韓国で今月、サムスンやLGなど、大手企業がブロックチェーンスマホを発表するという報道が相次いだ。

韓国ではソウル市がブロックチェーンを活用した行政サービスを展開する他、釜山市でも特区を作り、物流や観光など4分野で商用化の実証事業を進めるなど、官民で積極的にブロックチェーン技術の導入を進めている。

ブロックチェースマホが普及すれば、消費者にもブロックチェーンが浸透することが予想される。サムスンなどの大手の参入は普及にどのように影響するのだろうか。

「サムスンが仮想通貨対応スマートフォンを普及させ、対応する仮想通貨が増えれば、アップルやファーウェイも参入してくるだろう」との予測を示すのは韓国高麗大教授で、ブロックチェーン投資研究所所長を務めるソン・インギュ(IK Song)氏だ。

コインテレグラフ日本版はこのほど、ソン氏にブロックチェーンスマホについて取材した。

セキュリティやプライバシーに懸念

--ブロックチェーンスマホ普及の課題はなんでしょうか。

ソン氏:
現在、2つの問題がある。

1つ目は規制の問題だ。今日までの規制当局は(特に最近のFATFの立場)は、仮想通貨の売買には取引の内訳を記録するように求めている。

しかし、当局はスマホユーザーにまで、この義務を負担させるのは容易ではないと考えている。また技術的にもスマートフォンの取引内訳を追跡できるようにしたら、プライバシーという問題が発生してしまう。

サムスン電子のような製造会社の立場からこの問題を解決せずしてスマートフォンを販売するというのは、簡単ではないだろう。

2つ目に、サムスン電子のウォレットがハッキングの被害に遭った場合、責任や補償というセキュリティの問題が発生する。

普及に関しては、政策当局との問題と、セキュリティの問題が解決されなければいけない。

アプリをダウンロードするといった方法は、より大きいハッキングの危険性がある。

一方、ハードウェアで分離する方法は、ハッキングの危険はないが、万が一スマートフォンを紛失した場合にどうやって復旧するのかという問いに対する答えが必要になってくるだろう。

 

--サムスンとカカオのタッグは普及の起爆剤になりうるのでしょうか。

ソン氏:
サムスン電子は携帯電話を製造する企業であり、韓国カカオ傘下「グラウンドX」の独自ブロックチェーン「クレイトン」はイーサリアムを代替するというプラットフォームだ。サムスン電子は製品を売るのが目的で、クレイトンは拡張性を確保したいので、お互いの求めているものが一致した。

両社のタッグはユーザーの確保に非常に有利に作用すると考えられる。


「ユーザーのジレンマを解放」

--ブロックチェーンスマホは韓国国内でどれだけ売上が見込めるのでしょうか。

ソン氏:
消費者の立場から考えると、仮想通貨の秘密鍵管理は常に大きな課題だ。

取引所に預けたり、別でウォレットを購入したり(主にハードウェアウォレット)などの方法があるが、常に不安が伴う。

そのため、サムスン電子のようなところがスマートフォンを通じてウォレットを提供するのであれば、そこに信じて任せるのが現実的に一番楽で安心だと考えられる。

利便性と安全性という2つのジレンマから解放されることになるからだ。

しかし、仮想通貨によってブロックチェーンスマホを購入する需要がどの程度増えるのかは疑問だ。サムスンのスマホが提供するウォレットが対応している仮想通貨の種類が極めて限定的なのが理由として挙げられる。

ただ、今後、サポートする仮想通貨の種類が増加すれば、需要は急速に増えていくだろう。

サムスン電子のスマートフォンで対応する仮想通貨が増えれば、アップルやファーウェイなどもこの事業に飛び込むしかなくなる。

これは仮想通貨が実生活に使用される機会となる、とても肯定的な要素と言える。

しかし、規制の問題、そしてセキュリティーの問題が解決されなければいけないだろう。

※インタビュー内容は一部編集してあります。