規制順守を目指したモバイル版の仮想通貨ウォレット開発を手掛けるクールビックス(CoolBitX)は、15日、FATF(金融活動作業部会)が定めるトラベルルールの遵守に向けた技術の導入に向けて、日本の複数の取引所と覚書を交わしたと発表した。コインテレグラフ日本版に共有されたプレスリリースから明らかになった。

FATF規制順守に必要な技術

クールビックスによると、覚書(MOU)を交わしたのは「SBI VC、コインチェック、ビットポイントとその他の匿名の取引所」。取引所はトラベルルールの遵守に向け、顧客データを共有するための暗号化されたポータルとして機能するAPI「シグナ・ブリッジ(Sygna Bridge)」の「導入開始もしくは導入検討開始」をする。

シグナ・ブリッジを導入する取引所集団は、「シグナ・アライアンス」と呼ばれており、韓国のビットソニック、台湾のマイコイン、台湾のビットプロなどがすでに参加している。覚書にサインした日本の匿名の取引所は1社であり、金融庁に登録されている。他にも複数の金融庁登録済みの取引所と交渉しているという。

トラベルルールとは、今年6月にFATFがVASP(世界中の取引所やウォレット業社など仮想通貨サービス事業者)に対して課したルール。マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与対策強化のため、VASPに対して取引に関する顧客情報の収集と送付、VASP間での共有を要求する。ただ、技術面などから課題が指摘されていた。

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コインテレグラフ日本版の取材に答えたクールビックスのマイケル・オウCEOは、シグナ・ブリッジがFATFのトラベルルールがもたらす2つの問題を解決すると強調した。

「(FATFのトラベルルールを遵守する上で)一番難しいのは、カウンターパーティーとなるVASPがどこか特定することだ。仮想通貨の送信先のアドレスからだけではどのVASPに送金するのか特定することが難しい。次の問題は、顧客のプライバシーを侵害しないで顧客情報を安全な方法で共有することだ。」

オウ氏によると、シグナ・ブリッジAPIは、仮想通貨業界にとってのSWIFT(国際銀行間通信協会)として機能するようにデザインされている。SWIFTの「SWIFTコード」と同じように、シグナ・ブリッジでは利用者が「VASPコード」を入力。カウンターパーティーとなるVASP特定につなげる。また、利用者が取引所のリストから送金先の取引所を選ぶ方法もある。

一方、受取手となるVASPは、取引が成立する前に送金先のアドレスがブラックリストに入っているかどうかチェックできるようになる。

SBIホールディングスの北尾吉孝社長は、「SBI VCはシグナ・アライアンスに参加する最初のVASPの1社になれて誇りに思う」とし、次のように続けた。

シグナ・ブリッジは、我々の規制順守の努力における新たな大きな一歩となる。これによってシグナ・アライアンスのメンバー間で、円滑で効率の良いKYC(顧客確認)情報の共有ができるようになる」

SBI VCは、2018年にクールビックスが開発した最初のウォレット「クールウォレットS」を採用した

日本の仮想通貨版SWIFTとの関係は?

7月、日本の財務省・金融庁がFATFの規制順守に向けて仮想通貨版のSWIFTを創設する計画であると報じられた

オウ氏は、この報道について独自で関係者から話を聞いたとし、「日本の政府自体が解決策を出すわけではなく、民間企業に対してトラベルルールの解決策を導き出すように働きかけたというのが正しいメッセージだと思う」と話した。

その上でオウ氏は、金融庁とは協議を続けているとしつつも「我々が彼らの目指す仮想通貨版SWIFTだと言う立場にはいない」と述べた。