有価証券報告書は、上場企業が開示を義務付けられている書類の1つだ。会社四季報や決算短信に比べると情報量が多いため、「難しい」「読み方がわからない」と感じるかもしれない。
しかし、有価証券報告書はひな形が決まっている。見るべきポイントを理解しておけば、初心者でも株式投資に活用することは可能だ。
今回は、有価証券報告書の全体像や見るべきポイント、読み方について詳しく解説する。
有価証券報告書とは
有価証券報告書とは、上場企業が年1回決算内容を開示するための書類だ。有価証券報告書を略して「有報(ゆうほう)」と呼ばれることもある。金融商品取引法(金商法)の適用対象で、事業年度終了後3カ月以内の提出が義務付けられている。
有価証券報告書は業績や財政状態、事業内容など、上場企業に関するさまざまな情報が記載されているのが特徴だ。金商法は投資家保護を前提としているため、投資判断に必要な情報提供を目的としている。監査人による監査報告書も必要で、開示内容に虚偽があれば罰則もある。
会社四季報や決算短信との使い分け方
投資家が企業情報を入手できる書類には、有価証券報告書のほかに「会社四季報」や「決算短信」もある。
会社四季報は、東洋経済新報社が発行している上場企業のデータブックだ。全上場企業の基本情報や業績予測などが記載されており、「個人投資家のバイブル」として多くの投資家に利用されている。
投資判断に重要な情報源だが、あくまでも東洋経済新報社の独自取材に基づく情報であるため、内容の真偽は投資家が判断しなくてはならない。
決算短信は、上場企業の決算内容をまとめた書類だ。決算内容の迅速な開示を目的としており、四半期ごとに開示される。有価証券報告書は正式な決算発表だが、決算短信は監査等が不要で、推測の部分も含まれている。
株式投資では有価証券報告書と会社四季報、決算短信の違いを理解して、うまく使い分けることが大切だ。具体的には、会社四季報で気になる銘柄をピックアップし、決算短信や有価証券報告書で業績や将来性を分析して投資判断を行うといいだろう。
有価証券報告書の入手方法
有価証券報告書は以下2つの方法で入手できる。
- 上場企業ホームページのIR情報
- EDINET
上場企業ホームページのIR情報にアクセスすると、有価証券報告書が閲覧できる。過去の有価証券報告書や決算短信、決算説明資料などもまとめて確認できるので、情報収集に便利だ。
金融庁が提供しているEDINET(エディネット)でも、有価証券報告書の閲覧が可能だ。書類検索ページで「書類提出者(会社名)」「書類種別」「決算期」を指定して検索すると、条件を合致した有価証券報告書が抽出される。
有価証券報告書の全体像と見るべきポイント
有価証券報告書は100~200ページ程度あり、情報量は膨大だ。すべて読もうとすると時間や手間がかかり、挫折する原因になる。有価証券報告書の全体像を把握し、確認する項目を絞るのが読みこなすコツだ。
有価証券報告書の全体像
有価証券報告書は、「第一部【企業情報】」と「第二部【提出会社の保証会社等の情報】」の2つに分かれる。第一部の記載内容は以下の通りだ。
項目 |
内容 |
第1【企業の概況】 |
・主要な経営指標等の推移 |
第2【事業の概況】 |
・経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 |
第3【設備の状況】 |
・設備投資等の概要 |
第4【提出会社の状況】 |
・株主等の状況 |
第5【経理の状況】 |
・連結財務諸表等 |
第6 【提出会社の株式事務の概要】 |
- |
第7 【提出会社の参考情報】 |
・提出会社の親会社等の情報 |
第二部は該当事項がある場合のみ、その内容が記載されている。
有価証券報告書の見るべきポイント
有価証券報告書の見るべきポイントは、第一部【企業情報】の第1~4だ。それぞれの内容について確認していこう。
第1【企業の概況】
企業の概況で確認しておきたいのが、「主要な経営指標等の推移」だ。売上高や経常利益、自己資本比率など、投資判断に必要な経営指標の推移が5期分記載されている。主な項目の意味は以下の通りだ。
- 売上高:商品・サービス提供で得た売上金額の総額
- 経常利益:営業利益(本業の利益)から利息などの営業外収益を調整した利益
- 自己資本比率:総資産に占める純資産(自己資本)の割合
- 株価収益率(PER):株価÷1株あたり純利益
- 現金及び現金同等物の期末残高:現金預金や有価証券などの期末残高
売上高や経常利益は増加傾向にあるのが理想だ。下がっている期があっても、その後に持ち直していたり、翌期以降に回復が見込めたりする場合は投資しても問題ない。会社四季報や決算短信も活用しながら、変動要因や今後の見通しを確認しておくことが大切だ。
自己資本比率や現金及び現金同等物の期末残高は、企業の安全性を示す指標だ。当期の比率・残高が大きく下がっている場合、投資判断は慎重に行う必要がある。自己資本比率は、一般的には50%を超えていれば「倒産リスクは低い」と判断できる。
株価収益率(PER)は、株価の割安度を示す指標だ。一般的には、15倍を下回ると株価は割安だと判断できる。前期以前よりも数値が下がっている場合は、株を安く買えるチャンスといえる。ただし、PERの平均値は業種によって異なる。株価が割安かどうかは、ライバル企業と比較して判断しよう。
また、「従業員数」も確認しておきたいポイントの1つだ。従業員数が増加傾向にあれば「事業拡大に注力している」と考えられる。業績に問題がなければ、業績アップが期待できるかもしれない。
第2【事業の概況】
事業の概況では、「事業等のリスク」と「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の2つに注目しよう。
事業等のリスクでは、企業の業績や株価などに影響を及ぼすリスクについて説明されている。リスクの内容によっては、投資を見送るほうがよい場合もある。株を購入する前に、どのようなリスクがあるかを把握しておくことが大切だ。
「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」では、当期の財政状態、経営成績などの概要や変動要因が詳しく書かれている。数字を見るだけでは、事業の好不調や業績の変動要因はわからない。しっかりと読み込み、経営状況を理解したうえで投資判断をしよう。
第3【設備の状況】
設備の状況では、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」「設備投資等の概要」「設備の新設、除却等の計画」の3つが読むべきポイントだ。
経営方針、経営環境及び対処すべき課題等では、企業の経営方針や経営目標、課題について詳しく書かれている。企業の経営方針・目標に共感できれば、短期の株価変動に一喜一憂することなく、長期的な視点で株式を保有できるだろう。
また、企業の課題解決への取り組みは、業績や企業価値の向上につながる。企業が抱えている課題を理解し、今後成長や株価上昇が期待できるかを見極めることが大切だ。
設備投資等の概要では、設備投資の内容や当期に実施した設備投資の金額などが記載されている。また、設備の新設、除却等の計画では、新設する設備や重要な設備の売却・除却の計画が詳しく説明されている。
設備投資は企業の成長に欠かせないものだが、金額によっては利益の圧迫要因となる。高額な設備の新設や売却・除却は業績に影響を与えるため、株価の変動要因となるかもしれない。適切な投資が行われているかを確認して、投資判断に役立てよう。
第4【提出会社の状況】
提出会社の状況では、「配当政策」を確認しておこう。
配当政策では、配当に関する基本方針や配当性向、当期の配当金額について説明されている。配当性向とは、当期純利益のうちどれだけを配当金の支払いに向けるかを示す指標だ。
株式を長期保有する場合、定期的に収入を得られる配当金は大きな魅力といえる。配当金を目的に株式投資を行う場合は、配当性向が高い企業に投資するといいだろう。配当性向は「~%以上なら高い」という基準はないので、ライバル企業と比較して高いか低いかを判断することが大切だ。
ただし、配当性向は高ければよいわけではない。成長企業の場合、利益を投資に回して事業を拡大するほうが、業績や株価の上昇につながる可能性がある。成長性が高い企業なら配当金にこだわらず、長期的な株価上昇を期待して投資するのも選択肢の1つだ。
有価証券報告書の読み方を解説
全体像や見るべきポイントを確認しただけでは、有価証券報告書の読み方はイメージできないかもしれない。ここでは、任天堂株式会社の有価証券報告書(2021年3月期)を使いながら、有価証券報告書の読み方を説明していく。
第1【企業の概況】:主要な経営指標等の推移
任天堂の売上高と経常利益は、第77期から第81期にかけて一貫して増加している。この5年間で、売上高は約3.5倍の1兆7589億円、経常利益は約13倍の6789億円に増えている。当期純利益も同じように増加していることから、理想的な状況といえるだろう。ただし、今後も成長が続くかどうか見極める必要がある。
第81期の自己資本比率は76.6%と高い。現金及び現金同等物の期末残高も5期連続で増えているため、安全性は高い(倒産リスクは低い)と判断できる。
株価収益率は、第77期は30.26倍だったが、第81期には15.33倍まで下がっており、株価が割安になっている可能性がある。株価推移やライバル企業の数値も確認し、株価が割安だと判断できるなら投資する選択もあるだろう。
第2【事業の概況】:経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
経営の基本方針を読むと、任天堂は「ユーザーに対してかつて経験したことのない楽しさ、面白さを提供すること」を最も重視していることがわかる。また、柔軟な経営判断を行えるように、特定の経営指標を目標として定めていないことも説明されている。
任天堂の株式を長期保有するつもりなら、これらの経営方針に共感できるかがポイントとなるだろう。
経営環境や経営戦略、課題については、競争が激しいゲーム業界において、任天堂がどのように持続的成長と企業価値の向上を目指すかについて説明されている。同社の経営戦略や課題への取り組みを理解すれば、投資判断がしやすくなるはずだ。
第2【事業の概況】:事業等のリスク
事業等のリスクでは、経済環境や事業活動、法的規制などに関するリスクが記載されている。たとえば、任天堂は海外での売上割合が7割を超えているため、為替レートの変動に大きな影響を受ける。また、ゲーム市場縮小の可能性や季節的変動、システムトラブルなどについても触れられている。
事業等のリスクは、株価に大きな影響を与える恐れがある。投資を行う前に、どのようなリスクがあるか確認することが重要だ。リスクの内容によっては、投資を見送ることも検討しよう。
第2【事業の概況】:経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
経営成績については、「Nintendo Switchソフトウェアの販売が好調で、ハードウェアの販売拡大に貢献した」など、売上高や経常利益の増加要因が説明されている。財政状態についても、総資産や負債、キャッシュ・フローの変動要因について記載がある。
業績数値と併せて確認することで、経営成績や財政状態、キャッシュ・フローの変動要因がより深く理解できる。業績数値は株価に大きな影響を与えるので、必ず目を通しておこう。
第3【設備の状況】:設備の新設、除却等の計画
設備の内容や投資予定金額、着手年月、完了予定年月が示されており、投資総額は490億円だ。任天堂の売上規模からすると影響は小さいかもしれないが、業績への影響を見極める必要があるだろう。
重要な設備の除却・売却については、今のところ計画はないと書かれている。除却・売却の予定がある場合は、業績への影響を確認しよう。
配当政策
配当政策では、「連結営業利益の33%」もしくは「連結配当性向50%」を基準に年間配当金を決定すると説明されている。日本企業の配当性向の平均は約30%だ。任天堂の配当性向は平均より高く、利益還元に積極的な企業と判断できる。配当金を目的に長期保有するのも選択肢となるだろう。
ポイントを絞って有価証券報告書を読みこもう
有価証券報告書は情報量が多く、専門用語も使われているため、難しく感じるかもしれない。しかし、ひな形や読むべきポイントは決まっているので、初心者でも内容を理解することは十分に可能だ。有価証券報告書の読み方をマスターして、優良株を見つけよう。
【関連記事】
株式投資の始め方 初心者向けの基礎知識
【株の選び方1】会社四季報で優良株を探そう
【株の選び方2】決算短信を読んで株を選ぼう
何が株価を動かしている?金利・為替・景気などとの関係を解説
年間120万円の非課税投資ができる「一般NISA」とは
IPO株投資は初心者でも利益が得られやすい!参加方法など解説