会社員(給与所得者)は、給与から所得税や住民税が源泉徴収されている。勤務先で年末調整を受けるだけで課税関係は終了するため、節税対策と言われても何をすればよいかわからないのではないだろうか。

しかし、会社員でも活用できる節税対策は意外と多い。税制優遇制度や各種控除を利用すれば、所得税や住民税の節税によって手取り額を増やすことが可能だ。

今回は、会社員でも実践しやすい節税対策を紹介する。


iDeCo(個人型確定拠出年金)

iDeCo(イデコ)とは、自分で掛金を拠出し、自分で商品を選んで運用する私的年金制度だ。投資信託などで運用でき、掛金と運用益との合計を将来給付として受け取れる。

iDeCoの掛金拠出限度額は加入資格によって異なり、会社員は月額1万2000~2万3000円、自営業者は月額6万8000円だ。掛金は原則60歳になるまで引き出せない点に注意しよう。

iDeCoの掛け金額上限
iDeCoを始める場合は、取扱金融機関(証券会社など)で加入手続きを行う必要がある。


iDeCoには3つの税制メリットがある

iDeCoは節税効果が高いのが魅力だ。具体的には以下3つの税制メリットがある。

  • 掛金は全額所得控除
  • 運用益は非課税で再投資
  • 受取時も所得控除が適用

毎月支払う掛金は全額が所得控除の対象となるため、その年の所得税と翌年の住民税が安くなる。会社員の場合、国民年金基金連合会から届く「小規模企業共済等払込証明書」を使って年末調整を受けることが可能だ。

金融商品の運用益には通常20.315%の税金がかかるが、iDeCoの運用益は非課税で再投資される。うまく運用できれば、効率よく資産を増やせるだろう。

また、将来掛金を受け取る際にも所得控除が適用される。一時金で受け取る場合は退職所得控除、年金の場合は公的年金等控除が適用され、所得税と住民税の負担が軽減される。


NISA(少額投資非課税制度)

NISAとは、個人の資産形成を支援するための少額投資非課税制度だ。投資の利益にかかる税金が非課税になるため、うまく運用できれば税金分だけ手取り額が増える。

NISAには「一般NISA」と「つみたてNISA」の2種類があり、どちらか一方を選択して利用する(併用不可)。それぞれの特徴は以下の通りだ。

  一般NISA

つみたてNISA

対象者

日本在住の20歳以上の人

日本在住の20歳以上の人

非課税対象

株式・投資信託などの配当金、分配金、譲渡益

一定の投資信託の分配金、譲渡益

非課税投資枠

毎年120万円(5年間で最大600万円)

毎年40万円(20年間で最大800万円)

非課税期間

最長5年間(期間終了後はロールオーバーが可能)

最長20年間

投資可能期間

2014~2023年

2018~2037年

その他

2024年以降は新NISAへ移行予定

投資対象商品は長期・積立・分散投資に適した一定の投資信託に限られる


一般NISAは投資信託だけでなく、株式やJ-REITなども非課税の対象だ。非課税投資枠は毎年120万円で、1年あたりの上限額はつみたてNISAより大きい。2024年以降は2階建て(1階部分は積立投資、2階部分は制限なし)の新NISAへ移行予定だ。

つみたてNISAは、投資対象商品が「販売手数料ゼロ」「信託報酬は一定水準以下」など、長期の資産形成に適した一定の投資信託に限定されているのが特徴だ。1年あたりの投資上限額は40万円と少額だが、20年間で最大800万円まで非課税で運用できる。

個別株に非課税で投資したい場合は一般NISA、投資信託の積立投資で資産形成に取り組む場合はつみたてNISAを選ぶといいだろう。


株式投資の譲渡損失の繰越控除

株式投資で譲渡損失(売却損)が生じた場合、特定口座(源泉徴収あり)で取引していれば、証券会社が他取引の譲渡所得(売却益)や配当所得と損益通算をしてくれる。

損益通算をしても控除しきれない金額については、確定申告をすると、翌年以降3年間にわたって株式投資の譲渡所得や配当所得から繰越控除が可能だ。

たとえば、2021年に株式投資で100万円の損失が出て翌年以降に繰り越したとしよう。2022年の株式投資の利益が100万円の場合、2021年の損失100万円と相殺できるので、課税所得はゼロ(税金なし)となる。

株式投資で損失が出たら、翌年以降の節税のために確定申告を忘れないようにしよう。

住宅ローン控除

住宅ローン控除

住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)とは、住宅ローンを利用してマイホームの新築や取得、リフォームなどをしたときに利用できる税額控除だ。

住宅ローン年末残高(最高4000万円)の1%が、各年分の所得税額から控除される。控除期間は通常10年間だが、一定の要件を満たす場合は控除期間が延長されるケースもある。住宅ローン控除は節税効果が高いので、マイホームを購入するなら利用したい制度だ。

最初の年は確定申告が必要だが、2年目以降は勤務先で年末調整を受けられる。

住宅ローン控除は、購入する住宅の種類や契約・入居のタイミングによって控除額が変わってくる。控除額や手続き方法がよくわからない場合は、住宅メーカーや不動産会社、税理士などに確認するといいだろう。


生命保険料控除

生命保険料控除とは、生命保険や医療保険、個人年金の保険料を支払ったときに受けられる所得控除だ。保険料のうち一定額が所得から控除されるので、所得税と住民税の節税になる。

会社員は、保険会社から送付される「生命保険料控除証明書」を使い、勤務先で年末調整を受けられる。新契約分(2012年1月1日以降の保険契約)の控除額は以下の通りだ。

年間支払保険料

控除額

2万円以下

支払保険料全額

2万円超 4万円以下

支払保険料×1/2+1万円

4万円超 8万円以下

支払保険料×1/4+2万円

8万円超

4万円


控除額は生命保険、介護医療保険、個人年金それぞれ最高4万円で、合計12万円が控除額の上限となる。旧契約分(2011年12月31日以前の保険契約)は、控除対象となる保険の種類や控除額の計算式が異なるので注意しよう。

年末調整を受け忘れた場合は、確定申告をして控除を受けることも可能だ。


地震保険料控除

地震保険料控除とは、地震保険の支払保険料に応じて受けられる所得控除だ。控除額は最高5万円で、地震保険料控除証明書があれば、会社員は勤務先で年末調整を受けられる。年末調整を受け忘れた場合は、確定申告で控除を受けることも可能だ。

地震保険料控除

医療費控除

医療費控除とは、自分や家族が10万円超の医療費を支払った場合に利用できる所得控除だ。医療費控除は年末調整の対象外なので、会社員でも自分で確定申告をする必要がある。

その年の1月1日~12月31日に支払った医療費が対象で、未払いの医療費は実際に支払った年に医療費控除の対象となる。

医療費控除の対象金額は「支払った医療費-10万円」で、最高200万円まで控除できる。その年の総所得金額等が200万円未満の場合は、「支払った医療費×5%」が控除額だ。

健康保険の高額療養費などを受け取っている場合は、支払った医療費からその金額を差し引く必要がある。

幅広い支出が控除対象となるが、健康診断や人間ドック、病気予防のためのビタミン剤などは認められない。医療費控除を受けられるように、医療費のレシートや領収書は捨てずに保管しておこう。


セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)

セルフメディケーション税制の申請書

セルフメディケーション税制とは、一定の一般用医薬品(スイッチOTC医薬品)の購入費が年1万2000円を超える場合、その超える部分の金額が所得から控除される制度だ。通常の医療費控除とセルフメディケーション税制は選択適用となる。

セルフメディケーション税制の対象となる医薬品は、商品のパッケージに控除対象マークがついている。支払った医療費が年10万円未満の場合は、セルフメディケーション税制の利用を検討しよう。

ふるさと納税(寄附金控除)

ふるさと納税とは、自治体を選んで寄附をすると寄附金控除が受けられる制度だ。原則として自己負担額2000円を除いた金額が控除対象となり、所得税の還付や住民税の控除を受けられる。

ふるさと納税は寄附金の使い方を指定でき、寄附先の自治体から返礼品がもらえるのが特徴だ。自己負担額2000円で米や肉、野菜といった地域の名産品がもらえることから人気を集めている。

自営業者は確定申告が必要だが、会社員(給与所得者)で1年間の寄附先が5自治体以下の場合は「ワンストップ特例制度」が利用できる。申請書や本人確認書類を寄附先の自治体に送付すれば、確定申告不要で控除を受けられる。

ふるさと納税をする際は、ふるさと納税サイトを利用するのが便利だ。寄附先の自治体選びから寄附金の支払いまで簡単に手続きできる。ふるさと納税はお得な仕組みなので、積極的に活用するといいだろう。

ふるさと納税の領収書

扶養控除

扶養控除とは、16歳以上の扶養親族がいる場合に所得控除を受けられる制度だ。年齢や同居の有無などに応じて、扶養親族1人あたり38~63万円の控除を受けられる。

共働き夫婦で16歳以上の子どもがいる場合は、収入が高い人の扶養に入れるほうが有利だ。収入が高いほど所得税率が高くなるため、節税できる金額も増える。

一定の条件を満たせば、別居している親族(離れて暮らしている親など)を扶養に入れることも可能だ。


特定支出控除(会社員のみ)

特定支出控除とは、会社員(給与所得者)が自分で払った必要経費(特定支出)を所得から控除できる制度だ。

特定支出とは、通勤費や旅費、転居費、研修費、資格取得費などで、給与の支払者が証明したものが控除対象となる。特定支出のうち、その年の「給与所得控除額×1/2」を超える部分の金額が控除額だ。

特定支出控除を受けるには、支出明細書や給与支払者の証明書などを添付して確定申告を行う必要がある。特定支出に該当する支払いがある場合は積極的に利用しよう。


節税して手取りを増やそう

会社員は勤務先で年末調整を受けられるので、節税を意識する機会は少ないかもしれない。しかし、このページで紹介した節税対策を実践すれば、税負担の軽減が可能だ。少しでも手取り額を増せるように、利用できる制度や控除は積極的に活用しよう。

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