2019年の仮想通貨業界のトレンドワードとしてよく耳にする「STO(セキュリティー・トークン・オファリング)」と「ステーブルコイン 」。セキュリティートークンは、株など既存の資産を裏付けとして発行されるトークンで、金融商品関連法に従って発行される金融商品。ステーブルコインは、ボラティリティ(価格の変動幅)が大きいビットコインなど仮想通貨とは異なり、円やドルなど法定通貨と連動することで価値の安定を目指す。
一般的には上記のような説明がされるが、なぜ今、STOなのだろうか?また、2017年に注目度が高まったイニシャル・コイン・オファリング(ICO)とは何が違うのだろうか?そして、STOとステーブルコインが同時に注目される理由は何だろうか?フィンテック企業AnyPay(エニーペイ)のICOコンサル事業部の山崎友輔氏に聞いた。
理論値のないICO
2018年は、トークンを使った資金調達であるイニシャル・コイン・オファリング(ICO)が崩壊した年だった。詐欺的なプロジェクトが多発した他、投機的な資金が流入した結果、価格は乱高下。実際のプロダクトが完成に至らないなどの事例が多発し、市場関係者は不信感を強めた。先月には「ICOは全体的に絶望的」というレポートも出た。そんな中、代わりとして注目されているのがSTOだ。
上記以外のICOの問題として山崎氏が指摘したのは、「ICOは理論値が出せないこと」だ。例えば、株式であったら株価純資産倍率(PBR)や株価収益率(PER)などのように「基本的には共通のコンセンサスになる価格」を算出することができる。だから投資家は「相対比較として、この基準に対して私は低い・高いを判断する軸」を持てた。しかし山崎氏は、ICOではコンセンサスとなる理論値が出せないと指摘した。
「ICOの場合、トークンが発行されてその価格が果たしていくらなのか?いくらなのが適正なのか?そういった分析がなかなか難しい(中略)例えば『ビットコインの価格はこうなるべきだよね』というのがなかなか形成しづらい」
山崎氏によると、例えば売上高で100億円を目指すプロジェクトの場合、「100億円の売り買いが行われるためには、どれくらいの資産価値を持ってほしい」という視点が必要。しかし現状のICOプロジェクトの資金調達の根拠は、「今開発するには30億円必要」などという資金調達需要からハードキャップ・ソフトキャップが決まってくるのが現状。「理論的にそうあるべきICOの資金調達額ではなく、自分たちが集めたい資金調達額にシフトしているのが問題」という。だから「気運に乗った時は良いが、落ちた時はぐっと下がってしまう」と山崎氏は指摘した。
理論値が見えないことの何が問題なのか?山崎氏は「機関投資家、いわゆるプロの投資家が入ってこれない」と解説する。
STOに注目が集まる理由
ICOでの資金調達が困難になる中、すでに法整備があり、理論値も算出できる既存の資金調達の手法を転用して、トークンに載せればいいのではないかという考えが出てきた。それがいわゆるSTOのアイデアだ。山崎氏はSTOの利点について以下のように解説した。
(エニーペイ山崎氏作成「株式投資とSTOの比較」)
既存証券の利便性の向上
現在、日本の株式市場は東京証券取引所など取引所が開いている時間しか取引ができない。しかし、もしブロックチェーンを使ってSTOが実現できれば、24時間のトレーディングができるような世界観が生まれるかもしれないと山崎氏は指摘する。
また、現在の配当の権利が落ちるのは3日前。いつ誰がどこで権利を持っているのか判断するのが難しいという理由から、権利確定日というものができた訳だ。しかし「ブロックチェーン上で取引が行われるという世界ができれば、権利の移転も瞬時にできるようになる」(山崎氏)
新たな投資対象の創出
既存証券において実現できていなかった投資対象も生み出すこともできる。
例えば、エニーペイがサポートするインドのDrivezy(ドライブジー)社。インドでカーシェア事業を展開するドライブジーはセキュリティトークンを発行しており、発行されたトークンを所有していれば、カーシェア事業による収益が分配される仕組みを構築。「集団持分スキームという既存の金融手法」であるものの、トークンに載せることで「日本の投資家がインドのカーシェアリングのプラットフォームに載っている車」を購入することができるようになった。山崎氏は、STOによってクロスボーダーでの投資案件が増えることも期待している。
(引用元:Drivezy 「レンタルコインの仕組み」①レンタルコインズ1.0を購入し、ドライブジーが管理するシェア自動車や自転車に投資する。②消費者がドライブジーを通して乗り物をレンタルする。③毎月1日〜10日の間、95%の収入が投資家に付与され残りの5%がドライブジーにいく)
STOとステーブルコインの親和性
そんなSTOと親和性が高いのがステーブルコインだ。なぜなら送金機能を見た場合、ステーブルコインの方が他の仮想通貨より優れているからだ。
現状、仮想通貨を使った送金のメインとなっているのはイーサリアム(ETH)。イーサリアムのブロックチェーンの規格の一つであるERC20でトークンを発行するケースが多い。しかしイーサリアムは法定通貨に対する変動率が高いことが弊害だ山崎氏は解説した。
「年率20%で回しますという魅力的な商品が、いざ投資をした時にイーサリアムの価格が10%落ちてしまったとしたら、100入れるつもりが90しか入れられなくなる。そうなると20%増えたとしても108しか返ってこないことになる。もちろん上にぶれることもあるが、自分が望んだ投資商品に対するリターンではなく、仮想通貨のボラティリティが投資リスクに含まれてしまう」
現状で投資家が求めるのは「100米ドルで投資した時に120米ドルが返ってくる投資」。対照的に100イーサリアムを投資して120イーサリアムのリターン獲得を目指す場合、送金手段としてイーサリアムを採用しても問題ない。「欲しいのは120イーサであってそれが100万円になろうと1000万円になろうと、それはそれで目的が達成される」からだ。しかし、現状ではイーサリアム単位で投資を考える投資家は少ないだろう。その場合は、仮想通貨の法定通貨に対するボラティリティ(変動率)の高さは「リスクでしかない」。
現実的にネックになるのは、仮想通貨の持つボラティリティの側面。そこで白羽の矢が立てられたのが法定通貨に連動するステーブルコインという訳だ。
(STOとステーブルコインについて語るAnyPayの山崎友輔氏)
STO 今後の動き
2つのトレンド
山崎氏によると、今後STOをめぐるトレンドは大きく二つある。一つは、「既存の株式をトークンに載せること」。例えば「日本のトヨタの株をトークンに載せて、セキュリティートークンの取引所で交換できるようになる」という可能性は大いにあると山崎氏はみている。ただ山崎氏は、公募をする場合、日本だけでなく世界中の規制に耐えられる体制を持っている企業に限定されるだろうと指摘した。
もう一つのトレンドは、「国内でセキュリティートークンを作っていく動き」だ。例えば米国ではPolymath(ポリマス)などが国内で証券のトークン化を進めた後、グローバル展開を目指しているという。
(引用元:Polymath 「セキュリティートークンの発行の仕方を3分間で解説」)
米ドル連動のステーブルコインが主流か
さらに山崎氏は、ステーブルコインにすべての法定通貨が連動する形は難しい指摘。基本的にSTOは世界を対象にトークンを発行することになるので、例えば、「日本国内のみで行われる」や「参加者のほとんどが日本人」である場合を除いて、ステーブルコインに連動するのは米ドルが主流になるのではないかと予想した。複数の法定通貨が乱立するのではなく「シンプルなものを目指さない限り、なかなか普及しないのではないか」とみている。
注目が高まるSTOだが、山崎氏は、あくまでSTOとICOの並存が望ましいと考えている。「もちろん資金調達需要は大事であって、(プロジェクトを)やるために必要な金額というのがある。それを達成することが大事」とみる。将来的には、例えば「STOで一部を集めてユーティリティートークンを使ってICOをするというのも可能」と山崎氏は予想した。
「ICOはもうダメでSTOだというわけではなく、選択肢を増やすことが重要」(山崎氏)。それぞれの特徴に応じた選択が投資家にもプロジェクトにも求められることになりそうだ。
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— コインテレグラフ⚡仮想通貨ニュース (@JpCointelegraph) 2018年10月31日
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