国から支給される年金と聞くと、多くの人が老後に支給される年金を思い浮かべるのではないだろうか。老後に国から支給される年金を「老齢年金」といい、一般的に退職をして収入が減ってしまう老後生活における貴重な収入源となる。
老後に向けた資産形成をする場合、まずは自分自身が老後にいくらの年金を受給できるのか把握することが大切だ。本記事では、老齢年金の仕組みや保険料、受給額の計算方法についてわかりやすく解説する。
日本の年金制度は2階建て
日本は「国民皆保険」を導入しており、要件を満たす人は基本的に公的な年金保険に加入している。公的年金とは、①老後をむかえたとき、②所定の障害状態になったとき、③被保険者が亡くなったときに、最低限の生活ができるよう年金を支給してもらえる制度だ。それぞれ「老齢年金」「障害年金」「遺族年金」が受けられる。
日本の公的年金制度は、1階建て部分の「国民年金」、2階建て部分の「厚生年金」にわかれている。国民年金に加入するのは、20歳以上60歳未満の人だ。会社員や公務員など、厚生年金の適用事業所で働いている人は「厚生年金」にも加入している。
老齢年金とは
公的年金に加入する人は、65歳になると原則として「老齢年金」を受給できる。年を重ねて老後生活を迎えると、多くの会社員や公務員は定年退職となる。また引退をする自営業やフリーランスも少なくない。働かなくなって収入が得られなくなると、生活費が支払えなくなる恐れがある。
そこで収入が減ってしまった高齢の世帯が安心して暮らしていけるよう、国から老齢年金が支給されるのだ。老齢年金には、以下の2種類がある。
- 老齢基礎年金:国民年金に加入している人が受給できる年金
- 老齢厚生年金:厚生年金に加入している人が受給できる年金
会社員や公務員など、厚生年金に加入している人や厚生年金に加入した期間がある人は、老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金を受給できる。
公的年金の被保険者
公的年金のうち国民年金に加入する人(被保険者)は、以下の3種類に分かれている。
- 第1号被保険者:自営業・フリーランス・学生など、20歳以上60歳未満で国内に住んでいる人
- 第2号被保険者:会社員・公務員・所定の要件を満たすパートやアルバイト
- 第3号被保険者:第2号被保険者に扶養される20歳以上60歳未満の配偶者
第1号被保険者と第2号被保険者は、保険料を支払う必要がある。老後は、納めた保険料や加入した期間などに応じた老齢年金を受給できる。
国民年金の第3号被保険者となれるのは、原則として年収が130万円未満であり第2号被保険者の扶養に入れる人だ。年収が130万円以上である配偶者は、国民年金の第2号被保険者となり、自分自身で保険料を納める必要がある。また配偶者の勤め先によっては、年収が130万円未満であっても第2号被保険者となる場合がある。
なお第3号被保険者が受給できるのは、基本的に老齢基礎年金のみであり老齢厚生年金は受給できない。
公的年金の保険料
国民年金のみに加入する第1号被保険者は、定額の保険料を支払う。令和3年度の保険料は、被保険者1人につき1カ月あたり1万6610円だ。個人の収入がいくらであっても、保険料の金額は変わらない。なお国民年金保険料は、半年分や1年分、2年分をまとめて納めることができる。保険料をまとめて収めた場合、所定の割引が受けられる。
厚生年金の加入者(国民年金の第2号被保険者)が支払う保険料は、以下の方法で計算する。
- 月給から差し引かれる保険料:標準報酬月額×18.3%
- 賞与から差し引かれる保険料:標準賞与額×18.3%
標準報酬月額とは、簡単にいえば毎年4〜6月の平均月収だ。標準賞与額は、実際に支給された賞与額(税引前)から、1000円未満の端数を切り捨てた金額である。つまり平均月収や支給された賞与に、18.3%をかけると厚生年金保険料を計算できる。算出された保険料は、被保険者と事業所(勤務先)が半分ずつ支払う。
なお厚生年金保険料には、加入者自身や第3号被保険者分の国民年金保険料が含まれているため、別途納める必要はない。また出産の前後で仕事を休んでいる場合や、育児休業給付金を受給している場合、厚生年金保険料の支払いが免除される。免除された期間中は、保険料が納められたものとして、将来の年金受給額が計算される。
公的年金の保険料はいくらになるのか
ここで以下のモデルケースにおける厚生年金保険料を計算してみよう。
- 夫:年収500万円(平均月収:35万円、賞与:年間80万円)
- 妻:年収300万円(平均月収:20万円、賞与:年間60万円)
※年間を通じて月収や賞与に変動はないものとする
※賞与は年2回支給された金額の合計値とする
協会けんぽの資料によると、月収が35万円である人の標準報酬月額は22等級36万円、月収20万円の標準報酬月額は14等級20万円である。また標準賞与額は夫が40万円、妻が30万円である。標準報酬月額や標準賞与額に、保険料率をかけて計算された保険料の半額を被保険者が負担する。よって夫婦それぞれが支払う年金保険料は、以下のとおりだ。
○毎月の給与から天引きされる厚生年金保険料
夫:36万円×18.30%×1/2=3万2940円
妻:20万円×18.30%×1/2=1万8300円
○賞与から天引きされる厚生年金保険料
夫:40万円×18.30%×1/2=3万6600円
妻:30万円×18.30%×1/2=2万7450円
納めた年金が受給できない場合がある
老齢基礎年金を受給するためには、保険料を払い込んだ期間と、保険料の支払いが免除・猶予された期間が10年以上必要だ。家計が苦しいからといって、国民年金の保険料を支払っておらず、加入期間が10年未満になると老齢基礎年金を受給できない。
老齢厚生年金を受給するためには、老齢基礎年金の受給資格を満たしたうえで、厚生年金の被保険者であった期間が1カ月以上必要である。
老齢年金は、自動的に支給が開始されるのではなく、請求手続きが必要だ。受給開始年齢に到達する3カ月前になると「年金請求書」が送付されてくる。年金請求書に記載されている年金加入記録を確認し、漏れや誤りがなければ、必要事項を記入し添付書類とともに年金事務所に提出する。なお年金は、原則として偶数月の15日に2カ月分が振り込まれる。
老齢年金はいくら貰える?
老齢年金の支給が始まるのは、原則として65歳である。ただし老齢厚生年金を受給できるひとのうち、生年月日が男性であれば昭和36年4月1日以前、女性は昭和41年4月1日以前である場合は、60〜64歳のあいだで「特別支給の老齢厚生年金」が支給される。
また老齢年金は、60〜64歳で繰上げ受給したり、66〜70歳で繰下げ受給したりできる。65歳よりも早く受け取ると、受け取れる年金額は減り、受け取り遅らせると年金額は増える仕組みだ。
では国民年金や厚生年金に加入していた人は、いくらの老齢年金を受給できるのだろうか?ここでは老齢基礎年金や老齢厚生年金の計算方法を解説する。
2021年4月からの老齢基礎年金の計算方法は、以下のとおりだ。
国民年金に加入できる期間は、20〜60歳までの40年間だ。よって国民年金の保険料を40年間支払うと、老齢基礎年金を満額受給できる。ただし保険料の支払いを免除された期間があると、老齢基礎年金の受給額は減る。
老齢厚生年金は、特別支給の老齢厚生年金が支給されていない場合(男性1961年4月2日生まれ以降、女性1966年4月2日生以降)、「報酬比例年金額」と「加給年金額」の合計値となる。報酬比例年金額の計算方法は、以下のとおりだ。
標準報酬額とは、厚生年金に加入しているあいだに受け取った給与と賞与の合計額を、厚生年金の加入期間で割って求めた金額だ。
加給年金とは、厚生年金に加入していた期間が20年以上ある人が、65歳になった時点で生計を維持している家族がいる場合に支給される年金である。支える家族がいる人は、受給できる年金額が増えるということだ。加給年金の金額は、以下のとおりである。
- 配偶者(65歳未満):39万500円 ※1943年4月2日以後に生まれた場合
- 子ども(18歳以下※):1人目・2人目は各22万4700円、3人目以降は各7万4900円 ※障害等級1級・2級の障害状態にある場合は20歳未満が対象
老齢年金の受給額をシミュレーション
ここで、以下のモデルケースにおける老齢基礎年金と老齢厚生年金の受給額をシミュレーションしてみよう。
夫
- 年齢:32歳(60歳で退職予定)
- 在職中の平均年収:500万円(平均標準報酬額41.7万円)
- 加入期間(予定):国民年金40年(480月)、厚生年金38年(456月)
妻
- 年齢:30歳(60歳で退職予定)
- 在職中の平均年収:300万円(平均標準報酬額25万円)
- 加入期間(予定):国民年金40年(480月)、厚生年金38年(456月)
なお夫婦ともに1946年4月2日以降に生まれており、2003年3月まで厚生年金に加入していた期間はないものとする。2003年4月以降の平均標準報酬額にかけられる率は、2009年4月2日以降に生まれた方の場合、5.481/1000である。
夫の年金受給額は、以下のとおりだ。
夫の老齢基礎年金
78万900円×(480月/480月)=78万900円
夫の老齢厚生年金(報酬比例年金)
41万7000円×(5.481/1000)×456月=104万2223円
夫の年金受給額
78万900円+104万2223円=182万3123円(月額約15万2000円)
なお夫よりも妻のほうが2歳年下であるため、夫が65歳になり老齢年金の支給が開始されたあとの2年間は加給年金が支給される。よって年金支給開始から2年間は、182万3123円+39万500円=217万4578円(月額約18万1000円)となる。
次に妻の老齢年金の受給額を計算する。
妻の老齢基礎年金
78万900円×(480月/480月)=78万900円
妻の老齢厚生年金
25万円×(5.481/1000)×456月=62万4834円
妻の年金受給額
78万900円+62万4834円=140万5734円(月額約11万7000円)
よってモデルケースの夫婦が受給できる年金額は、182万3123円+140万5734円=322万8857円(月額約26万9000円)となる。
学生時代に年金を納めていない場合(学生納付特例制度)
学生時代は年金を納めていなかったという人は少なくないだろう。学生納付特例制度とは、20歳以上の学生で本人の所得が118万円(収入額約195万円)以下である方が、保険料を免除してもらえる制度である。20歳を迎えると原則として国民年金に加入しなければならない。しかし一般的に収入が少ない大学や専門学校に通う学生は、学生納付特例制度を利用することで、保険料の支払いを免除してもらえる。
学生納付特例制度で保険料の支払いを免除された期間は、老齢基礎年金を受給資格の10年には含まれるものの、年金額には反映されないため、老齢基礎年金の受給額は減る。そこで学生納付特例制度で免除された保険料をあとから納める「追納」をすることで、老齢基礎年金の受給額を増やせる。
さきほどのシミュレーションで用いたモデルケースの夫婦が、ともに20〜22歳まで学生納付特例制度によって保険料の支払いの免除を受け、その後保険料を追納していなかった場合、年金受給額は以下のとおり変化する。
夫の年金受給額
老齢基礎年金:78万900円×(456月/480月)=74万1855円
受給額合計:74万1855円+104万2223円=178万4078円(月額約14万9000円)
妻の年金受給額
老齢基礎年金:78万900円×(456月/480月)=74万1855円
受給額合計:74万1855円+62万4834円=136万6689円(月額約11万3000円)
夫婦の年金受給額
178万4078円+136万6689円=315万767円(月額約26万2000円)
ねんきんネットでは、老齢年金の見込み受給額を確認することができる。確認できるのは本人分のみだが、配偶者の年金と合わせて、老後の生活資金がどれくらいになるか早い段階から把握しておこう。
年金保険料を支払えないときの対処法
保険料を自分自身で納める国民年金の第1号被保険者は、収入の減少によって保険料の支払いが難しくなるかもしれない。そこで年金保険料の支払いが難しくなった方のために、学生納付特例制度以外にも、以下のような免除や猶予制度が設けられている。
対象者 |
|
法定免除 |
・生活保護法における生活扶助を受け取っている人 |
申請免除 |
・前年の所得が一定以下の人 |
納付猶予 |
・20〜49歳で、本人や配偶者の所得が一定額以下の人 |
申請免除は「全額免除」「4分の3免除」「半額免除」「4分の1免除」の4種類があり、本人の所得や選択によって決まる。
免除制度のうち、法定免除と申請免除を受けた期間については、国民年金に加入していたとみなされるうえに、免除を受けた期間に応じた一定の金額が年金額の計算に反映される。一方、納付猶予制度と学生納付特例制度を受けていた期間は、国民年金に加入していたとみなされるものの、年金額の計算には反映されない。
免除や猶予などを受けた期間がある場合、保険料を追納することで老齢基礎年金の受給額を増やせる。ただし保険料を追納できるのは、免除や猶予などを受けたときから10年以内だ。老齢基礎年金の受給額を少しでも増やしたい方は、期限を迎える前に保険料を追納しよう。
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