勤務先からの給与や事業の売上など、何らかの収入を得ている場合は、原則として所得税を納めなくてはならない。

会社員は給与から税金が源泉徴収されており、勤務先で年末調整を受けられるので、所得税について考える機会は少ないのではないだろうか。個人事業主であっても、確定申告を税理士に任せている場合は、所得税の仕組みがよくわからないかもしれない。

そこで今回は、所得の種類や税率、所得控除、税額の計算方法など、所得税の仕組みについて詳しく解説する。


所得税とは

所得税とは、個人の所得に対してかかる税金だ。1年間(1月1日~12月31日)のすべての所得(収入-必要経費)から、所得控除を差し引いた残りの課税所得金額に税率をかけて税額を計算する。

会社員は勤務先で年末調整を受けられるため、給与・賞与以外の収入がなければ基本的に確定申告は不要だ。ただし、医療費を多く払った場合など、年末調整では受けられない所得控除を利用する場合は確定申告が必要になる。

個人事業主は自分で1年間の所得を計算し、確定申告をしなくてはならない。自分で確定申告をするのが難しい場合は、税理士に代行してもらうことも可能だ。

2037年までの各年分については、所得税と併せて復興特別所得税を納める必要がある。復興特別所得税は、基準所得税額に2.1%の税率をかけて計算する。源泉徴収の際は、復興特別所得税も併せて差し引かれている。

初心者向けに所得税を解説

所得の種類

所得税法では、その性質によって所得を以下の10種類に分類している。それぞれ収入や必要経費の範囲、所得の計算方法、税率などが定められている。

所得の種類

内容

利子所得

預貯金や公社債の利子などの所得

配当所得

株式の配当金、投資信託の収益分配金などの所得

不動産所得

土地や建物などの貸付けから生じる所得(家賃収入など)

事業所得

事業から生じる所得

給与所得

給料や賞与などの所得

退職所得

退職金、確定給付年金・確定拠出年金の一時払の老齢給付金などの所得

山林所得

所有期間5年超の山林を伐採して譲渡したことなどによる所得

譲渡所得

土地や建物、株式等を譲渡したことによる所得

一時所得

生命保険の一時金、賞金・懸賞当せん金などの所得

雑所得

公的年金などの所得、他の所得に当てはまらない所得

上記のうち、個人が身近に感じるのは給与所得や事業所得ではないだろうか。会社員なら給与・賞与が給与所得、個人事業主は売上が事業所得になる。不動産投資の家賃収入は不動産所得、株式の売却益は譲渡所得だ。

ちなみに、仮想通貨取引で得た利益は雑所得に該当するため、原則として確定申告が必要になる。

所得税の税率

総合課税の税率

総合課税とは、各種の所得金額を合計して所得税額を計算する制度だ。事業所得や給与所得など、先ほど示した所得の多くは総合課税に該当する。

総合課税の所得税率(所得税の速算表)は以下の通りだ。

総合課税の所得税率(所得税の速算表)たとえば、課税所得金額が500万円の場合、所得税額は57万2500円(500万円×20%-42万7500円)となる。課税所得金額は収入ではなく、収入から必要経費や所得控除を差し引いた残りの金額であることに注意が必要だ。


分離課税の税率

分離課税とは、他の所得と合計せず、分離して所得税額を計算する制度だ。分離課税には、源泉徴収で納税が完結する「源泉分離課税」と、確定申告で税額を納める「申告分離課税」の2つがある。

源泉分離課税の代表的な所得は預貯金の利子だ。銀行口座で定期的に受け取る預金利息は、所得税等が源泉徴収されている。銀行が利息から所得税等を差し引いて納税してくれるので、預金者自身が確定申告をする必要はない。

源泉分離課税の税率は20.315%で、内訳は所得税15.315%(復興特別所得税含む)、地方税5%だ。

申告分離課税は所得によって税率が異なる。代表的な所得は譲渡所得(土地・建物)だ。土地や建物を売却して譲渡所得を得た場合は、他の所得と分離して所得金額と税額を計算し、確定申告をしなくてはならない。

土地・建物の譲渡所得の税率は、物件の所有期間に応じて以下のように異なり、2037年までは別途復興特別所得税もかかる。

  • 長期譲渡所得(所有期間5年超):20%(所得税15%、住民税5%)
  • 短期譲渡所得(所有期間5年以下):39%(所得税30%、住民税9%)

株式や投資信託などを売却して得た利益も、譲渡所得として申告分離課税の対象だ。ただし、証券口座を開設する際に「特定口座(源泉徴収あり)」を選択すれば、証券会社が売却益から源泉徴収してくれるので、原則として確定申告は不要となる。


所得控除とは

所得控除とは、所得税額を計算する際に所得から差し引くことができるものだ。各納税者の個人的な事情を加味して税負担を調整する役割がある。主な所得控除は以下の15種類だ。

所得控除の種類

適用条件

雑損控除

災害や盗難、横領などの被害にあったとき

医療費控除

自己または自己と生計を一にする配偶者などの親族が一定額を超える医療費を支払ったとき

社会保険料控除

健康保険、国民年金などの社会保険料を支払ったとき

小規模企業共済等掛金控除

確定拠出年金、小規模企業共済などの掛金を支払ったとき

生命保険料控除

生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払ったとき

地震保険料控除

地震保険料を支払ったとき

寄附金控除

一定の寄附金を支払ったとき、ふるさと納税をしたとき

障害者控除

納税者自身、生計を一にする配偶者・扶養親族が所得税法上の障害者に当てはまるとき

寡婦控除

納税者が寡婦(かふ)であるとき

ひとり親控除

納税者がひとり親であるとき

勤労学生控除

納税者が勤労学生であるとき

配偶者控除

納税者に所得税法上の控除対象配偶者がいるとき

配偶者特別控除

配偶者控除が受けられない配偶者がいて、配偶者の所得金額などの一定の要件を満たすとき

扶養控除

納税者に所得税法上の控除対象扶養親族がいるとき

基礎控除

所得税額を計算するときに所得から差し引くことができる控除(所得金額の条件あり)

会社員は、ほとんどの所得控除を年末調整で受けられる。しかし、医療費控除や寄附金控除、雑損控除は年末調整の対象外なので、利用する場合は確定申告が必要だ。

ふるさと納税に関してはワンストップ特例制度があるため、会社員は申請書を提出するなどの要件を満たせば確定申告は不要となる。

所得控除を利用すると課税所得が減額され、納めすぎた税額があれば還付を受けられる。適用条件を満たす場合は積極的に活用しよう。

ふるさと納税


税額控除とは

税額控除とは、課税所得金額に税率をかけて計算した所得税額から一定の金額を控除するものだ。本来納める税額から一定額を差し引けるので、所得税の節税になる。

たとえば、住宅ローンでマイホームを購入したときに適用される「住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)」は税額控除だ。会社員が住宅ローン控除を利用する場合、1年目は確定申告が必要だが、2年目以降は勤務先で年末調整を受けられる。

税額控除は節税効果が大きいので、適用要件を満たす場合は忘れずに利用しよう。


所得税の計算方法

所得税の計算方法は以下の通りだ。

  1. 所得金額を計算する(収入-必要経費)
  2. 課税所得金額を計算する(所得金額-所得控除)
  3. 課税所得金額をもとに所得税額を計算する(課税所得金額×所得税率)

まずは収入から、収入を得るために要した経費を差し引いて所得金額を求める。個人事業主は、売上から事業のために支払った経費を差し引くことが可能だ。

会社員は、給与等の収入から給与所得控除額を差し引いて給与所得を計算する。給与所得控除は収入に応じて金額が決まっている。会社員の必要経費だと考えるといいだろう。

給与所得控除の表各種所得金額を求めたら、すべての所得(分離課税を除く)を合計し、所得控除を差し引いて課税所得金額を計算する。最後に、課税所得金額に所得税率をかけると所得税額が求められる。

住宅ローン控除などの税額控除がある場合は、計算した所得税額からさらに税額控除額を差し引くことが可能だ。


所得税の支払い方法

所得税には以下の支払い方法が用意されている。

  • 振替納税を利用する
  • e-Taxで納付する
  • クレジットカードで納付する
  • QRコードを使ってコンビニエンスストアで納付する
  • 金融機関または税務署の窓口で現金納付する

振替納税とは、納税者本人名義の預貯金口座からの口座引き落としで納付する方法だ。依頼書に必要事項を記入し、所轄税務署や金融機関に提出すれば利用できる。

他にもe-taxやクレジットカード、QRコードなどさまざまな納付方法がある。金融機関や税務署の窓口で、現金に納付書を添えて納付することも可能だ。

確定申告書の提出後に、納付書の送付や納税通知等のお知らせが届くことはない。納税者自身で納付手続きを行う必要がある点に注意しよう。

会社員が年末調整を受けて所得税に過不足がある場合は、勤務先が給与支給時に還付などの調整を行うため、本人が直接手続きする必要はない。


所得税理解は節税への第一歩

所得税にはさまざまな所得控除、税額控除があるので、うまく利用すれば税負担の軽減が期待できる。投資には元本割れリスクがあるが、節税は適切に手続きをすれば確実に得をする。ムダな税金を払わずに済むように、所得税の基礎知識を身に付けておこう。

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