「つみたてNISA」「一般NISA」「iDeCo(個人型確定拠出年金)」は、いずれも個人の資産形成で利用できる税優遇制度だ。投資で得られた利益が非課税になるなど、課税口座(特定口座、一般口座)で金融商品を購入するよりも有利に運用できる。
ただし、制度によって仕組みやメリット・デメリットは異なる。各制度の特徴を理解して、自分に合った使い方を選択することが大切だ。
今回はつみたてNISA、一般NISA、iDeCoそれぞれの特徴と優先順位の考え方について解説する。
【関連記事】
非課税で長期・分散・積立投資ができる「つみたてNISA」とは?
つみたてNISA、一般NISA、iDeCoの制度比較
つみたてNISA、一般NISA、iDeCoの制度が比較できるよう表にまとめた。
つみたてNISAは年40万円(20年間で最大800万円)、一般NISAは年120万円(5年間で最大600万円)まで非課税で運用できる。つみたてNISAと一般NISAは併用できないため、どちらか一方を選択しなくてはならない。
一般NISAは、2024年から制度変更が予定されている点に注意が必要だ。非課税枠は大きく変わらない(年120万円→年122万円)が、2階建ての制度(1階:積立投資、2階:上場株式等への投資)に変更される。
iDeCoは、つみたてNISA・一般NISAよりも節税効果が大きいのが特徴だ。運用益が非課税になる以外に、「掛金が所得控除」「受取時に所得控除が適用」という税制優遇も用意されている。
ただし、iDeCoの掛金は、原則として60歳まで引き出しできない。また、年金制度改正法の成立により、2022年5月から加入可能年齢が65歳未満に引き上げられる予定だ。
それぞれの制度に向いている人を解説
つみたてNISA、一般NISA、iDeCoの優先順位を見極めるために、それぞれの制度に向いている人の特徴を確認していこう。
つみたてNISAが向いている人
つみたてNISAが向いている人の特徴は以下の通りだ。
- 投資初心者の人
- 投資できる金額が年40万円(月額3万3000円)以下の人
- 積立投資でコツコツ資産を増やしたい人
つみたてNISAの対象商品は、「販売手数料ゼロ(ノーロード)」「信託報酬が一定水準以下」などの要件を満たす、長期の積立・分散投資に適した投資信託に限定されている。購入方法も積立投資に限定されているため、投資初心者向けの制度といえるだろう。
また、金融機関によっては月100円から投資を始められるので、少額からコツコツ資産を増やしていきたい人にも向いている。
一般NISAが向いている人
一般NISAが向いている人の特徴は以下の通りだ。
- 上場株式やETF、J-REITなどに投資したい人
- 年120万円程度のお金を投資に回せる人
一般NISAは、つみたてNISAに比べて投資対象商品が幅広いのが特徴だ。投資信託だけでなく、上場株式やJ-REITなどにも投資できるので、ある程度投資経験があり、自分で投資銘柄を選びたい人に向いている。
また、年120万円程度のお金を投資に回せるなら、一般NISAの非課税枠を最大限活用できる。一般NISAは積立投資にも対応しているので、月10万円(年120万円)の積立投資に取り組むのも一つの方法だ。
iDeCoが向いている人
iDeCoが向いている人の特徴は以下の通りだ。
- 老後資金を準備したい人
- 税制メリットを最大限活用して資産を増やしたい人
iDeCoは老後資金の準備を目的とする私的年金制度なので、老後に備えて資産を増やしていきたい場合に向いている。原則として60歳まで引き出しできないが、引き出し制限があるからこそ、半強制的に資産作りができる側面もある。
また、iDeCoは「掛金が全額所得控除」「受取時も所得控除が適用」など、つみたてNISAや一般NISAよりも税制優遇が充実している。
たとえば、毎月の掛金が2万円、1年間で24万円を支出する場合、掛金の所得控除により、課税対象となる所得を通常よりも24万円低くでき、その分納税額を減らすことができる。
税制優遇を最大限活用したいなら、iDeCoが最も有利な制度といえるだろう。
つみたてNISAと一般NISAはどちらを選ぶ?
つみたてNISAと一般NISAは併用できないため、どちらかを選ばなくてはならない。教育費や老後資金など、将来のために時間をかけて資産を増やしたいなら、つみたてNISAがおすすめだ。
つみたてNISAは非課税期間が最長20年間と長く、最終的な非課税投資枠も一般NISAより大きい。また、対象商品も資産形成向けの投資信託に限定されているので、初心者でも安心して投資商品を選べる。
「投資できるお金に余裕がある」「ある程度投資経験があり、個別銘柄に投資したい」という場合以外は、つみたてNISAを選んでおけば間違いないだろう。
つみたてNISAと一般NISAは年単位で変更できるので、「やっぱり一般NISAのほうがいい」と思えば、金融機関で手続きをして変更することも可能だ。
NISAとiDeCoの優先順位は?
NISA(つみたてNISA、一般NISA)とiDeCoは併用可能である。しかし、投資に回せる資金が限られている場合、どちらから使う方が得なのか。
iDeCoを優先的に使う方が有利
iDeCoはNISAより節税効果が高いため、個人の資産形成ではiDeCoを優先的に使うほうが有利だ。
金融商品には元本割れリスクがあるので、必ず利益が出るとは限らない。そのため運用益が非課税というメリットが生かせない場合がある。
しかし、iDeCoの「掛金が全額所得控除」による税優遇については、一定の収入があれば、ほぼ確実に制度のメリットを生かせる。また、iDeCoは口座内のスイッチング(投資商品の入れ替え)も可能で、ポートフォリオの変更が柔軟にできるのも強みだ。
加入資格によって掛金の上限額は異なるが、将来に向けて資産を増やしたいなら、まずはiDeCoを最大限活用することを検討しよう。
お金に余裕がある場合はつみたてNISAも併用する
iDeCoの掛金を払っても、まだ投資に回せるお金に余裕がある場合は、次につみたてNISAを検討しよう。iDeCoに比べると節税効果は小さいが、資産形成において運用益が非課税になるメリットは大きい。
通常は利益に約20%課税されるが、つみたてNISAで運用して利益が出れば税金分がそのまま手元に残るので、効率的に資産を増やせる。
つみたてNISAは少額から投資できるので、年40万円(月3万3000円)の非課税枠を無理に使い切る必要はない。無理のない金額で、iDeCoとつみたてNISAを併用するといいだろう。
iDeCoの引き出し制限が心配なら、つみたてNISAから始める方法も
「貯金が少ない」「まとまった出費の予定がある」などで、iDeCoの引き出し制限が心配な場合は、つみたてNISAから始めるのも一つの方法だ。
つみたてNISAには引き出しの制限がなく、いつでも解約して現金化できるため、急にまとまったお金が必要になっても安心だ。まずはつみたてNISAで投資を始めてみて、ある程度まとまった資産ができた段階でiDeCoを追加してもいいだろう。
パートなどで収入が少なく課税所得がない人、住宅ローン控除により納税する必要がない人なども、iDeCoの所得税控除というメリットを生かせないため、先につみたてNISAから始めても良いだろう。
ただし、iDeCoの加入年齢には上限が設けられている。40代、50代の人は投資できる期間が限られるので、なるべく早くiDeCoを始めることを検討しよう。
投資の非課税制度を使うならiDeCoをまず検討
つみたてNISA、一般NISA、iDeCoは、投資可能額や税優遇、引き出し制限などに違いある。各制度の特徴を理解して、自分に合った制度を優先的に使うと良いだろう。
最も有利に運用できるのはiDeCoだが、原則60歳まで資金は引き出せないので、無理に掛金を増やしすぎないことが大切だ。非課税制度を有効活用して、将来のために資産形成に取り組もう。
【関連記事】