類あり、取引所と同様に、顧客資産を移動できるウォレット、いわゆるカストディアルウォレットは取引所のように登録が必要」である一方、「顧客の秘密鍵にタッチしないノンカストディアルウォレットは、今回の規制対象外」(AndGo担当者)。AndGoは、後者の方なので基本的には今回の規制の影響は受けない。

ただ、「マルチシグのように複数ある秘密鍵の一つを事業者が預かる場合」や「顧客が設定したパスワードで暗号化した秘密鍵を預かる場合」は、事業者の一存では資産移動できない。この場合は、どのように規制されるのか曖昧だという。

河合弁護士も規制対象となるウォレットのタイプについて「法文上は『他人のために暗号資産の管理をすること』と規定されているに過ぎないので、必ずしも明らかではない」と指摘。次のように整理した。

「例えば、スマホアプリとして提供されるウォレットであって、秘密鍵をユーザーのみが保有するウォレットでは、アプリ提供者は暗号資産を移動させることはできないため、『他人のために暗号資産の管理をすること』には該当しないと考えられます。一方、業者の側で秘密鍵を管理し、ユーザーから預かった暗号資産を事実上移転できるのであれば、上記定義に該当すると考えられます」

一方で問題となるのは、マルチシグの2 of 3(鍵を3つに分散しアクセスに2つ以上を必要とする場合)(河合弁護士)。ただ河合弁護士は、「今後のガイドラインで一定程度明確化が図られることになる」と述べた。

「業界の数年先の技術を見据えてサービス設計開発する事業者と、世に出て普及が進み始めた数年前にリリースされた技術やサービスを規制していく当局では、見ているもの、関心の的が違う」

AndGoの担当者は、技術発展のスピードと規制のスピードとのギャップについて率直に語った。法改正が決まった先週金曜日、投げ銭やチップボット系のサービスが続々とサービス終了のアナウンスを出したことに対しても「一時代の終わりを感じだ」という。

一方で、投資銀行やヘッジファンドなど機関投資家にとっては新たな時代の幕開けになるだろう。利用者や投資家の保護のためにルール整備を進める一方で、仮想通貨業界にとって失ってはいけないものを守る。今回の改正資金決済法と改正金融商品取引法、G20をはじめとした国際会議で規制がどのように形作られていくのか、コインテレグラフ日本版は注視していく。