複数の大手銀行が破綻した2007年から2008年の世界金融危機をきっかけに、多くの人々が伝統的な金融機関への信頼を失い仮想通貨などの代替通貨へと向かった。それは、これまで信頼できるとされていた金融システムが彼らを裏切った中で、経済的自由と個人のプライバシーを維持する方法だった。
だが今日見られる中央銀行デジタル通貨(CBDC)の台頭は、個人のプライバシーや自由に対して深刻な懸念を抱かせる。
中央銀行デジタル通貨に関する最も重大な懸念の一つは、匿名性の喪失だ。
現在の現金取引は、民主主義社会において基本的な権利である金銭的自由のために必要な秘匿性を提供してきた。しかしCBDCの導入によってこの状況が変わる可能性がある。
CBDCのカネの流れは政府によって追跡可能であり、すべての取引が中央銀行によって記録され、監視される。これにより中央銀行はこれまで不可能だった方法で金融取引を監視し、コントロールすることができる。これは良いことのように聞こえるかもしれないが、プライバシーや市民の自由に対して深刻な懸念がうまれる。
振り返ってみると世界金融危機の余波で世界中の政府はテロとの戦いやマネーロンダリングとの戦いとの大義のもと、しばしば人々の自由とプライバシーを犠牲する規制をつくってきた。
例えばロシア政府は反マネーロンダリングという名目でテロリズムや組織犯罪との闘いとは関係のない目標をさらに進めている。反マネロン体制がロシア政府の国内政治やビジネス、そして銀行システムに対する戦略的影響を拡大する一助となっているのだ。反マネロン規則の非効率性と機密目的での使用により、反マネロン規制の正当性が薄まっている状態だ。
米国で2001年に制定された愛国者法は、米政府による権力の乱用や市民の自由の侵害につながった。電子プライバシー情報センターによると、2002年から2004年の間だけでFBIの不正行為が13件あったとされている。
さらに危機への対応として実施されたいくつかの政策は、個人の金融活動に制限をかけることにつながっている。一部の国では国境を越える資金の流れを制限し、金融システムを安定化させるために資本統制が導入された。例えば国際決済銀行の2022年11月の報告書によると「(ナイジェリアの中央銀行デジタル通貨である)eNairaウォレットはユーザーの層に応じて、1日の取引限度額や保有できるeNairaの額に上限が設定されている」とのことだ。
政府が恣意的に人々の日常的な金融取引に制限を課せる事実は、個人のプライバシーや自由を大幅に損なう。
これらの懸念に加えて、中央銀行デジタル通貨はデジタル格差をさらに悪化させる可能性がある。例えばインターネットやデジタル機器へのアクセスがない人々は金融システムから締め出されることになる。これは高齢者や貧困層、地方の住民などの代表的なグループに当てはまる。
中央銀行はCBDCが個人のプライバシーと自由に及ぼす影響を慎重に検討すべきだ。
中央銀行デジタル通貨が個人の権利と自由を尊重する形で発行されるようにするためにも、企業や市民社会、個人などの利害関係者との頻繁な協議を行うことが重要だ。
結局のところCBDCの台頭は両刃の剣となるかもしれない。政府が支援するデジタル通貨は、より速く、安価で、安全な取引を実現する一方で、自由、プライバシー等に関連する重要な問題も提起するからだ。
中央銀行デジタル通貨を使って金融をより安定させるという政府の目標は、個人の自由とプライバシーを犠牲にすることで成り立ってはならない。
個人の自由と権利の擁護は、中央銀行がCBDCを検討する際の最優先事項であるべきだ。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資に関する助言を意図したものではない。ここで述べられている意見、考え、意見は著者のものであり、コインテレグラフの意見や考えを必ずしも反映しているわけではない。