中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、中央銀行が裏付けとなって発行する法定通貨のデジタル版である。ここでは、CBDCが世界の金融システムに影響を与える可能性がある5つの方法を紹介する。

1. 決済のデジタル化

CBDC は仲介者が不要なため、決済がより迅速かつ効率的になる可能性がある。その結果、コストが低下するとともに、金融包摂の促進とグローバルな決済システムの改善につながるかもしれない。

また、CBDC は従来の金融システムの制限を受けないため、国境を越えた決済がより迅速かつ効率的になる可能性もある。国際的な商取引が容易になり、コストが低下することで、世界貿易に大きな影響を与えるかもしれない。さらに、CBDC は中央銀行によって支えられ、厳格なセキュリティ管理の対象になるため、決済システムに関連する詐欺やサイバー攻撃などのリスクの低減に役立つことも考えられる。

2. 現金の使用量削減

CBDC が導入されると、より多くの個人が決済方法をデジタルへと切り替えるため、現金の使用量が減少する可能性がある。これにより、中央銀行は現金の動きを監視し、詐欺やその他の犯罪行為を阻止することがより簡単になるかもしれない

消費者によるデジタル決済への移行が進めば、ATMで現金を引き出す必要性も低下するだろう。その結果、使用に供するATMの台数と、機械の保守にかかる費用を減らすことができる。さらに、CBDC は人々や企業間のピアツーピア決済を可能にし、現金で直接取引する必要性をなすかもしれない。実際に現金を用意する必要がなくなれば、金銭の授受がよりシンプルになるだろう。

3. 金融の安定性向上

CBDCによって中央銀行が通貨供給量と金利をより直接的にコントロールできるようになることで、金融の安定性が高まる可能性がある。CBDCは従来の銀行預金に代わる預金手段を提供する一方で、銀行取り付けに関連するリスクの低下にも役立つかもしれない。

金融情勢が厳しくなると人々が銀行からお金を引き出そうとし、結果として銀行取り付けにつながる場合がある。CBDCでお金を引き出すという別の選択肢があれば、銀行取り付けのリスクを抑えることができるだろう。

CBDCは中央銀行が支え、厳しいセキュリティ規制を受けるため、決済ネットワークの堅牢性が高まることも考えられる。これにより、サイバー攻撃を受ける可能性が低くなり、決済システムの障害発生防止に役立つだろう。

4. 新たな金融政策ツール

以下で検討するとおり、CBDCの導入によって中央銀行は、金融政策に新たな手段を用いることができるようになるかもしれない。

金利の管理

中央銀行がCBDCを利用して、マイナス金利を導入することが考えられる。マイナス金利が導入されると、民間の銀行は中央銀行に準備金を預けることで利息を受け取るのではなく、支払わなければならなくなる。そのため、民間銀行がこの費用を、預金者を含む銀行顧客に転嫁する可能性がある。

しかし、銀行システムの外で現金を現物保有していれば、マイナス金利の支払いを回避することが可能だ。そのため、従来の現金では人々にマナス金利を課すことは難しい。しかしCBDCであれば、理論上、中央銀行が預金に対してマイナス金利を課し、人々に貯蓄ではなく消費することを促せるだろう。

支出制限付きデジタルウォレット

CBDCによって中央銀行は、支出制限付きのデジタルウォレットを導入することが可能になるかもしれない。そのようなウォレットを使えば、パンデミックなどのストレスがかかっている時期に、特定の経済セクターに的を絞った支援を提供できる可能性がある。例えば、不況の影響を受ける一般家庭に支出制限付きのデジタルウォレットを提供することで、消費を刺激し、経済を後押しすることができるかもしれない。

リアルタイムデータ

CBDCによって中央銀行は支出パターンに関するリアルタイムデータの取得が可能になり、より多くの情報に基づいて金融政策に関する意思決定を下せるようになるかもしれない。その結果、経済の変化に対する中央銀行の反応がより迅速になり、不況のリスクを低減するのに役立つ可能性がある。

自動的な政策導入

CBDCは、中央銀行による自律的な金融政策の実行を可能にするかもしれない。例えば、中央銀行が望ましいインフレ率を設定し、その目標を達成するために通貨供給量を自動的に変更することができる。それにより、人の手で金融政策を調整する必要性が減るだろう。

5. 国際通貨システムへの影響

有力なCBDCを持つ国ほど国際金融市場に与える影響も大きくなる一方で、中央銀行デジタル通貨の採用によって国際通貨システムに変化がもたらされる可能性がある。さらに、CBDCは、世界の貿易と金融における米ドルの覇権低下に貢献するかもしれない

バハマ中央銀行が発行し、同国政府が保証するバハマドルのデジタル版、「サンドドル」は、従来の銀行サービスにアクセスしにくい同国の金融包摂を促進することを目的に導入された、CBDCの一例である。さらに、決済の効率性を高めながら、金融サービスの提供コストを下げることも目指している。