フェイスブックのプライバシー重視路線 信じてよいのか?【令和と仮想通貨 Vol.5】

「未来はプライバシーにあり」

5月1日、フェイスブックの開発者会議「F8」でザッカーバーグCEOが高らかに宣言した。

同CEOは、「我々が現在プライバシー面で最も高い評判を得ていないのは確かだ」と認め、「リビングのようなプライベートなスペース」の必要性を主張。エンドツーエンド暗号化(利用者のみが鍵を持つ技術)の開発に取り組んでいることを明かした。

「もしこれをメッセンジャーやワッツアップで実現できれば、世界20億人以上がお互いに個人的な会話をプライベートで楽しめるようになる。ハッカーや政府、さらには我々があなたの会話の内容を聞いていることを心配せずに」

昨年初頭に明るみになった大量の個人情報流出事件以来、プライバシーに関する評判が日に日に悪くなるフェイスブック。今年3月には突如ザッカーバーグCEOは「プライバシーに重点を当てたコミュニケーション・プラットフォーム」の必要性を訴え、今月1日には「我々の商品にとって新たな章の始まりになる」と述べた。急激な方針転換を図っているようだ。

(出典:Reuters「フェイスブックの開発者会議「F8」」)

我々はこの方針転換を信頼していいのだろうか。仮想通貨・ブロックチェーン業界からは懐疑的な声が相次いでいる。

広告収入モデルはどうする?

「広報的な動きだね」

このようにフェイスブックの方針転換を一刀両断するのはブロックストリーム社の代表で「仮想通貨の父」の一人と目される暗号学者アダム・バック氏だ。「経済的なインセンティブがない。人々のプロフィールを売るのがビジネスモデルだろう。プライバシーと真っ向から対立するじゃないか」。プライバシー問題で失った信頼を表面上取り戻そうとする動きで、内実は伴っていないという見方だ。

同社のサムソン・モー氏も同意する。

「独自のコインを発行しようとしているね。けど、もしプライバシーのことを気にしているなら、ビットコインを使えば良いのに。自分たちのコインを作る必要はないよ」

フェイスブックは現在、独自の仮想通貨「フェイスブックコイン」を開発していると報じられている

米国の仮想通貨投資会社モルガン・クリーク・デジタルの創業者であるアンソニー・ポンプリアーノ氏も、ニュースレターの中で現在のビジネスモデルとの矛盾点を指摘した。

フェイスブックの収入のほとんどがターゲティング広告からきており、それを可能にしているのがフェイスブックが集める大量の個人情報だ。もしプライバシー重視へ移行するとなると、「この収入が劇的に減ることになる」とポンプリアーノ氏は指摘する。

ただポンプリアーノ氏は、フェイスブックが広告ビジネスから金融ビジネスへ移行することは考えられることであり、フェイスブックの膨大なリソースやザッカーバーグ氏の決断力などを考えるとプライバシー移行戦略が成功する可能性もあるとみている。

どういう意味でプライバシー?

「プライバシーというのは単なる親密な会話を意味するのではない。あなたの自由とオウトノミー(自律)の話だ」

このようにザッカーバーグCEOはプライバシーという言葉の重みに気づいていないと主張するのは、ウィキペディアの共同創業者ラリー・サンガー氏だ。現在はブロックチェーン百科事典「エバーペディア」のCIOを務める。

サンガー氏が主張するのは、人々がプライバシーを求める本当の理由は「プライベートなチャット部屋」が欲しいからではなく、「自分の情報は自分がコントロールするという権利」を守りたいという点だ。それは、サンガー氏にとって、言論の自由のように根本的な権利の1つだ。「あなたの情報を他人がどのようにシェアするかあなたに決定権がない場合、それはプライバシーがないということなんだよ」(サンガー氏)。

とりわけサンガー氏がプライバシーの侵害として懸念するのは、フェイスブックがイデオロギーを理由に投稿内容の規制に乗り出していることだ。例えば昨年10月、フェイスブックはアカウントの粛清に乗り出した。無政府主義者などのアカウントが対象にされたことから、フェイスブックによるイデオロギーチェックが入ったのではないかという報道もあった

また「プライバシー宣言」後の今月2日も、「過激思想」が理由で陰謀論者アレックス・ジョーンズ氏らを同社サイトから排除すると発表した

だが何が過激な思想かの定義は人それぞれだ。公平なプロセスを経ずに一方的に思想の良し悪しを決めて良いのかが問題だ。

サンガー氏にとってイデオロギーが問題ではない。問題は、あなたの考えであるイデオロギーについて「誰が閲覧して良いか企業が決めること」にある。それを許した時点で「あなたの考えは、あなたのもではなくなる」(サンガー氏)。サンガー氏は、ザッカーバーグ氏が強調する「リビングでのプライバシー」と自身の主張する「権利としてのプライバシー」の間に大きな温度差があると感じている。

(ウィキペディア共同創業者ラリー・サンガー氏)

エバーペディアは1つの答えか?

これに対してビットコインやブロックチェーンの強みは、何が正しいのかネットワークの参加者みんなが民主的に決めることだ。サンガー氏がCIOとして関わるエバーペディア(Everpedia)は、ブロックチェーンの強みを生かしたコンテンツ作りを始めている。

エバーペディアは、2015年に設立したブロックチェーン百科事典。現在のインターネットの通信規格httpの代替として期待されるIPFSがホストしている。現在、18万3000人の編集者がおり、月間利用者は200万人だ。

利用者はコンテンツのキュレーションや作成で独自トークンのIQを稼ぐことができる。記事を書く時、利用者はIQを担保としてステーク。もし承認されたら、担保として出していたIQを取り戻し、追加で報酬が支払われる。もし、反対されたらIQは、長い間ロックアップされることになる。 IQを持っていればエバーペディアの今後の方針について発言権を得られる。

エバーペディアのセオドア・フォーセリウスCEOは、コンテンツの良し悪しをフェイスブックが判断することに対して異を唱える。「あくまでステークホルダーの判断であるべき」と話した。また、ウィキペディアの編集者コミュニティーについても「判断基準があいまいで閉鎖的」と批判。「人々が何を検索しているかなんて関係ない」と問題視した。

スチェット・ディンサCOO兼CFOも「民主的なコンセンサス」を強調。次のように続けた。

「仮にオルトライト系のコンテンツがあるとしよう。そのコンテンツがレビューされる時、ユーザーは、承認するか、反対するか投票できる。(中略)最初から分散型だよ。」

(左:エバーペディアのセオドア・フォーセリウスCEO 右:スチェット・ディンサCOO兼CFO)

メディアの検閲で有名なのは中国だが、フォーセリウスCEOは、EUもコンテンツのフィルタリングを開始しているとし、エバーペディアのような分散型の代替サイトへの需要が高まるとみている。

さらにエバーペディアの強みは、IPFSがホストしている点にある。IPFSは、中央集権型のデータ管理方法であるhttpとは対象的に、データを複数の端末に分散して保存。サーバダウンやサイバー攻撃で一つのサーバーがダメになっても別のサーバーを使ってデータの復元が可能になる。

フォーセリウスCEOは次のように説明した。

「ビットコインなどと同じ原理原則だよ。ピア・ツー・ピア(対等関係)で成り立っている。政府が一つのエントリーポイントを閉鎖しても、すべてのコンテンツをシャットダウンすることはできない」

ちなみに、エバーペディアは4、5ヵ月前に中国で閉鎖されたという。しかし先述の通りIPFSがホストしているため、データは違う端末を通して生き残り続けている。

「中国政府に目をつけられたということは、我々は正しいことをしているということさ」。フォーセリウスCEOは、不敵な笑みを浮かべた。