日本は「国民皆年金」を導入しているため、所定の要件を満たす人は国民年金または厚生年金に加入し、原則として65歳から老齢年金を受給できる。

日本は、将来的に少子高齢化が進展することが確実視されている。 そのため「老後は国からの年金だけで生活していけるのだろうか」と不安を抱えている人も多いのではないだろうか。

そこで本記事では、老後の年金を増やす方法についてわかりやすく解説する。

年金だけで生活できるの?

ご自身が国から受給できる年金だけで生活していけるかどうかは、年金の受給額や老後の生活費などをもとに判断することが大切だ。 総務省の調査によると、世帯主が65歳以上の高齢夫婦無職世帯の1カ月の収入と支出の平均値は、以下のとおりである。

65歳以上夫婦のみの無職世帯家計収支


出所:総務省「家計調査年報(家計収支編)2020年(令和2年) 家計の概要」より作成

2020年は、夫婦高齢世帯における家計の収支は、1111円の黒字となっている。しかし2020年こそ黒字であったものの、2019年までは赤字が続いていた。同調査によると2019年の平均収支は約3万3000円、2018年は約4万2000円、2017年は5万5000円の赤字となっている。 

2020年における実収入は、国から支給される年金を含めた「社会保障給付」が約22万円と8割以上を占めている。ただし老後に受給できる年金額は、職業や家族構成などで異なるため、誰もが20万円以上の社会保障給付を受けられるわけではない。

老後の支出も、生活スタイルによって異なる。たとえば総務省が算出したデータにおいて住居費用は、1万4585円だ。老後も引き続き住宅ローンを返済していく人や家賃を支払い続ける人は、住居費用を1万4585円以内に収めるのは不可能だろう。

老後に年金だけで生活できるか知りたい人は、まずは老後生活における年金受給額の見込みや、毎月の生活費を調べてみよう。

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年金を増額する方法7選

とはいえ、より豊かな老後生活を送りたい方や、老後に金銭的な苦労をしたくない人は、自分自身で老後の年金を増やす努力が必要だ。ここでは、老後の年金を増やす方法について解説する。

なお老後資金の準備は、出来るだけ早めに始めるのが望ましい。早めに老後資金の準備を始めると毎月の積立額が少なく済むだけでなく、複利効果が働きやすくなって少ない積立金で多くの資金を準備できる可能性があるためだ。

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年金を増額する方法

繰り下げ受給

繰り下げ受給とは、老齢年金の受給開始を66〜70歳に遅らせて受給することだ。繰り下げ受給をすると、受給開始年齢に応じた増額率が一生涯にわたって適用される。

年金額は繰り下げた月あたり0.7%増額される。たとえば、老齢年金の受給開始年齢を70歳に繰り下げた場合、増額率は(12カ月×5年)×0.7%=60カ月×0.7%=42%となり、一生涯にわたって年金受給額が42%増える。

22年4月以降は繰り下げ受給できる年齢が75歳まで引き上げられる予定だ。

繰り下げ受給は、老齢基礎年金と老齢厚生年金ともに繰り下げることも、一方のみ繰り下げることも可能だ。

反対に、老齢年金の受給開始年齢を繰上げた場合、繰り上げた月あたり0.5%減額される。たとえば、受給開始年齢を60歳に繰り下げた場合、減額率は(12カ月×5年)×0.5%=60カ月×0.5%=30%となり、一生涯にわたって年金受給額が30%減る。

任意加入制度

任意加入制度とは、 国民年金の加入期間が60歳時点で40年未満である人が、60歳以降も引き続き国民年金に加入できる制度だ。

また老齢基礎年金を満額受給するためには国民年金に40年加入しなければならない。国民年金保険料を未納していた期間がある人や、学生時代に保険料の納付を免除してもらっていた人は、任意加入制度を用いて60歳以降も加入すると老齢基礎年金の受給額を増やせる可能性がある。

iDeCo

iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、掛金を毎月拠出し、老後の年金を自分自身で積み立てる制度だ。掛金は、投資信託や保険商品、定期預金などで運用していく。

iDeCoのメリットは、節税メリットを受けながら老後の年金を積み立てられる点にある。毎月の掛金は、全額が所得控除の対象であるため、年間で支払った掛金と同額が所得税や住民税を計算するときの対象となる所得から差し引かれて税負担を軽減できる。

またiDeCoの口座で購入した投資信託や定期預金などで利益を得た場合は、本来であれば課せられる20.315%の税金が非課税となる。

ただしiDeCoで拠出できる掛金は、加入している公的年金や勤務先が導入する企業年金制度などに応じて決まる上限が設けられている。加えて掛金を投資信託で運用する場合、利益が乗じる可能性がある一方で損失が発生することもある点に注意が必要だ。

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iDeCoでは節税しながら積立投資をし、老後資金を準備できる

個人年金保険

個人年金保険とは、民間の生命保険会社と契約して保険料を支払い、老後の年金を準備する金融商品だ。保険料を支払い、60歳や65歳など契約時に定めた年齢に達すると、所定の年金が一定期間または一生涯にわたって支払われる。 

個人年金保険には「外貨建て個人年金保険」や「変額個人年金」などの種類がある。リターンやリスクは、個人年金保険の種類に応じて異なるため、特徴を理解したうえで自分自身にあった商品を選ぶことが大切だ。

国民年金基金

国民年金基金は、会社員や公務員など厚生年金に加入する人と比較して、国民年金にしか加入できず年金受給額が少ない自営業やフリーランスが加入できる制度だ。国民年金基金に加入し、選択したコースに応じた掛け金を支払うことで老後の年金受給額を増やせる。

なお掛金の上限額は、国民年金基金とiDeCo、付加年金を合わせて月額6万8000円である。

付加年金

付加年金も、国民年金基金と同様に自営業やフリーランス向けの制度だ。国民年金保険料に400円の付加保険料をプラスして納めることで、老齢基礎年金の受給額を「200円×付加保険料納付月数(年額)」増やせる。

なお老齢年金を繰り下げ受給した場合、付加年金にも受給開始年齢に応じた増加率が適用される。 

昇給する

主に会社員が加入している厚生年金の保険料は、給与によって決まる。給与が高く納める保険料も高ければ、将来受給できる老齢厚生年金の額は大きくなる。会社で昇給したり転職したりして給与をアップさせるのも、年金を増やす一つの方法だ。


年金は払い損?元はとれる?

今後の日本では少子高齢化が進展していくため、年金の受給額や保険料の計算方法、受給開始年齢の見直しは避けられないだろう。そのため「年金保険料を払っても損なのではないか」と考える人は少なくない。

しかし端的にいえば、年金保険料が払い損となる可能性は低いといえる。日本の年金制度には、運営の財源に税金が投入されている。また財源の一部は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)によって運用されており、得られた利益は将来の保険料負担上昇を抑制するために活用されている。2020年は、年間の運用益が37兆7986億円と過去最高の黒字を記録しており、運用は順調だ。

みずほ総合研究所は、1995年生まれの共働き世帯(夫の平均年収514万円、妻は349万円)が平均寿命まで生きた場合、支払った保険料の1.8倍の年金が受け取れると試算している。

なにより年金保険料を支払わないと、老後資金のすべてを自分自身で準備しなければならなくなる。65歳から受け取れたはずの老齢年金が月額22万円、老後生活が20年と仮定すると最低でも5280万円準備しなければならない。さらに100歳まで生きる場合は約9240万円の準備が必要であり、長生きするほど必要な老後資金は増えていく。

公的年金は、決まった保険料を支払うと年金が一生涯にわたって受け取れるため、自助努力だけで資金を貯めた場合とは異なり、資金が枯渇してしまう心配はない。また年金保険料を払う人は、老齢年金だけでなく遺族年金や障害年金を受給できる権利もある。

公的年金は、国民同士が生活を支え合うために運営されているため、きちんと年金保険料を納めることが大切だ。

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