匿名仮想通貨ジーキャッシュ(ZEC)を開発するエレクトリック・コイン・カンパニーのズーコ・ウィルコックスCEOは26日、渋谷にあるブロックチェーン特化のコワーキングスペースNeutrinoで、ジーキャッシュを上場させることで生まれる金融庁にとってのメリットについて解説した。
Zcash(ジーキャッシュ)
ジーキャッシュが上場している日本の取引所は現在、存在しない。昨年5月、唯一ジーキャッシュやモネロなど匿名通貨を扱っていたコインチェックが上場廃止を決定した。金融庁は、今月15日に閣議決定された改正案で、匿名通貨などを念頭に「移転記録が公開されずマネロンに利用されやすいなど問題がある暗号資産」が登場したことを受け、「交換業者が取り扱う暗号資産の変更を事前届出とし、問題がないかチェックする仕組み」を整備すると発表。
また、金融庁公認の自主規制団体である日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)も移転記録の追跡が困難な「匿名仮想通貨」については原則禁止する方針を打ち出している。
一方、米国でジーキャッシュは、ニューヨーク州に拠点を持つコインベースとジェミナイに上場。米国以外でもバイナンスなどに上場している。
ジーキャッシュは「ゼロ知識証明」と呼ばれる内容を明らかにせずに取引の正当性を検証する仕組みを採用。ビットコインに比べ取引の秘匿性を高く保つことから「ポケットの中のスイス銀行口座」と呼ばれる。その匿名性の高さは、NSA(米国家安全保障局)を告発したエドワード・スノーデン氏も「ビットコインの代替として最も興味深い」と高く評価するほどだ。
例えば、下記の表のように取引記録や取引額についての閲覧について制限がかかる。
(ズーコ・ウィルコックスCEOのプレゼン資料 最上段の取引の受信者は、タイムスタンプの他、受信者のアドレスと取引量、メモのみ閲覧可能)
金融庁にもメリットあり?
取引記録の閲覧が大幅に制限されることからマネーロンダリング(資金洗浄)に利用されやすいのではないか、というのが規制当局の懸念点だ。だが、ウィルコックスCEOは、実際は、規制当局にとってメリットがあると主張。ビットコインよりメリットがあるのではないかと述べた。
(ズーコ・ウィルコックスCEOのプレゼン資料 ①ビットコイン上場のケース②ジーキャッシュが海外取引所に上場するケース③ジーキャッシュが国内取引所に上場するケース ③の場合、金融庁は全ての面で満足するはずという主張だ)
ビットコインが上場する場合、国内の規制当局である金融庁、海外の規制当局、ネット上の全ての人が取引記録の閲覧ができる。ウィルコックスCEOによると、金融庁は、海外の規制当局、ネット上の全ての人が取引記録の閲覧ができる点に満足しない。
また、ジーキャッシュがバイナンスなど海外取引所に上場する場合、誰でも見られなくなるのは良い点だが、海外の規制当局が監視できるのは面白くない。さらに、金融庁自らが見ることは当然できなくなる。
しかし、もし国内で上場する場合、金融庁だけが取引記録の閲覧が可能になる。ウィルコックス氏は、「だから私は日本の政府は(例えば)コインチェックにジーキャッシュをサポートしてほしいと思うはずだ」と主張した。
ウィルコックス氏は、今回の来日で金融庁を訪問するかどうかコメントは避けたものの、ジーキャッシュ上場に向けて金融庁にメリットを働きかけいきたいという考えを明らかにした。
ウィルコックスCEOによると、もちろんこの表は論点を単純化したものだが、基本的には同じような戦略でニューヨーク州の規制当局を説得した。加えて、ロシアなど外国政府が特定の取引を閲覧し、介入できないことも米当局にとって大きな利点だったと話した。
日本で金融プライバシーへの意識はいつ高まるか?
「我々のミッションは、経済の自由と機会の重要性についてすべての人々を啓蒙することだ。そしてそのためには新しい暗号化技術が必要だ」(ウィルコックス氏)。
誰からも自らの経済取引を監視されない権利であるプライバシー。この重要性について頭では分かってはいても、まだ身を持って体験できていないというのがほとんどのケースではないだろうか。
「日本人が金融プライバシーの重要性について気づくきっかけは何になると思うか?」という質問に対して、ウィルコックス氏は、米国におけるフェイスブックのプライバシー事件を例にあげた。
「フェイスブックが保管していたアメリカ人のデーターはロシア人ハッカーによって不当に利用され、選挙介入への手段として使われた。それ以来、アメリカ人は、もっとプライバシーについて注意深く考えるようになった」
フェイスブックは、2018年、個人情報の流出問題にも揺れた。英データ分析会社ケンブリッジ・アナリティカがフェイスブックの最大8700万人分の利用者データを使い、2016年の米大統領選とブレグジット(英国の欧州連合離脱)をめぐる国民投票の結果に影響を与えたとされ、スキャンダルになった。
ウィルコックス氏は、日本人のプライバシー意識が高まるきっかけとして、次のような事態を予想した。
「日本人のプライバシーが日本社会や日本政府ではなく、犯罪者や外国政府の手に渡った時だろう」
外国政府の例としてウィルコックス氏が上げたのは、中国や北朝鮮だ。
マネーに対するプライバシー意識の高まりーー。それはじわじわと高まるのではなく、何かの事件をきっかけに一気に高まるのかもしれない。その時、匿名性の高い仮想通貨に対する需要も高まるだろう。そしてそれは、投機や決済手段以外にも仮想通貨に重要な役割があることに気づくきっかけにもなるかもしれない。