テザー社が発行するステーブルコイン「USDT」とは

テザー(Tether / USDT)とは、テザー社が発行及び管理するステーブルコインだ。法定通貨担保型に分類されるステーブルコインの一種で、米ドルを担保に1USDTの価格が1ドルとなるよう調整される仕組みとなっている。

テザー社がテザーの発行及び管理を独占的に行うことで、他のステーブルコインよりも安定的に価格を維持することが可能となっている。テザーの発行額と同等の準備金を予めテザー社が用意しておくことにより、利用者がいつでも引き出せる環境を実現している。

テザーは2015年より発行が開始され2021年4月時点の時価総額は400億ドルを超えている。無数に存在するステーブルコインの中で最も規模の大きいものに拡大した。

テザーは、マルチチェーン対応と呼ばれる複数のブロックチェーン上で発行されている点も特徴的だ。現状のブロックチェーンは、異なるブロックチェーン上で発行されている資産を直接取り扱うことができない。つまり、ビットコインをイーサリアムのブロックチェーン上で管理することはできないのだ。

テザーは、それぞれのブロックチェーン上に展開されているエコシステムに対応するために、マルチチェーン対応を行うことで利用シーンを拡大し続けてきた。これまでに、ビットコインやライトコイン、イーサリアム、イオス(EOS)、アルゴランド(Algorand)、オムニ(Omni)、トロン(TRON)といったブロックチェーンに対応している。

テザーがステーブルコインの中で最も大きい時価総額を誇るのは、このマルチチェーン対応を実現していることが最大の要因だといえるだろう。

テザーは法定通貨型のステーブルコイン

テザーは複数のエコシステムで使える
テザー(USDT)の使い道

テザーをはじめとするステーブルコインは、ビットコインなどの仮想通貨が抱える課題を解決するために開発された。ビットコインはデジタル世界における基軸通貨として誕生したものの、結果的にボラティリティの大きさから決済などで使用される場面は限定的であり、主に投資の対象となっている。

これに対して、ステーブルコインはボラティリティを抑える仕組みとなっているため、投資対象ではなくデジタル世界における決済手段として普及してきた。仮想通貨で決済をする場面でボラティリティの高いビットコインやイーサリアムを使用すると、その時点で利確をしたとみなされ課税対象となってしまう。テザーのようなボラティリティの低いステーブルコインを使用すれば、この問題を考慮する必要はほとんどなくなるのだ。

また、流通しているテザーは特に取引所で使われており、仮想通貨取引や取引所間の資金移動に活用されている。

テザーの価格が十分に安定していることにより、一時的な資金の逃げ先として使用することも可能だ。例えば、ベネズエラやギリシャといった、自国の通貨がデフォルトしてしまうような国では、国民は資産をその通貨で保有していたいとは思わないだろう。

こういった状況で、資産をテザーなどのステーブルコインに換金しておくことにより、自国経済のマイナス影響から自己資金を解放することができる。


テザー(USDT)は日本の仮想通貨取引所で購入できるのか

日本の現行法では、ステーブルコインは仮想通貨として定義されていない。つまり、仮想通貨取引所はステーブルコインを取り扱うことができない状況なのだ。

そのため、テザーを含むステーブルコインを日本の仮想通貨取引所で購入することはできない。テザーは主にアジア圏で多く利用されているものの、これは日本を除く地域での状況とみて間違いないだろう。

ただし、将来的に日本でもステーブルコインに関する規制が明確になる可能性は高いといえる。2021年2月に、金融活動作業部会(FATF)が仮想通貨を含むガイダンスの修正案を発表し、ここでステーブルコインに関するFATF基準を適用する方針を追加したのだ。

過去に日本で制定されてきた仮想通貨に関する法規制も、FATF勧告を受けてのものとなっているため、今回のガイダンス修正案にステーブルコインが追加されたことは、将来的に日本でもステーブルコインの規制が整備されることを予想させる。


準備金を保管していない?テザー問題

テザーについて語る上で、避けては通れない重要なトピックが存在する。「テザー問題」と呼ばれる疑惑についてだ。

テザーは法定通貨担保型に分類されるステーブルコインであり、米ドルを担保にテザー社が発行及び管理を独占している。つまり、テザーの発行に関しては、テザー社以外には内実を知ることができない完全なブラックボックスの状態になっている。

テザー問題とは、このブラックボックスが引き起こした疑惑であり、市場に流通するテザーの時価総額と同等分以上の米ドルが、準備金として本当にテザー社に保管されているのかというものだ。

テザーは、1USDT=1ドルとなるよう発行量が調整されており、1ドルを担保に1USDTが発行される。そのため、理論上はテザーの発行額と担保となる米ドルの合計金額は一致するはずだ。


テザー社への疑惑と市場への影響

疑惑が浮上するきっかけとなったのは、2018年1月に米商品先物取引委員会(CFTC)がテザー社に対して召喚状を送付したことだ。これに対してテザー社は、「定期的に捜査当局の審査を受けているため、このような要望に対しては一切コメントしない」との態度を示している。

また、テザーの利用者は2018年10月頃より、テザー社に対して担保資産が存在していることを表す財務記録の提出を求めてきたものの、テザー社がこれに応じることは一度もなかった。その結果、テザー社はテザーの準備金となる米ドルを担保に入れずにテザーを発行しているのではないかとの疑惑が浮上する状況となっている。

仮に市場に流通するテザーと同額の米ドルをテザー社が保管していない場合、テザー社は自らの権限で無限にテザーを発行できることになる。そして、担保資産なく発行したテザーを使って、ビットコインなどの仮想通貨を買い占めることができてしまうのだ。

テザー問題が仮想通貨市場全体の重要トピックとして度々議論されてきたのは、テザー社が仮想通貨市場に大きすぎる影響力を保持している可能性があることに起因する。

担保資産なくテザーを発行することでビットコインや他の仮想通貨を購入するための資産を手にし、テザーを元手に購入した仮想通貨の価格が高騰したタイミングで売却すれば、全くのノーリスクで収益をあげることができてしまうということだ。


和解金の支払いでテザー問題は決着

2020年9月、ついにニューヨーク司法当局(NYAG)がテザー社に対して、財務記録の提出を命じるよう裁判所に求めた。この時もテザー社は対応を先送りにしていたものの、2021年1月に入りようやく財務記録を提出している。

同じタイミングで、テザー社のテザーに関する担保資産の管理を担当しているバハマのDeltec銀行より、テザーの裏付け資産は確実に存在しているとのコメントが発表された。

その後2021年2月に入ると、テザー問題はついに決着を迎えることになる。NYAGからの求めに応じる形でテザー社より財務記録が提出されると、2月23日には1850万ドルの和解金を支払う結果となったことが報じられた

最後までテザー社は不正を行なった事実を認めなかったものの、ニューヨーク州での営業を停止しなければならない状況に陥っている。この結果に対してテザー社は、「我々は不正行為を行なったという事実は認めていないが、この問題に終止符をうち本来のビジネスに集中しなければならない。今回の支払いは必要経費だ。」とコメントした。

なお今回の和解金支払いに伴い、過去に行われたテザー社に対する調査で、2017年以降の一部期間においてテザー社が担保資産となる米ドルを完全には保有していなかったことが明らかとなっている。

数年間に及ぶ「テザー問題」は2021年2月をもって幕を閉じたものの、全ての法定通貨担保型のステーブルコインに存在する可能性のある疑惑として、今後も長く語り継がれることが予想される。

時期

テザー問題に関する出来事

2015年

テザー(USDT)の発行開始

2017年

2017年以降の一部期間で発行額と担保資産の総額が一致せず(後の調査で判明)

2018年1月

米商品先物取引委員会(CFTC)がテザー社に対して召喚状を送付。テザー社はこれに応じず

2018年10月

この頃より、テザーの利用者が相次いでテザー社に対して財務記録の提出を要求。テザー社はこれに応じず

2020年9月

ニューヨーク司法当局(NYAG)がテザー社に対する財務記録の提出命令を裁判所に要求。テザー社は2021年1月になってこれに対応

2021年2月

ニューヨーク司法当局(NYAG)に対して1850万ドルの和解金を支払うことでテザー問題が決着。テザー社は最後まで不正の事実を認めなかった


テザー(USDT)発行額が他のステーブルコインより多い理由

テザーをはじめとする法定通貨担保型のステーブルコインは、仮想通貨担保型や無担保型のステーブルコインと比べて価格を安定させやすいため、ステーブルコインのほとんどは法定通貨担保型となっている。また、法定通貨担保型のうち99.5%が米ドルを担保資産に発行されている。

法定通貨担保型の代表例としては、テザーに加えUSDコイン(USDC)があげられる。USDコインは、米の大手仮想通貨取引所コインベースが発行及び管理を行うステーブルコインだ。アジア圏で人気を持つテザーに対して、USDコインは米国圏で多くのシェアを獲得している。これは、コインベースが米国を拠点にしていることに起因するだろう。

現時点でUSDコインの時価総額は約108億ドル(テザーは400億ドル)となっている。米ドルを担保に発行されるステーブルコインは、他にもトラストトークンのトゥルーUSD(TUSD)やフェイスブックのディエムなどが存在する。

ステーブルコインの中でテザーの発行額が最も多い理由は、冒頭でも述べた通り、テザーがマルチチェーンに対応していることから利用シーンが多岐にわたっているためだろう。実際、テザーに次ぐ時価総額を誇るUSDコインも、イーサリアム以外にアルゴランドなどへの対応を進めることで、徐々に利用シーンを拡大している。

テザー問題にひとまずの終止符がうたれたことで、テザー社は今後さらなる利用シーンを拡大させるために新たな戦略を採用していくことになるだろう。

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