中国やスウェーデンといった国々では、すでに中央銀行デジタル通貨(CBDC)の実験が行われ始めている。この新しいタイプのマネーの実装には、技術開発や規制といった多くの課題がある。しかし、欧州中央銀行(ECB)の幹部は、主要な課題は技術的なものではなく、哲学的なものだと語っている。

ECB理事会メンバーであるイブ・メルシュ専務理事は、仮想通貨イベント「コンセンサス」のAMA(Ask Me Anything)セッションの中で、CBDCの問題について議論した。セッションの中で、メルシュ氏は、ECBはCBDCの問題に取り組み、世界の中央銀行コミュニティと緊密に連携してCBDCの開発に取り組んでいると語った。

CBDCの課題は哲学的な制約

AMAに先立ち、メルシュ氏はCBDCの問題に焦点を当てた基調講演を行った。その中でメルシュ氏は、一般の人々が使えるようになるリテールCBDが焦点になると語っている。

「すべての人がアクセスできるリテールCBDCはゲームチェンジャーになる。したがって、現在、中央銀行のリテールデジタル通貨が私たちの主な焦点だ」

ただメルシュ氏は、リテールCBDC導入が「金融システム全体に大きな影響を与える可能性がある」とも指摘した。

また課題の1つとして、ユーロ圏全体にわたるCBDC設計をするとなれば、ECBが3億~5億口座にのぼる膨大な量の口座を処理する必要があるとも述べている。メルシェ氏によれば、現在ECBが運用している口座の数は約1万口座に過ぎない。

メルシュ氏は、AMAセッションの中で、最新のテクノロジーを使えば、ECBが3億もの口座を処理できるようになると確信していると発言。AMAのホストを務めたアーロン・スタンレー氏がECBの下で口座数が大幅に増加することの実現可能性に疑問を呈すると、メルシュ氏はCBDC採用の主な障害は技術的なものではなく、哲学的なものであると語っている。

「それは大きなオペレーションであり、間違いなくチャレンジングなものだ。しかし理論的には、それは技術的な制約ではなく、社会をどう運営していくかに関わる哲学的な制約だ」

CBDC実装に向けて準備進める

AMAセッションの中で、メルシュ氏は中央銀行がCBDCの実現にどのように取り組んでいるのかについても語っている。

メルシュ氏によれば、ECBはCBDCの調査分析のフェーズを終え、実際にテストをする段階に近づいているという。ECBは将来人々の需要がスパークする前に、CBDCを実装する準備を整えようとしているという。

「その瞬間までに、私たちが準備を整えておきたいと思っている。そして、それが私たちが研究だけをしているわけではない理由だ。現在は分析段階だが、迅速に政策だんかいに移行し、政策決定を行う準備を整えるようにしたい。…今後、数か月の間に、様々なシナリオに基づいた実験を開始する」

翻訳・編集 コインテレグラフジャパン