2018年5月22日、米商品先物取引委員会(CFTC)は、仮想通貨デリバティブ商品の上場に関する勧告を行った。この勧告は、取引所や清算機関に対して明確な指針を提供することが目的だった。その数日前には、米国のウォレットと仮想通貨取引所大手のコインベースが、銀行ライセンスの取得について規制当局と協議を行った。

 いずれも、米国における仮想通貨のステータスが不確かな中で起きた動きだ。連邦政府の規制当局は、ビットコインやアルトコイン、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)の明確な規制構想をいまだ見いだしていない。現在、仮想通貨には複数の連邦規制当局が関わっており、それぞれがビットコインのような仮想通貨を、証券、貨幣、財産、商品というように、異なった観点から見ている。しかも州レベルにおいても、さらなる規制が適用される場合がある。

 連邦レベルで1つの明確な規制の枠組みが存在していないことから、仮想通貨は米国では様々なカテゴリーに分類され、そのすべてを考慮することが要求される。米国では、議会がCFTCや証券取引委員会(SEC)などの連邦規制局の上位に位置しており、規制局は議会が制定した法律に従わねばならない。現在議会はこの問題について沈黙しており、各規制当局はそれぞれの観点から仮想通貨を見ている。このことが、異なる規制局が、1つのアクションに対して同等の規制権を主張することが可能になっている理由だ。このため米国市民は、様々な規制当局の現行の規制すべてに、たとえそれらが互いに矛盾しているとしても、従わねばならない。

SEC:ICOと戦い、「バランスの取れたアプローチ」を目指す

 証券取引を規制しているSECは、仮想通貨の大半を証券とみなしている。SECがその権限の範囲を見極める際に適用している、70年前から存在しているハウィー・テストによると、証券とは、主に他者の努力に依拠した共同事業からの収益を期待して行われる金銭の投資だ。

 昨年SECは、デジタル資産に関して指標となる見解を発表し、ICOは証券とみなされる場合があるため、厳格な法律や規制の対象となると主張した。最近SECは仮想通貨に関する見解を詳しく説明し、仮想通貨取引からウォレットに至るすべてに証券法の適用を検討していると述べた。SECはICOに焦点を当てているようで、18年2月には一斉調査に乗り出し、召喚状を発行して、多くのICOを「未登録証券」として閉鎖させた。その前にはSECのジェイ・クレイトン委員長が、「ICOと仮想通貨の多くの推進者」は証券法を遵守していないと批判した。クレイトン氏はかつて、ウォールストリート・ジャーナルに寄稿した意見記事の中で、ICOは「資金集めの効率的道具になる可能性がある」と認めたことがあったが、「登録、開示せず、証券法の詐欺防止要件を満たそうとしない者を、SECは徹底的に追求する」とも警告していた。

 4月に行われた米下院議会の公聴会では、SEC企業財務部門の代表、ウィリアム・ヒンマン氏が、SECがICOを全面禁止していない理由を説明し、SECはデジタル資産とICOに関して「バランスのとれたアプローチ」を目指していることを示唆し、この分野が「進化を続ける」との見通しを示した。

 ヒンマン氏はまた、クレイトン氏による、大半のICOは有価証券とみなすべきとの発言を踏襲した。SECはトークンを発行する事業体と協議し、発行するトークンが証券として規制されるべきものか、あるいは証券でないかを検証すると、ヒンマン氏は述べた。ICOが証券の提供とみなされないケースについて問われると、同氏は次のように答えた。

「理論上は、あるコインが市場におけるある種の分散型ユーティリティになりうる時期がある。規制すべき発行者が存在しないコインもある…理論上は、中央の統治主体が存在しないことによって…証券として規制することが困難なコインが出てくる可能性がある」

 SECのロバート・ジャクソン委員は最近のCNBCのインタビューで、ICO市場は統制されていない証券市場の典型例だとして、次のように発言した。

「証券規制がない市場がどのようなものか、SECが任務を遂行しない市場がどのようなものか知りたければ、ICO市場を見ればその答えが分かる」

 ジャクソン氏はまた、証券ではないICOをいまだ見たことがないと語り、現在のところ、SECに登録しているICOは存在しないと述べた。もっとも、プラエトリアン・グループが3月上旬に、自社のICOを証券の提供としてSECに申請した。もしこの申請が認められれば、同社はSECに規制されたICOを実施する初めての企業となる。

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 証券取引委員会(SEC)

 SECは投資家を詐欺から守る責務を負う独立連邦機関。米国証券市場の主たる監督機関

 仮想通貨をどう見ているか? 証券

 
 商品先物取引委員会(CFTC)

 CFTCは市場参加者を詐欺から守る独立連邦機関。米国の商品先物とオプション市場の規制当局

 仮想通貨をどう見ているか? 商品

 
 金融犯罪執行機関連絡室(FinCen)

 FinCenは米財務相の1部局。マネーロンダリング、テロ資金、その他の金融犯罪を取り締まることを目的に金融取引を分析する

 仮想通貨をどう見ているか? 貨幣

 
 歳入庁(IRS)

 IRSは税を徴収し、税法を執行する政府機関

 仮想通貨をどう見ているか? 財産

 
 米国外国資産管理局(OFAC)

 OFACは米財務省の1部局。米国の安全保障と外交政策に則って経済制裁を実施する

 仮想通貨をどう見ているか? 貨幣もしくは法定通貨

 

CFTC:全般的に仮想通貨に優しいアプローチ

 商品デリバティブ取引を全面的にコントロールしているCFTCは、トークンは商品と主張している。このことは、CFTCから見れば、政府の裏付けを持たず、なんら義務を負わないビットコイン(BTC)は、従来の通貨や証券よりも金に近いことを意味している。仮想通貨を商品として規制するCFTCのアプローチは、最近ニューヨーク連邦判事によって支持された。

 CFTCのブライアン・クインテンス委員が説明したように、「プレセールで提供された仮想通貨トークンは変化する場合がある。資本調達の観点から見れば、SECに規制される証券としてスタートしても、ある時点で商品に変わる。間もなく、あるいは即座に変わる可能性もある」。

 CFTCはビットコイン支持寄りの姿勢を見せ、レッジャーX(LedgerX)が規制されたビットコイン先物市場を作ることを認めた。しかもCFTC委員長で「仮想通貨の父」を自称する-ツイッターのプロフィール欄に短期間「cryptodad」というハッシュタグを使っていた-J・クリストファー・ジャンカルロ氏は、かなり仮想通貨に優しい規制当局者と評価されている。もっとも、同氏は19年に任期満了で辞任することになる。そのジャンカルロ氏は2月に次のように語った。

「否定するのではなく、思慮深くバランスの取れた対応をすることで、この新たな世代が仮想通貨に対して抱いている熱意を尊重する義務が、我々にはある」

 仮想通貨の定義は異なるものの、CFTCはSECと協力関係にある。CFTCはSECは、おおいに待たれた公聴会を2月に開き、仮想通貨産業が金融システムに新たなパラダイムを加えていることを評価し、公平な規制の枠組みの重要性を強調して、「もしビットコインがなかったら、ブロックチェーンも存在しなかっただろう」という有名なコメントを残した。

 CFTCはまた、優先順位を明確にした。CFTCはブロックチェーンと仮想通貨の成長に関心があると強調しつつ、詐欺ICOに焦点を当てている。これが現時点における連邦規制当局の主な方向性のようだ。様々な規制機関は、不法ICOに対処した後で、何がトークンを証券や商品、貨幣、ユーティリティにするのかといった、より困難な問題に取り組むことになるのかもしれない。

FinCen:ICOの扱いは様々だがトークンは基本的に貨幣

 財務相の1部局である金融犯罪執行機関連絡室(FinCen)は、本人確認(KYC)とマネーロンダリング対策(AML)に関して全権を有しており、トークンを貨幣とみなしている。言い換えれば、FinCenの管轄下では、ICO販売は銀行秘密法の送金者ルールの対象となるため、政府に登録して顧客に関する情報を収集し、疑わしい金融活動を報告することが求められている。

 FinCenは3月、同連絡室のドリュー・マロニー法制次官補がロン・ワイデン上院議員に送った書簡を公開した。その中でマロニー氏は、FinCenが規制法をICOに適用することになるとして、「ICOコインやトークンを販売したり、それを他の仮想通貨、法定通貨、または通貨の代替的価値と交換する取引所は…送金業者とみなされる」と説明した。FinCenは、「約100カ所の仮想通貨取引所」がFinCenに登録されているとした上で、15年のリップルラボや17年のBTC-eに対する取締りに言及した。

 もっとも、この書簡の中で、FinCenは、「ICOの扱いは様々」だと認めており、「証券のブローカーやディーラーを規制するSECの管轄下にあてはまる参加者もいれば、商品のマーチャントやブローカーを規制するCFTCの管轄下にあてはまる参加者もいる」と述べている。

IRS:簡単でないのはわかっているが、確実に税金を納めるように

 歳入庁(IRS)は、仮想通貨は通貨ではなく財産と考えているため、仮想通貨を売却して利益を得た場合は、キャピタルゲイン税の対象となる。IRSは14年、仮想通貨の課税方法に関するガイダンスを発行した。通知2014-21によると、受け取ったりマイニングしたりした仮想通貨は、受け取った日の仮想通貨の適正な市場価値で総収入に計上しなければならない。

 サンフランシスコを拠点とするウッドLLPの税理士、ロバート・W・ウッド氏は、コインテレグラフの「専門家の寄稿」の中で、仮想通貨の納税にまつわる様々なニュアンスを説明し、IRSが追跡目的でソフトウェアを使用していることやコインベースの召喚を思えば、IRSの仮想通貨狩りは終わらないだろうと指摘した。

 3月23日、IRSは、デジタル通貨による収入は確定申告で申告する必要があると、米国民に注意を促す文書を発表した。IRSはまた、仮想通貨取引の「本質的に匿名の側面」を強調した。

 しかし、統計数値が示すように、仮想通貨について税金を納めている人はほとんどいない。確定申告提出期限の数日前に、クレジット・カルマは、最近確定申告を済ませた25万人のうち、仮想通貨投資による売却益を申告した人は100人に満たなかったことをCNBCでレポートした。確定申告期間が始まったばかりの18年2月の時点でも、クレジット・カルマによると、確定申告を済ませた人のうち、仮想通貨の売却益を申告したのは25万人中100人、つまりわずか0.04%だった。IRSによると、15年に確定申告で仮想通貨の売却益や売却損を申告したのは、総計わずか802人だったという。

OFAC:制裁対象者の仮想通貨ウォレットをブラックリスト化

 米国の安全保障と外交政策に則って経済制裁を実施する、米財務省の1部局である米国外国資産管理局は、仮想通貨を貨幣もしくは法定通貨として扱っているようだ。同局は3月にFAQを更新し、仮想通貨に関するセクションを加えた。

 国際税理士のセルバ・オゼッリ氏がコインテレグラフの「専門家の寄稿」の中で説明しているように、OFACの新たなガイダンスのもとでは、米国市民は、取引が法定通貨に関与しようと仮想通貨に関与しようと、基本的に同じ制裁措置に従う義務が生じる。言い換えれば、仮想通貨に関与して制裁に違反すれば、法定通貨に関与している場合と同様に扱われることになる。

 さらに、OFACが作成する特定国籍業者(SDN)リストは改訂が予定されており、対象者の仮想通貨アドレスとウォレットが追加されることになる。オゼッリ氏が指摘するように、「このガイダンスは、リストに掲載されたデジタルアドレスとビジネスを行うことは禁じられる可能性があることを米国人に知らしめ、仮想通貨の世界を探求する事業体のコンプライアンスへの配慮を高めようとするものだ」。

 従って、このプログラムのメカニズムは、制裁対象リストのスクリーニングその他の関連措置など、KYCの手続きに似ている。OFACの規制に従うことを怠った場合は、民事上および刑事上の相当の処罰が下される可能性がある。

 OFACがどのようにしてSDNリスト掲載者の仮想通貨ウォレットを特定するのかについては完全に明らかになっているわけではないものの、エドワード・スノーデン氏が3月に入手した機密文書によると、米国家安全保障局(NSA)は、仮想通貨ユーザーを追跡して非匿名化するシステムの開発に成功したという。

「冷え込む市場」:責任ある明確な規制の必要高まる

 ワシントンで最近開催された「仮想通貨とICO市場の検証」と題された公聴会で、仮想通貨取引所大手のコインベースが、米国における不統一な規制が市場を「冷え込ませて」いることに懸念を表明した。

 コインベースのマイク・レンプレス最高法務・リスク管理責任者は、デジタル通貨技術の「はかり知れない可能性」は、「責任ある規制」を通してのみ実現可能と強調し、現在の米国の規制システムは、何を許可し、何を規制すべきかへの理解が不足しており、デジタル資産を証券とみなすのか、それとも商品、財産、貨幣とみなすのかが定まっていないことによって、「健全なイノベーションに害を及ぼしている」と訴えた。

「証券の定義と規制範囲があまりにも曖昧なために市場が冷え込んでいる。この状況は誰の利益にもならない。技術は進化し続けるからだ。このままでは技術は海外へ移転し、米国内で利益を生み出すチャンスを逸することになる」

 レンプレス氏は連邦規制当局間の「協調の欠如」を指摘し、必要な規制が採用されるまでは、コインベースはICOのサポートを開始できないと述べた。仮想通貨を資産として定義することには、実際、注意を要する。証券のように見える仮想通貨もあれば、商品のように振る舞う仮想通貨も存在する。また、大半の仮想通貨が、その両方の性質を備えていると考えるのが妥当だろう。CFTC委員長の発言は、この見解と同様だ。同委員長が示唆しているとおり、複雑な現状だが、規制の枠組みが整うまでにはまだかなりの時間がかかりそうだ。

 それでも、米国における仮想通貨の未来は、結局のところ明るいものかもしれない。米国の規制当局の大半はかなり「仮想通貨に優しい」。イノベーションを阻むことは望んでおらず、ブロックチェーン事業を国内に留めておきたがっている。だが同時に、不正な振る舞いをする輩から個人を守りたいと考えている。これは難しい綱渡りで、実用主義と時間を要する。