アメリカと中国の2大超大国の対立において、デジタル通貨がますます重要になっている。フィンテックと法規制に関する専門家が、中国の中央銀行にあたる中国人民銀行(PBoC)による積極的なデジタル通貨に関する取り組みに対し、米国は目を覚ます必要があると訴えた。フォーチュンが11月1日に報じた。

これが新しいパラダイム

アジア太平洋と米国で展開しているフィンテック系企業戦略コンサルティング企業ディアクリークの業務執行役員、マイク・ワシル(Mike Wasyl)氏は、「中国は非常に高度なマクロ的視点で動いている。主導権を握り、リーダーの地位を得たいため、ブロックチェーン技術を採用し広く公開することで、多くの関心を集めた」と述べた。

香港を拠点とする、分散型台帳技術(DLT)関連開発企業クリプトBLKのダンカン・ウォンCEOは、中国の習近平国家主席によるブロックチェーン技術の推進が、中国人民銀行の「中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する計画を加速させる可能性がある」と発言した。

またワシル氏は、世界初のCBDC展開を目指す中国は、世界中のライバルに、「これが新しいパラダイム」というシグナルを送る可能性が高いと指摘した。

フォーチュンは、中国にはすでに巨大なデジタル決済エコシステムが構築されており、CBDCによる「DCEP」(デジタル通貨電子決済)を普及させる上でフェイスブックの仮想通貨リブラに対する保護手段としても機能する点を指摘した。

サウスチャイナ・モーニングポスト(SCMP)によると、テンセントのウィーチャットペイ(WeChatPay、微信)は月間10億以上のアクティブユーザー(2018年2月現在)を抱え、アリババの決済アプリ「アリペイ(Alipay、支付宝)」は世界で月間10億以上(2019年1月現在)のユーザーが利用している。

世界最大のSNSをうたうフェイスブックのアクティブユーザーは月間21億3000万人(2017年末現在)、メッセージングアプリ「ワッツアップ(WhatsApp)」は月間15億人(2017年3月現在)だ。

「奨励と警告」の2面性を使い分ける中国

フォーチュンの記事の中で、中国における金融と政府規制を研究している香港中文大学の陳立(Li Chen)教授は、中国のブロックチェーン技術に対するアプローチが「奨励と警告」の2面性を備えている点を強調した。

中国は、2017年に仮想通貨の個人的(プライベート)な保有に反対し取引所を取り締まり、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)も犯罪として禁止した。

一方で陳立教授は、産業面、特に金融業界におけるブロックチェーン技術に関して「中国の金融規制当局と中央銀行の比較的寛容な態度」の中で、CDBC開発が進められているとして次のように主張した。

「中国のフィンテック革命は、中国政府による規制のお目こぼしなしには達成できないのは明らかだ」

また陳立教授は、「(開発者が)イノベーションの方向に関して中国政府が設定した規制内にとどまる限り」、中国政府がブロックチェーンを活用した技術の開発を奨励すると期待していると述べた。

イノベーション規制に向け立ち往生する米国

クリプトBLKのウォンCEOは、米国が、仮想通貨を含めた「ブロックチェーンの技術的ハブ」であると見なし、開発面で仮想通貨・ブロックチェーン業界に世界的な影響を与えていると述べた。

対照的にワシル氏は、米国が「イノベーションへの道を規制する」ことを試みて立ち往生していると主張した。

ワシル氏は、米国のCBDCは「必然」であり、米政府はフェイスブックの仮想通貨リブラによって沸き起こった関心を利用し、米ドルの未来についてより幅広い議論を投げかけるべきだと語る。デジタル通貨がさらに勢いを増すと、「徐々に、そして突然すべてが変わる」と強調した。

また、これら専門家達の意見は、当面の間は中国のCBDCがドルの脅威となる可能性は低いという見解で一致したものの、米国が中国との競争で先行したいなら、仮想通貨・デジタル通貨への規制緩和とブロックチェーン企業に開発資金を提供する必要があると警告した。

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翻訳・編集 コインテレグラフ日本版