中国の国営商業銀行が中国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)であるデジタル人民元用に設計されたデジタルウォレットのテストを行っていると報じられた。

ロイター通信が5日に報じたところによると、深センを含む複数の都市にある国営銀行の数人の従業員が、デジタル人民元の送金や支払いのためのウォレットアプリをテストしているという。報道は中国の国営新聞「21世紀ビジネスヘラルド」が最初に報じた。

今回の開発は中国が世界で先行するCBDC導入に向け、中国人民銀行(PBoC)が設定した重要なマイルストーンの一つになっている。3日には、PBoCは中国が2020年下半期にデジタル人民元の開発を最重要事項として積極的に推進すべきとの姿勢を示したと報じられている。

中国は仮想通貨の規制面では、最も厳しい国の一つだが、CBDCの開発に関しては世界をリードしている。実証実験を着実に進めており、4月には深センや成都、蘇州、雄安の4都市で試験運用に成功。2022年開催の北京オリンピックでも試験導入すると報じられている。

また、PBoCはデジタル人民元を開発することで、アリババの「支付宝(アリペイ)」や騰訊(テンセント)の「微信支付(ウィーチャットペイ)」といった大手テック企業のデジタル決済分野を脅かそうとしていることが報じられている

報道では人民銀の動きに詳しい香港金融管理局(HKMA)幹部の声として「リテール(個人向け)決済市場はアリババとテンセントの寡占状態で、銀行は役割が果たせていない」との声を紹介。人民銀行が銀行が公平に競争できるような場を作ろうと計画しているという。

フィナンシャルタイムズによると、アリペイ運営のアント・フィナンシャル幹部は同社とともにテンセントがデジタル人民元に関して「人民銀と議論をしている」ことを公表。人民銀への協力姿勢を示している。

米ブルッキングス研究所によると、アリペイはデジタル人民元の代理発行人として関連する複数の特許を出願したことがわかっている。

2022年五輪に向けて着々と

今年4月、中国人民銀行のデジタル通貨担当者は、2022年に開催される北京オリンピックでデジタル通貨が使えるようになるとの見通しを示している

デジタル通貨のテストは着々と進められている。今年4月の報道によれば、中国が開発したデジタル人民元が、中国のスターバックやマクドナルドなどでテストされているという。中国・河北省の雄安新区でのデジタル人民元のテストに向けた会合に、スターバックス、マクドナルド、サブウェイ、ユニオンペイやJD.Comの無人スーパーマーケット、地下鉄、書店などが参加していた。

また5月から中国の蘇州市の職員の交通費の50%がデジタル通貨で支払われることになるとの報道も出ている。蘇州市相城区で中央銀行によるデジタル通貨電子決済(DCEP)のパイロット地域となる。メディアが入手した公式文書によれば、政府機関などがデジタル通貨配布の契約に署名し、すべての職員にデジタルウォレットを配布し、5月分の交通費からデジタル通貨を配布する。

動画投稿大手や配車サービスも

7月8日には、デジタル人民元プロジェクトに大手食品配送プラットフォームと動画共有サイトが参加したこともわかった

現地報道によれば、参加したのは北京拠点で2億4000万人以上の会員に食品配送を手がける「メイチュアン・ディアンピン(美団点評)」と中国最大級の動画共有サイト「ビリビリ(哔哩哔哩)」。両者はデジタル人民元プロジェクトに関与する多くの銀行パートナーシップを結んだという。

また同月には、タクシーの配車サービスを手掛ける中国の滴滴出行(ディディ)が、デジタル人民元プロジェクトに参画した。ディディ乗車時におけるデジタル人民元支払いが可能にする狙いがある。ディディはデジタル人民元の試験的な運用を政府の基準や安全面を考慮した上で行うと述べた。

ディディは、中国版ウーバーとして知られる。日本を含むアジア、ラテンアメリカ、オーストラリアで5億5000万人のユーザーを抱える。タクシーの配車サービスの他、デリバリーも手掛けている。

翻訳・編集 コインテレグラフジャパン