Jun 15, 2019

キャッシュレス社会で脅かされる個人の主権 仮想通貨に託される思いとは【令和と仮想通貨 Vol.1】

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最初は投機が主な目的だったようだ。2017年末、ビットコインの史上最高値更新を後押ししたのは、手っ取り早く金儲けをしたい人たちが生み出した熱狂と言われた。そこからバブルは崩壊。ビットコインに「本質的な価値」はなく「次に買う人がより高く買うから価格が上げるだけ」と投資の神様ウォーレン・バフェット氏に痛いところをつかれた

人々は仮想通貨業界から離れ弱気相場が始まった。

あれから1年半。仮想通貨業界は姿を変えて復活しつつある。「投機目的」のレッテルを貼られないよう関係者達が口をそろえるのは、いかに日常生活の中で人々に使われるようになるかが大事という話。多くの交換業者も仮想通貨を決済サービスとして普及させることを目指しているようだ。ちょうど日本はキャッシュレス化推進キャンペーン中だ。多くの企業が決済手段として仮想通貨業界に注目し始めている。「仮想通貨はいつコンビニで使えるようになるの?」。そんな質問もよく聞かれる。

しかし、仮想通貨が戦うべき場所は本当に決済領域でよいのだろうか?ビットコインが戦うべき相手は、本当にVISAやマスターカード、ペイパルなのだろうか?仮にVISAやマスターカードと同じくらいビットコインが使いやすくなったら、人々はビットコインに乗り換えてくれるのか…?

これらの問いに対してNOと答える動きが仮想通貨業界内で起きている。VISAやマスターカードとの真っ向勝負をビットコインに求めない。ビットコインでコーヒーが簡単に買えるようになるのが最終ゴールではない。投機面や決済面での有効性を否定しないが、キャッシュレス化がもたらす問題点の解決にこそ真の仮想通貨の姿を見る人々がいる。

「現金」を取りもどす戦いに向けて準備せよーー。

キャッシュレスとはその名の通り現金をなくす試みだが、キャッシュレス化が進めば進むほど、逆説的に現金の価値が見直される時期が来る。そしてその時、仮想通貨が脚光を浴びる…。矛盾しているように聞こえるかもしれないが、仮想通貨業界では、そんな論調が広がっている。

「現金」を取りもどす戦い

キャッシュレス化が進んだら、人々は「現金ロス」になる。それは、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏が言うように、現金を財布から取り出す間に生まれる「レジでの会話」を懐かしむからかもしれない。また、英国の調査機関が懸念するように、デジタル決済で健康を害する人や貧困層が取り残されるからかもしれない。さらにマイナス金利から逃げ場がなくなるという主張もある。ビットコインのプライバシー強化を目指すジョインマーケット(JoinMarket)の開発者アダム・ギブソン氏は、実際中国では約20年間、預金金利が人工的に抑えられて一般市民にはマイナスになる一方、エリート層に富が流れたと指摘した。

どれも妥当な主張だろう。中でも現金ロスの最たる例として上げられているのは、現金を使うことで誰にも監視されない購買行動ができなくなることだ。全ての資金の流れを解析することを可能にするキャッシュレス化が進めば、匿名性を持った取引ができなくなる

多くの人々が令和時代には「完全なキャッシュレス社会」が実現するだろうと予想している。だが一部の仮想通貨支持者が見ているのは、それに続く「現金への揺り戻し」だ。とはいっても紙幣や硬貨に戻るのではなく、現金をデジタル空間で再現する試みだ。デジタルキャッシュ(デジタル版の現金)もしくはエレクトロニック・キャッシュ(電子版の現金)と呼ばれてきた仮想通貨がその原義に回帰していくというわけだ。

フェーズ1 投機手段としての仮想通貨       ~2018年初頭
フェーズ2 決済手段としての仮想通貨       令和元年    
フェーズ3 デジタルキャッシュとしての仮想通貨  ?   

現金には確かに多くの弱点がある。

「犯罪者に使われやすい」「銀行にとってATMなど管理費が高い」「持ち歩くのが面倒臭い」。キャッシュレス化は、これら現金の問題点を解決する面では理にかなっている。

しかし、我々の生活の中で無意識のうちに現金のもつ匿名性の恩恵を受けている場面はないだろうか。「10ドル札を下ろして、うかうかマリファナを買えなくなる」。仮想通貨取引所大手ビットメックスのアーサー・ヘイズCEOはもてはやされる「キャッシュレス」の流れをこう皮肉る。もちろんこれは極端な例だが、「誰も見てないと知っているから買う」という経験は誰にでもあるだろう。そもそも「あなたはいくら持っているの?」と聞かれることに対して嫌悪感を抱く人は多いのではないだろうか。

キャッシュレス化が進んで自分の取引データが、中央集権的な性格を持つ企業や国に収集・管理されるようになると、自分の購買行動が筒抜けになる。そこで問われているのは、キャッシュレス時代に中央管理者のいないピアツーピア(対等な関係での取引)を基盤とする仮想通貨がどのような役割を果たせるかだ。

仮想通貨とオウトノミー(自律)

誰にも知られずに取引をする権利。仮想通貨業界では、しばしば「プライバシー」という言葉で表現されている。プライバシーというと、「私生活の干渉」や「恥ずかしい個人の秘密の暴露」から個人を守る権利を指すケースがある。しかしここでは「自分の取引情報をコントロールするのは自分であって、他人ではない」という意味合いで使われている。そしてその根本にあるのは、政治哲学の重要概念「Autonomy(オウトノミー、自律)」だ。

「個人のオウトノミーとは自分らしくある能力のことで、自らの動機や理屈付けで自分自身の人生を送ることだ。自らの人生は、外部の操作による産物ではない」

(出典:Stanford Encyclopedia of Philosophy

あなたの人生という物語の作者は、他の誰でもないあなただーー。プライバシー推進派は、仮想通貨にオウトノミーへの思いを込める。自律した個人が主導権を持つという意味でSovereignty(サヴランティー、主権)という言葉を使う場合もある。

初期のビットコイン支持派は何かと無政府主義者やリバタリアンと見られることが多い。しかし、最近ではカントや啓蒙思想(Enlightenment)の伝統を引っ張り出してビットコインをオウトノミーの文脈で語るシンクタンクも出現しているのだ。オウトノミーは、西洋哲学の中で民主主義の根幹となる個人のあり方を抽象化したもの。仮想通貨が「民主主義」や「自由」をめぐる伝統的な議論に一石を投じるかもしれないのだ。

自分のお金のやり取りを他の人に無断で見られることは、個人の主権の侵害だと言った。さらに無断で取引データを見られた結果、国や企業に「正しい購買行動」を押し付けられることになったらどうだろう。

これが現実となりつつあるのが中国だ。中国のキャッシュレス決済市場の9割以上を牛耳るテンセントのウィーチャットペイとアリババのアリペイは、顧客のデータを元に信用スコアを構築。信用スコアはローン申請時などに利用される。それだけではなく顧客のソーシャルメディアをチェックし、「健全な行動」は何か決めようとしているという。何が健全な行動かを決めるのは、もはや自分ではなく中国共産党なのだ。

我々はキャッシュレスという理想の先に何を見ているのだろうか。令和時代に入り、一気にキャッシュレス化に舵を切るの前に、キャッシュレス化の未来についてざっくばらんに話し合ってもよいのではないだろうか。そして、そこで仮想通貨がどんな役割を果たすか、議論すべきだろう。

コインテレグラフ 日本版では、全6回に渡って「マネーとプライバシー」をテーマに特集記事を執筆した。

【令和と仮想通貨 Vol.1】キャッシュレス社会で脅かされる個人の主権 仮想通貨に託される思いとは
【令和と仮想通貨 Vol.2】ビットコイン 次の戦場は「プライバシー」だ! キャッシュレス社会の権力抑制も|暗号学者アダム バック氏に聞く
【令和と仮想通貨 Vol.3】ライトニング論争の隠れたテーマ ビットコインの本当の優位性はどこに…?
【令和と仮想通貨 Vol.4】仮想通貨生んだサイファーパンク運動の原典「クリプト無政府主義宣言」完訳! 新たな「クリプトウォーズ」に備えよう
【令和と仮想通貨 Vol.5】フェイスブックのプライバシー重視路線 信じてよいのか?
【令和と仮想通貨 Vol.6】現代人が金融プライバシーの重要性に気づくきっかけは何か? 日米の専門家が予想

文 Hisashi Oki(大木 悠)
編集 コインテレグラフ日本版

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