金融庁は5日、Fin Tech Innovation Hub 活動報告書を発表し、AI(人工知能)などの他に、ブロックチェーン分野で複数の論点をあげた。とりわけ、ビットコインのライトニングネットワークについて「開発は速いスピードで進んでいる」との認識を示した。また、プライバシーという言葉の解釈の仕方が、規制当局と技術者の間で異なっているなど課題を指摘した。
「ヒアリングから得られた『10の主要な発見』」の中で、ブロックチェーンに関して以下の3つが報告された。以下は要約。
「パブリック型ブロックチェーンの問題を解決する技術動向の進展と分散型金融システムにおけるステークホルダー間連携の可能性」
・ライトニングネットワークについて「開発は速いスピードで進んでいる」。ブロックチェーンのスケーラビリティ問題を解決する方法として、「電子署名などの暗号サイズを軽くする仕様なども検討されている」。
・プライバシーの解釈が、規制当局と技術者の間で異なる。「相互理解を促し、調整をする場が必要」。
・「『ビジネス』、『エンジニア』と『レギュレーション』の利害がうまく重なり合う部分を見つけなければ、ブロックチェーンの領域で成功できない段階にある」ため、「調整の場」が必要。
「パブリック型ブロックチェーン(暗号資産取引)のセキュリティを高める動き」
・送金先・送金元がダークウェブやミキシングサービスのアドレス等を活用し、マネロン防止の観点から疑わしい取引を事前に防ぐ動きが出ている。
・「コードの脆弱性を判断するため、ブロックチェーンに関するコード監査を行うことが可能」。
・ブラックリストの共有も大事だが、ホワイトリストの共有方法も検討していく必要あり。国際的なセキュリティ・アライアンスを立ち上げ、セキュリティのベストプラクティスを持ち寄って議論する場が形成されつつある。
・安全、安心な「カストディ(資産管理」)サービスが提供できるかが今後の鍵。
「許可型ブロックチェーンを活用した、金融・商流を繋ぐB2Bユースケース創出の動き」
・貿易分野などの取引において、許可型のブロックチェーンを用いて、取引のステークホルダー間での情報共有を通じ、取引の円滑化・透明化等を実現。
・許可型のブロックチェーンにより大量処理かつ高速化を実現するプラットフォームの確立。
・ブロックチェーンを活用し、実装するためのプラットフォームをサービスとして提供するBaaS(Blockchain as a Service)の動きがこれまで以上に進展。
・物流等の分野で、スマートコントラクトやトークンを活用し、製品のトレーサビリティを高めるサービスが今後創出されていく可能性がある。
金融庁とビットコイン
金融庁は、ビットコイン関連の技術発展に関心を持っているようだ。
ライトニングネットワークは、ビットコインのスケーラビリティー(利用者増に対する適応能力)の問題を解決するために開発中の技術。取引スピードの改善や手数料削減、マイクロペイメント(小額決済)を可能にすることを目指している。
米仮想通貨資産マネジメントのモルガン・クリーク・デジタル創業者であるアンソニー・ポンプリアーノ氏(通称ポンプ)によると、「金融庁はビットコインとライトニングネットワークの強力な支持者だ」。
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また、金融庁は6月に福岡で開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議にビットコイン開発の功労者、アダム・バック氏を招待。以下のように評価していた。
「『自分が作る技術が、社会と共存し支持されて受け入れられて使われるようになっていきたい。それを解決できるようなプロトコルを力が俺にはある』。まあそういう言い方はしないのですが、わりと謙虚な方なので。(中略)(仮想通貨を)前向きに使うことを考える力がある人だという評判だった」
プライバシー
金融庁は、プライバシーについて規制当局と技術者の解釈がどのように違うのかを明らかにしなかったが、違いがあるという認識は示した。
「プライバシー」は、一般的には「私生活の干渉」や「恥ずかしい個人の秘密の暴露」から個人を守る権利を指す。一方、ビットコイン支持者の間では「自分の取引情報をコントロールするのは自分であって、他人ではない」といった意味合いでプライバシーが使われており、その背後にはAutonomy(自律、自立)に関する思想が込められている。
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ブラックリストとホワイトリスト
先月、米財務省の外国資産管理室(OFAC)が麻薬の製造など犯罪に使われたビットコインのアドレスをブラックリストに追加した。
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ホワイトリストの作成によって、仮想通貨取引のセキュリティがどのように高められるのか、今後の動向に注目だ。