仮想通貨取引所バイナンスは今月22日、韓国のメッセージアプリ大手「カカオ」が主導するブロックチェーンコンソーシアム「クレイトン」に参加することを表明した

カカオは日本でのシェアは低いものの、日本のLINEと比類するアジアを代表するメッセージアプリ企業だ。同社が進めるブロックチェーン戦略とは何か。そしてLINEとのブロックチェーン戦略の違いは何か。クレイトン開発企業や専門家に取材を行った。

クレイトンの概要

ブロックチェーン「クレイトン」は、カカオの子会社グラウンドXが開発した独自ブロックチェーンだ。クレイトン上で様々な分散型アプリ(DApp、クレイトンではBAppと呼んでいる)やソリューションを提供することを目指している。ブロックチェーン上のネイティブトークンとして、独自仮想通貨「クレイ」も発行している。

ゲームや金融だけでなく、ヘルスケアや消費関連、ライフスタイルといった幅広いアプリの提供を目指している。

出典:クレイトンHP

クレイトンは今年6月にメインネットを立ち上げた。クレイトンは「モバイルアプリケーションのように高速応答時間を実現するために、最終的に1秒のブロック生成時間を実現した」と説明している。同時に4,000 TPS(Transaction Per Second)の高いパフォーマンスを持っているという。

“Make Blockchain Invisible”(ブロックチェーンを不可視に)。クレイトンを開発するカカオ子会社グラウンドXのヘッド・オブ・テクノロジーのサンミン・ソ氏は、ブロックチェーンを見えないようにすることがクレイトンの目標だと話す。現在は、ブロックチェーンのメジャーアップデートを年内に控えている状況だという。

今後のロードマップによれば、19年は開発者向けのツールキットの開発といった技術的インフラ構築に注力し、2020年にユーザーベースの構築を進めていく計画だ。

日本のgumiや韓国大手企業などが参加

クレイトンの運営は、クレイトンのブロックチェーンを活用する企業が参加するコンソーシアム「ガバナンス協議会」が推進する仕組みとなっている(仮想通貨リブラのリブラ協会のようなものだ)。

出典:クレイトンHP

日本からモバイルゲーム開発企業のgumiやココネが参加。ほかにはLGエレクトロニクスや人気ゲームPUBGといった韓国企業が参加。ハッシュキーといった中国企業、またフィリピンのユニオンバンク、タイのFSNといった東南アジア企業も並ぶ。

今月22日には仮想通貨取引所大手のバイナンスが協議会メンバーとして参画したばかりだ。

現在名前が公表されているのは24社だが、非公表のものを含めると約30社が協議会メンバーとなっている。

ガバナンス協議会は韓国企業を軸にアジアを中心とした顔ぶれとなっている。クレイトンは協議会の拡大を目指しており、中東地域にも目線をむけているという。

「クレイトンフォン」でサムスンとコラボ

クレイトンが大きく注目されたのは、今年9月のウォールストリートジャーナルのニュースだ。サムスンの最新スマートフォン「ギャラクシー Note10」にブロックチェーン対応モデルを投入するとして、そのブロックチェーンとしてカカオの「クレイトン」が選ばれた。

サムスンのクレイトンフォンは、ウォレット機能が付いているほか、Dapps(分散型アプリ)をネイティブサポートする。

グラウンドXのソ氏は「サムスンのフラッグシップモデルを使っていることは大きな意義だ」と強調。サムスン自身がブロックチェーンに注力している段階だとして、今後も協力していく考えを示唆した。

既に韓国国内限定で展開している。Dappsのダウンロード数は「正確な数字はまだわからないが、増加傾向を見せている」と話す。

【関連記事:「サムスンのブロックチェーンスマホ参入はアップルやファーウェイも呼び込む」韓国名門大教授

独自通貨「クレイ」

クレイトンのネイティブ通貨「クレイ」が存在する。クレイトンが形成するトークン経済圏の基軸通貨となるものだ。

現在は、インドネシア、シンガポール仮想通貨取引所アップビットで上場している。アップビットはカカオ傘下の取引所だ。

グラウンドXのソ氏によれば、今後パートナー企業とともにクレイのグローバル展開を進めていく考えだ。

「クレイは、ビットコインやイーサリアムのように有名なコインではない。韓国では有名だが、国外では無名だ。そのため、他の企業やサービスにクレイをサポートしてもらうよう交渉するのは難しい。しかしサムスンのような巨大企業と組めたことは大きい。今後グローバル展開も強化したい」

また前述のようにバイナンスがクレイトンのガバナンス協議会に入った。10月25日には仮想通貨取引所大手のOKExやコインワンといった取引所も「パートナー」に加わっている

現在はまだこれらの取引所にリストされていないが、将来的に上場する可能性も出てくるだろう。

「日本は重要な市場」

カカオは日本進出に失敗している。メッセージアプリとしては「LINE」が日本で圧倒的なシェアを持つ。カカオにとっては、ブロックチェーン戦略で日本企業を取り込む戦略だ。

グランドXのマーケティング担当者は、日本企業がクレイトンに参加するメリットがあると強調する。

「カカオは韓国で圧倒的なシェアを持つメッセージアプリ。日本企業にとっても韓国のユーザーにアクセスできるメリットがある」

またクレイトンのコンソーシアムは韓国企業だけでなく、フィリピンやタイといった東南アジアの企業も含んでいる。「(日本企業にとって)韓国だけでなく、東南アジアのマーケットにも進出する機会にもなる」と付け加える。

さらに日本の仮想通貨規制が整備されていることも、カカオから見ると魅力的だという。

「日本は市場規模で重要だ。特に韓国と比べてブロックチェーンや仮想通貨に関する規制が明確な規制がある。そのため、韓国よりも仮想通貨やブロックチェーンに関するビジネスを始めるのは容易なはずだ」(グラウンドXのソ氏)

カカオ VS LINE ブロックチェーン戦略の違い

「カカオのブロックチェーン戦略は海外展開の失敗を挽回するためのものだ」

ブロックチェーン分析企業Not For Saleは、カカオのブロックチェーン戦略をこう分析する。Not For Saleは、ブロックチェーンのビジネス展開の分析や支援を手掛ける企業だ。

「日本や東南アジアは、カカオが進出しようとした失敗した地域」(Not For Sale)。このような地域の企業をクレイトンのガバナンス協議会に参加してもらい、新しいユーザーをカカオのエコシステムに加えようという狙いだ。

一方、「LINEの方はカカオに比べて海外進出に成功している」と、Not For Saleは分析する。LINEはタイや台湾、インドネシアでは一定のユーザーを獲得している。

LINEのブロックチェーン導入戦略には、カカオとは別の狙いがあるとNot For Saleは指摘する。

それが「スーパーアプリ」の推進だ。スーパーアプリとは、1つのアプリ上でニュース、ゲーム、金融サービスなどを完結させるものだ。

「LINEはフィンテック分野に注力し、スーパーアプリ化を推進しているが、スーパーアプリではカカオの方が先行している」

LINEの独自ブロックチェーン「LINKチェーン」とネイティブトークン「LINK」の推進が、グローバルな「スーパーアプリ化」につながるという分析だ。

「LINEが注力するペイメントやフィンテックは、国や地域によって規制が異なる。独自通貨を展開することで、どの国でも使えるLINEエコシステムが構築できるようになる」

LINEでブロックチェーン事業を展開するLVCのコ・ヨンス氏は10月はじめ、東京で開催されたイベントで、サードパーティへのブロックチェーンの提供に乗り出す考えを示している。外部企業との連携では先行しているカカオとどのような競争をしていくかに注目だろう。

【関連記事:LINE 仮想通貨取引所トップ「取扱い仮想通貨は増やしていく」 米国での取引所展開も準備中