現代人が金融プライバシーの重要性に気づくきっかけは何か? 日米の専門家が予想【令和と仮想通貨 Vol.6】

全6回に渡る特集「令和と仮想通貨」では今後の仮想通貨業界の発展にはプライバシー強化が必要不可欠になるという見方をみてきた。プライバシー派にとって大切なのは、「自分の取引情報をコントロールするのは他者ではなく自分」という主張だ。そこには個人の「自由」や「オウトノミー(自律)」という、単なる「便利さの向上」とは次元の異なる壮大な理想があった。

令和元年の現在、米国や欧州、そして日本などの先進国でプライバシー保護に対する意識が高まっているとは言い難い。とりわけ日本においては個人のプライバシーを侵害し、個人の主権を脅かす可能性があるキャッシュレス化について、議論があまりなされていない。

人々がプライバシーの重要性に気づくのはいつなのだろうか?何がきっかけになるのだろうか?日米の専門家に聞いた。

「日本人はお人好しなのではないか…」

「日本人はあまり意識していない。妙に物分りが良いからね。政府や企業に対して忖度しているのではないかな」

このように述べたのは「キャッシュレス覇権戦争」の著者である岩田昭男氏だ。同氏は投機的なイメージが強い仮想通貨に対して懐疑的ではあるものの、プライバシーの問題が議論されないまま日本がキャッシュレス化を進めていることについて「大問題だ」と懸念している。

日本人が経済プライバシーへの意識を高めるきっかけはなんだろうか。岩田氏が指摘したのは、正規アプリに偽装してパスワードなど利用者の機密情報を盗み出すフィッシング詐欺だ。

例えば、犯罪集団がペイペイなどスマホ決済サービスに目をつけ、精巧なつくりの偽の認証サイトを作って利用者に対して「クレジットカード登録した時のメールアドレスとパスワード」を入れるように指示するケースだ。その時、利用者は企業の公式サイトのプレスリリースを見て、本当にペイペイが求めているのかチェックするだろうか?「手間なので、しないでしょう」と岩田氏は指摘する。

若者でさえ本物と見間違えるほどよくできた認証サイトが、ある日突然、自分のスマホに表示される。まさか自分には起きまいと高をくくる人々は、その事態に直面した時に一瞬でパニックになるだろうと岩田氏は述べた。

オレオレ詐欺と同じ構造じゃないか。犯罪グループは、一瞬のうちに畳み掛けてくる。利用者はパニックになる。若い人たちにとってもオレオレ詐欺は人ごとではなくなるのではないか」

フィッシングにスキミング、犯罪グループはやりたい放題になってきている。「日本人はお人好しなのではないか…」。岩田氏は、ネットリタラシーが上がらないまま、漠然とキャッシュレス化が進むことに対して危機感を抱いている。

日常生活での制約

ビットコインが2、3年後に5万ドルになる一因として、仮想通貨取引所ビットメックスのアーサー・ヘイズCEOが指摘したのがプライバシー意識の向上だ。ヘイズ氏は、日常生活で失われる経験を通してプライバシーへの意識が高まっていくと予想した。

「『10ドル札をおろしてマリファナを買ってたけど、もうできない』。『私はちょっと税金について嘘をついていた。私の収入には見合わないポルシェ911を買っていたが、どう説明しよう』。人々は突然、どうやって金融プライバシーを確保すれば良いか、気づかされることになる。」

我々はプライバシーが保護されている日常が当たり前のものと思っているーー。

この点を懸念しているのは、プライバシー保護に重点を置く仮想通貨ウォレット「ワサビ・ウォレット」の開発者であるアダム・フィッサー氏だ。例えば同氏は「もし私があなたにいくらお金を持っているか聞いたら、あなたはかなり不愉快な気持ちになるだろう」と指摘。国や企業が発行するデジタル通貨や秘匿化技術を使わないビットコインでは、そういった当たり前のプライバシーが犯されるリスクが出てくると話した。

まだ時期尚早

コインジョイン機能を搭載する仮想通貨ウォレット、ジョインマーケット(JoinMarket)の開発者であるアダム・ギブソン氏は、現在の世の中でプライバシーに対する意識が高まる兆候は見られないと主張する。

「世界は戦争状態ではないし、大災害に見舞われているわけではない。だからほとんどの人々、とりわけ金持ちの国に住む人々は、現在の権力を脅かさない便利な手段を使い続けるだろう」

ただギブソン氏は、今後国家が生活のあらゆる面において権力を不当に行使し始めると、国家に依存しない方法でビジネスを行うことを支持する人が増えると予想した。

ギブソン氏が一例としてあげたのは、2013年にオバマ政権の時に立ち上げられたOperation Choke Point(オペレーション・チョーク・ポイント)だ。このプロジェクトは、合法的にビジネスを行なっていても政権が高リスクとみなす企業に対して、銀行や決済ネットワークへのアクセス権を拒否することを目指した。

企業の失敗

「沸騰する水の中に入れられたカエルと一緒だね。手遅れになるまで沸騰していることに気づかない」

プライバシーに対する現代人の意識の欠落についてこのように懸念するのは、ビットコイン関連技術の開発に注力するブロックストリーム社のサムソン・モウ氏だ。「短期でしか物事を考えない人が多い」とため息をつく。

ただモウ氏は、日本がキャッシュレス社会への移行を進める中、何かが起きるとみている。「企業というのはデータの管理がうまくない」とし、例えば「あなたが使った過去1年間の取引データがオンラインに流出する」という事態が起きると予想。そういうことがきっかけとなって人々は、プライバシー重要性に気づくとみている。

仮想通貨カストディのスタートアップCASA(カーサ)のCEOジェレミー・ウェルチ氏も、企業の失敗がプライバシー意識向上のきっかけになるとみている。同氏は、DNAや金融、広告の分野で企業による深刻なプライバシーの侵害が起きるだろうと予想。例えば今日、保険会社が無呼吸症候群対策の睡眠機器を使う個人を監視し、保険の契約内容を調整していると指摘した。

ウェルチ氏は、こうした企業によるプライバシー侵害に危機感が高まることで、投資資金が広告やデータ監視ツールからビットコインなどに流れていくだろうと指摘。そうなれば、データ監視を行い続ける企業は、生き残るためにさらにタチの悪いプライバシー侵害を行うことになるだろうとと予想した。

プライバシーへの意識が高まるきっかけは何か。コインテレグラフ日本版は、今後も注視し続ける。