保有する金融資産は、ほとんどが日本の株式や債券で占められてはいないだろうか。野村資本市場のレポートによると、個人が保有する金融資産のうち、外貨建て金融商品の割合はわずか2.2%にすぎない。外貨建て金融商品へ投資することで、リスク分散や、より高利回りの商品の選択肢拡大につながる。本記事では、外貨建て金融商品のメリットや種類など、基礎的な知識を紹介していく。
外貨建て金融商品に投資するメリット
外貨建て金融商品とは、米ドルや豪ドル、ユーロなどの外貨で運用する金融商品だ。外貨建て金融商品の価格や配当金などは外貨で表示される。
外貨建て金融商品に投資するメリットは主に2つある。「リスクの軽減」と「収益性の向上」だ。
1つ目の「リスクの軽減」から確認していこう。円建てに加えて外貨建て金融商品を投資の選択肢に加えることで、分散投資の効果を高められ、資産の一極集中によるリスクを軽減できる。岡三証券の資料によると、2021年5月末の世界の株式時価総額は、115兆2000億ドルだ。うち日本のシェアは5.9%の6兆8000億ドルにすぎない。日本市場にだけ投資することは非常に偏りがあることがわかるだろう。一番身近な自国にばかり投資してしまう行動は「ホームバイアス」と呼ばれており、多くの投資家が陥っている。グローバルに分散投資することでリスクを軽減することが好ましい。投資先の選択肢も格段に増加する。
また、インフレによる円の価値が下落するリスクにも対応できる。日本は長期のデフレ経済が続いてるが、インフレに転じれば日本円の価値は下落する。外貨資産を保有しておくことでインフレ時のダメージを軽減できる。
2つ目は、「収益性の向上」だ。成長性の高い国や企業など、金利水準の高い海外資産に投資が可能となる。
日本は、政府による大胆な金融緩和政策が続いていることから、史上最低ともいえる低金利の状態となっている。金融緩和政策とは、簡単にいえば金利が下がるように誘導することで、経済活動を活発化させ景気を上向かせる取り組みだ。
また今後の日本では、少子高齢化の進展や人口の減少などにより、GDPの成長率は低い状態が続くと予想されている。このような背景が重なり、円建ての金融商品は、期待できる利回りが総じて低くなってしまっている。
一方で世界には、日本を上回る成長が期待できる国がある。IMF(国際通貨基金)によると、2021年における世界各国のGDP成長率の予測は、以下の通りだ。
- 日本:2.3%
- アメリカ:3.1%
- イギリス:5.9%
- 中国:8.2%
- インド:8.8%
- 世界:5.2%
アメリカやイギリスなどの先進国、中国やインドなどの新興国は、日本よりもGDP成長率が高いと予測されている。またGDP成長率予測の世界平均も、日本を上回っている。
成長率が高い国の金利は、高い傾向にある。外貨建て金融商品を資産運用の選択肢に含めることで、高い利回りが期待できるのだ。
外貨建て金融商品の種類と特徴
外貨建て金融商品には、大きく分けて以下の種類がある。
- 外貨建て預金
- 外国株式
- 外国債券
- 外国投資信託・ETF
- 外貨建てMMF
- 外貨建て保険
外貨建て金融商品は、外貨での決済や利息等の支払いが一般的だが、円貨で行われる場合もある。それぞれの特徴を見ていこう。
外貨建て預金
預金とは、銀行をはじめとした金融機関に金銭を預けることだ。一定の期間預けていると、利息が得られる。残高が自由に引き出せる「普通預金」と一定期間は引き出しができない代わりに、利息を計算する際に用いる金利が高い「定期預金」の2種類がある。
外貨建て預金とは、ドルやユーロ、フランなど多様な外貨建てで行う預金である。利息も外貨で受け取るのが一般的だ。外貨建て預金のほうが円建て預金よりも金利が高いため、多くの利息収入を得られる可能性がある。
外国株式
株式とは、企業が資金を調達する際に発行する有価証券だ。米国や中国など海外にある企業が発行し、海外の証券取引所に上場されている株式を、外国株式という。
GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)をはじめとしたグローバル企業や、成長が著しい新興国の企業への投資も可能だ。
外国債券
債券とは、国や企業が投資家からお金を借りた証として発行する借用証書だ。償還期限(満期日、返済期限)を迎えると、投資家から借りた金額が一括で返済される。また債券の保有中は、一定の利息を受け取れる。
外国債券とは、発行者や発行場所、通貨のいずれかが米ドルやユーロなどの外貨で発行される債券である。国内の債券よりも金利が高い銘柄が選べるだけでなく、株式とは違った値動きをするため分散投資にも有効である点が外国債券のメリットといえる。
外国投資信託・ETF
投資信託とは、運用の専門家であるファンドマネジャーが、投資家から募った資金を銘柄(ファンド)の運用方針にしたがって株式や債券、不動産に投資をする金融商品である。投資信託の魅力は、少額の投資資金で分散投資ができる点だ。
外国投資信託は、海外で設定・運用され、投資対象に海外株式や海外債券などが含まれている投資信託だ。
ETFは、証券取引所に上場する投資信託であり、株式と同様にタイムリーな取引が可能だ。外国ETFは、海外の証券取引所に上場するETFを指す。日本国内のETFは約200銘柄だが、海外のETFは、2000を超える銘柄があるため選択肢を広げられる。
外貨建てMMF
外貨建てMMF(マネー・マーケット・ファンド)とは、外国で設定されて、日本で販売されている投資信託の一種だ。海外の優良企業が発行する社債や、格付けの高い国債など短期金融商品を中心に運用されるため、安定的な収益が期待できる。
外貨建てMMFは、預け入れや引き出しの手数料が原則として無料であるため、流動性が高い点も魅力である。
外貨建て保険
円建て保険は、契約者が支払った保険料を保険会社が円のまま運用して、保険金の支払いに備えている。一方、外貨建て保険は、契約者が支払った保険料を、保険会社が米ドルや豪ドルに変えて運用する金融商品だ。
外貨建て保険には、亡くなったときや所定の高度障害状態になった場合の保障が一生涯にわたる「外貨建て終身保険」や、万一の場合には死亡保険金が、満期時には満期保険金が支払われる「外貨建て養老保険」などがある。また所定の年齢に達すると契約時に定めた期間の年金が受け取れる「外貨建て個人年金保険」を取り扱う保険会社もある。
外貨建て金融商品の為替レート
外貨建て金融商品では、円を外貨に交換するとき、外貨を円に交換するときで別々の為替レートが用いられる。外貨建て金融商品に用いられる為替レートは、以下の3種類だ。
- TTM(対顧客電信相場仲値):外国為替取引をする際の基準となるレート
- TTS(対顧客電信売相場):金融機関が顧客に外貨を売る際のレート
- TTB(対顧客電信買相場):金融機関が顧客から外貨を買う際のレート
円を外貨に両替する際は、金融機関に対して為替手数料を支払う必要がある。TTMに手数料を足したレートがTTS、手数料を差し引いたレートがTTBである。
たとえば、TTMが1ドル=100円、為替手数料が1ドルにつき0.5円である場合、TTSは1ドル=100.5円、TTBは1ドル=99.5円となる。なお為替手数料は、通貨や商品、金融機関によって異なる。
外貨建て金融商品の注意点
外貨建て金融商品に投資をする際は、以下の2点に注意が必要だ。
- 為替変動リスクがある
- 外貨建て預金の利益が総合課税の対象となる場合がある
為替変動リスクがある
為替変動リスクとは、預け入れたときと受け取ったときの為替相場の差によって、利益や損失が発生するリスクのことだ。
たとえば、外貨預金で100万円を預け入れるとしよう。利回りが0.1%、預入時の為替相場が1ドル=100円であった場合、預金の額は約1万ドルとなり、1年後には利息も含めて1万10ドルとなっている。1年後の為替相場が、預入時と変わらなかった場合、日本円に換算すると100万1000円となっている。※為替手数料は考慮せず
受取時の為替相場が、1ドル=110円の円安となっていた場合は、預金額は利息含め日本円で110万円1100円となり、10万100円の為替差益を得られる。しかし1ドル=90円の円高となっていた場合、預金額は90万900円となり10万100円の為替差損が発生するのだ。
実際の取引では、為替手数料が差し引かれる。為替手数料が高額な外貨建て金融商品に投資すると、為替差損が発生しやすくなる点にも注意が必要だ。
このように外貨建て金融商品は、たとえ高い利回りが実現できたとしても受取時に円安となっていると元本割れする恐れがある。外貨建て金融商品に投資をする際は、利回りの高さだけでなく、為替変動リスクも考慮したうえで商品を選ぶことが大切だ。また投資の鉄則である、長期・積立・分散投資をすると、為替変動リスクに対処できる可能性がある。
なお外貨建て金融商品の中には、為替予約(為替ヘッジ)に対応しているものもある。為替予約とは、外貨建て預金の満期日における為替レートを予約する制度だ。為替予約を利用すると、受取時の為替相場がいくら変動していても予約したレートで円に交換できるため、為替変動リスクを回避できる。
外貨建て預金の利益が総合課税の対象となる場合がある
取引先が国内金融機関であった場合、外貨建て預金の利息は利子所得として20.315%(所得税・復興特別所得税:15.315%、住民税:5%)の税金が源泉徴収される。なお原則として確定申告は不要だ。
しかし取引先が海外の金融機関であった場合、利息は給与所得をはじめとした他の所得と合算されて所得税や住民税が計算され、確定申告も必要となる。所得税は課税の対象となる所得の金額に応じて税率が5〜45%まで変動する。課税対象の所得額が高いと、支払う税金が高くなってしまう。
ただし現地で利息に対する税金を支払っていた場合、日本でも課税されると二重課税となってしまう。そのため確定申告をして「外国税額控除」を適用すると、一定の金額が所得税額から控除される。
外貨建て預金の為替差益については、国内外の金融機関に関わらず、基本的に雑所得として総合課税の対象になるため、他の所得と合算されて所得税や住民税が計算される。ただし為替予約を受けていた場合は、源泉分離課税の対象となり20.315%の税率で税金が計算される。
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