決算短信は、上場企業の決算内容が確認できる書類の1つだ。株選びの際には、会社四季報、有価証券報告書と同様に情報源として使われている。決算短信の読み方がわかれば、株式投資で投資銘柄を選んだり、売買タイミングを判断したりする場面で役立つ。

しかし、投資初心者にはあまり馴染みのない書類かもしれない。また、決算短信のことは知っていても、「専門用語が多くてどう読めばいいかわからない」と思う人もいるだろう。

そこで今回は、決算短信の概要や入手方法、読み方について詳しく解説する。


決算短信とは

決算短信とは、上場企業の決算内容をまとめた書類のことだ。

上場企業の経営成績や財政状態は、投資判断への影響が大きい。そのため、企業の決算内容を早く投資家に知らせるために、証券取引所は上場企業に対して決算短信の作成を要請している。

決算短信は決算内容の迅速な開示を目的としているため、監査等は不要とされている。正式な決算発表ではなく、推測の部分も含まれている点に注意が必要だ。


「通期決算短信」と「四半期決算短信」

決算短信には以下の2つがある

  • 通期決算短信:事業年度(1年分)の決算内容をまとめたもの
  • 四半期決算短信:四半期ごとの決算内容をまとめたもの

通期決算短信と四半期決算短信は、書類の構成や記載内容はそれほど変わらない。

通期決算短信が年次報告であるのに対し、四半期決算短信は四半期ごとの報告となる。3月末決算企業の場合、四半期は以下のように区分される。

  • 第1四半期:4~6月
  • 第2四半期:7~9月
  • 第3四半期:10~12月
  • 第4四半期:1~3月

四半期決算短信は、基本的に四半期連結累計期間の決算内容が開示される。第3四半期の決算短信の場合、10~12月ではなく、4~12月の決算内容が開示される点に注意しよう。


決算短信が発表されるタイミング

決算短信は、決算の終了後1~2カ月で発表される。

東京証券取引所の「決算短信・四半期決算短信作成要領等」では、「決算期末後30~45日以内にとりまとめて開示を行うのが望ましい」としている。3月末決算企業の場合、以下の時期に発表されることが多い。

  • 通期決算短信:4月下旬~5月中旬
  • 四半期決算短信:7月下旬~8月中旬(第1四半期)、10月下旬~11月中旬(第2四半期)、1月下旬~2月上旬(第3四半期)

決算内容の開示が決算期末から50日を超える場合は、その理由と開示時期の見込み・計画を開示する必要がある。


四半期報告書や有価証券報告書との違い

上場企業が決算内容を開示する書類には、決算短信のほかに「四半期報告書」や「有価証券報告書」がある。四半期報告書は決算後45日以内、有価証券報告書は決算後3カ月以内に提出しなくてはならない。

決算短信とは異なり、四半期報告書や有価証券報告書は金融商品取引法(金商法)が適用されるため、四半期レビューや監査報告書が必要だ。開示された情報に虚偽があれば、金商法による罰則もある。

決算短信は、決算内容を迅速に開示する速報としての役割がある。金商法は適用されず、四半期レビューや監査も必要ない。四半期報告書や有価証券報告書で確定した決算内容が開示されることで、決算短信の客観性が担保されている。


株式投資家が決算短信を読むべき理由

決算短信は速報性に優れており、上場企業の決算内容が早くわかるのがメリットだ。

確定情報ではないものの、多くの投資家が投資判断の材料として決算短信を読んでいる。決算短信の内容によって株価が大きく動くこともあるため、株式投資に取り組むなら決算短信のチェックは欠かせない。

ただし、各企業がそれぞれ発表しているので、全上場企業の決算短信を読むのは難しい。まずは会社四季報などで有望な銘柄を絞り込んだうえで、最終的な投資判断の材料として決算短信を読むといいだろう。


決算短信の入手方法

決算短信は、以下3つの方法で入手できる。

上場企業ホームページのIR情報にアクセスすれば、決算短信の閲覧が可能だ。また、適時開示情報閲覧サービスや金融庁のEDINETを利用する方法もある。

閲覧したい企業が決まっている場合は、企業ホームページのIR情報がおすすめだ。最新情報はもちろん、過去の決算短信やその他の決算資料もまとめて確認できる。

直近でどんな企業が決算短信を発表しているか知りたい場合は、適時開示情報閲覧サービスを利用するといいだろう。


決算短信の読み方

決算短信の構成は、1ページ目に業績や財務状況、配当などのサマリー情報、次の添付資料には、当期業績や今後の見通し、連結財務諸表等が記載されている。


ここでは、具体例として任天堂株式会社の通期決算短信(2021年3月期)を使いながら、決算短信の読み方を説明していく。
任天堂の決算短信

出所:任天堂株式会社 2021年3月期 決算短信 

 

連結経営成績
連結経営成績

連結経営成績では、前期と当期2期分の経営成績が記載されている。主な項目の意味は以下の通りだ。

  • 売上高:商品・サービス提供で得た売上金額の総額
  • 営業利益:売上高から売上原価、販売費・一般管理費を差し引いた本業の利益
  • 経常利益:営業利益から利息などの営業外収益を調整した利益
  • 親会社に帰属する当期純利益:親会社の持分割合を調整した当期純利益(当期純利益は経常利益から特別損益、税金を調整した最終利益)

連結決算の当期純利益は親会社と子会社の合計となるため、子会社に対する親会社の持分を調整した純利益が記載されている。

連結経営成績では、前期と当期の増減に注目しよう。特に重要なのは、売上高と営業利益だ。企業が成長を続けるには売上の拡大が必要だが、経費がかさんで利益を確保できなければ意味がない。前期よりも売上高、営業利益ともに増加しているのが理想だ。

任天堂の場合、前年比で売上高は34.4%、営業利益は81.8%と大きく増加している。また、経常利益や純利益も同じように増加しており、理想的な状態といえる。

ただし、前期よりも売上高や営業利益が減少したからといって、株を買ってはいけないわけではない。むしろ、安く買えるチャンスになることもある。

株式投資では株価が安いときに買い、高いときに売ることで値上がり益を得られる。売上高や営業利益の減少が一時的なもので、翌期以降に回復すれば、株価が大きく上昇するかもしれない。

決算短信で売上高・営業利益が減少したことを確認して株を購入し、株価が回復するまで待つのも1つの戦略といえるだろう。

連結経営成績の見方

連結財政状態

任天堂 連結財務状態

連結財政状態では、前期と当期2期分の財政状態が記載されている。主な項目の意味は以下の通りだ。

  • 総資産:企業が所有する資産の総額(負債と純資産の合計)
  • 純資産:総資産から借入金などの負債を控除した金額
  • 自己資本比率:総資産に占める純資産(自己資本)の割合

連結財政状態を読むときは、まず自己資本比率を確認しよう。自己資本比率は企業の安全性を示す指標であり、借入金などの負債が増えると比率が下がる。一般的には50%を超えていると安全だ。

ただし、自己資本比率は業界によって安全とされる基準が異なる。同業他社と比較して、極端に低い銘柄は投資を避けたほうがいいだろう。任天堂の自己資本比率は76.6%であることから、安全性は高い(倒産リスクは低い)と判断できる。

総資産、純資産については前期との増減に注目し、大きく変動している場合は理由を確認することが大切だ。変動理由は、添付資料の「経営成績等の概況」に書かれている。

任天堂は総資産が約5100億円、純資産が約3300億円増加しているが、現金預金や有価証券(資産)、未払法人税等など(負債)の増加が理由と説明されている。


連結キャッシュ・フローの状況

連結キャッシュ・フローの状態連結キャッシュ・フローの状況は、企業の現金収支を表している。金額がプラスなら現金収入、マイナス(△)は現金支出を意味する。主な項目の内容は以下の通りだ。

  • 営業活動によるキャッシュ・フロー:本業の現金収支
  • 投資活動によるキャッシュ・フロー:固定資産や投資有価証券の売買など投資活動の現金収支
  • 財務活動によるキャッシュ・フロー:借入金の増減や配当金の支払いなど財務活動の現金収支

営業活動によるキャッシュ・フローはプラスが望ましい。本業の現金収支がマイナスの場合は、添付資料で理由を確認しよう。2期連続でマイナスの場合は本業がうまくいっていない可能性が高いため、投資は見送るほうが無難だ。

企業の成長には継続的な投資が必要であるため、投資活動によるキャッシュ・フローは営業活動に支障が出ない範囲でのマイナスが理想だ。

財務活動によるキャッシュ・フローも、マイナスは借入金の返済や社債の償還が進んでいるケースが多いため、営業活動に支障がなければマイナスで問題ないだろう。

任天堂は営業活動がプラス、投資活動・財務活動がマイナスで、現金の期末残高も増えていることから理想的な状態といえる。

配当の状況

配当の状況

配当の状況では、前期と今期の年間配当金や配当性向、翌期の配当予想が記載されている。まずは前期と当期の年間配当金の増減に注目しよう。増加・減少を問わず、大きく変動している場合は添付資料で理由を確認することが大切だ。

任天堂は前期よりも配当金の額が大きく増えているが、添付資料には同社の配当に関する基準や業績等を踏まえて決定したと記載されている。売上高や利益が大きく伸びていることから、説明に矛盾はないと判断できる。

配当性向とは、当期純利益のうちどれだけを配当金の支払いに向けたかを示す指標だ。数字が高いほど、株主還元に注力しているといえる。日本企業の配当性向の平均は約30%だ。

配当金を目的に長期保有する銘柄を探す場合は、配当性向30%超を1つの目安にするといいだろう。また、同業他社と比較して、配当性向が高い企業を選ぶことも大切だ。配当性向が前期比で大きく下がっているときは、企業の配当方針が変わっている可能性があるので注意しよう。


連結業績予想

連結業績予想

連結業績予想では、来期の経営成績に関する予想が記載されている。株価は現在の業績だけでなく、来期以降の予測も織り込んで動く特徴があるため、業績予想数字は必ず確認しておきたい。

業績予想については、対前期増減率に注目しよう。プラスになっているのが望ましいが、マイナスがダメなわけではない。添付資料なども併せて確認し、根拠や実現可能性を考慮して投資判断を行うことが大切だ。

任天堂は売上高、営業利益ともに当期比でマイナスになっているが、当期の業績が好調だったことや新型コロナウイルス感染症のリスク等を考慮しての連結業績予想だと考えられる。


経営成績等の概況(添付資料)

決算短信には、情報を追加するための資料も添付されており、主に以下の項目が記載されている。

  • 当期の経営成績に関する説明
  • 当期の財政状態に関する説明
  • 翌期以降の見通しに関する説明

企業の事業内容や経営成績・財政状態の変動要因を理解しやすくなるので、添付資料の説明もしっかり読んでおこう。


当期の経営成績に関する説明

当期の経営成績に関する説明では、事業内容ごとの状況や売上の要因などについて記載されている。任天堂の場合は、Nintendo Switchソフトウェアの販売が好調だったことやタイトルごとの販売本数などが詳しく説明されている。

当期の経営成績に関する説明

連結経営成績の数字と併せて確認することで、業績が増減した理由がより深く理解できるだろう。当期の売上や営業利益がマイナスであったとしても、説明内容によっては「来期以降は回復が見込める」と判断できるかもしれない。

 

当期の財政状態に関する説明

当期の財政状態に関する説明では、総資産や純資産、キャッシュ・フローの変動要因について記載されている。以下は任天堂の財政状態及びキャッシュ・フローの概況だ。

当期の財政状態に関する説明
連結財政状態、連結キャッシュ・フローの状況の数字を併せて確認し、説明内容に矛盾がないか確認しよう。


翌期以降の見通しに関する説明

翌期以降の見通しは、添付資料において特に重要なポイントだ。連結業績予想の数字を見ただけでは予想の根拠がわからないので、必ず目を通しておこう。

任天堂の場合、新たなハードウェアやソフトウェアの販売予定、モバイルビジネスへの取り組み、新型コロナウイルス感染症のリスクなどについて説明されている。

今後の業績見通し

ただし、決算短信はあくまでも決算内容に関する速報であり、発表後に変更される可能性があることは心に留めておこう。


決算短信を読んで投資先企業への理解を深めよう

決算短信は上場企業の決算内容の速報がわかるので、うまく活用すれば優良株に出会える可能性がある。専門用語も使われているが、形式は決まっているため、初心者でも読みこなすことは可能だ。会社四季報を読んで投資先として有望な企業を見つけたあとは、それぞれの企業の決算短信の読み、投資先企業に対する理解を深めよう。

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