米国で巨額の被害を生む「豚の屠殺(Pig-butchering)」と呼ばれる詐欺が、もはや単なる消費者被害にとどまらず、国家安全保障レベルの脅威に発展している。
チェイナリシスの国家安全保障インテリジェンス責任者アンドリュー・フィアマン氏と、クロスセクターの反詐欺非営利団体「オペレーション・シャムロック」創設者で元検察官のエリン・ウェスト氏が、豚殺し詐欺が国家安全保障上の問題となりつつある現状をポッドキャストで議論した。
「お金に触れる可能性のあるすべての主体が、この問題の一部になり得る。そのため、国家安全保障レベルで何が起きているのか、脅威と重大性を理解する必要がある」とウェスト氏は述べ、仮想通貨詐欺対策における教育と認識向上の重要性を強調した。
豚の屠殺詐欺とは、犯罪者が被害者と恋愛や友人関係などで長期的な信頼関係を築いた後、偽の仮想通貨投資プラットフォームへ誘導し、資金を吸い上げる詐欺だ。
東南アジアを中心に拡大する詐欺の実態
ポッドキャストによると、東南アジアの詐欺組織は寮のような環境の「詐欺コンパウンド」で人身売買された労働者を使い、被害者へ連絡を取り、恋愛感情などを利用して信頼を築き、偽の投資に誘導して資金を奪う。
2023年には、米司法省(DOJ)が豚の屠殺詐欺に関連して約1億1200万ドル相当の仮想通貨を押収。チェイナリシスの2024年2月の報告書によれば、豚殺し詐欺は前年から約40%増加し、仮想通貨詐欺全体の収益は99億ドルを超えた。
さらに見過ごされがちな問題として、被害者が二重に狙われるケースも多い。最初の詐欺の後、偽の資金回収業者から接触があり、さらに金銭を奪われる場合があるという。
ウェスト氏は「一度被害に遭うとリストに載り、二度目の詐欺に遭う可能性がさらに高くなる」と述べた。
フィアマン氏とウェスト氏は、豚の屠殺詐欺が人身売買、マネーロンダリング、仮想通貨取引を複雑に組み合わせた国際的な犯罪モデルに成熟していると指摘した。
フィアマン氏は、ブロックチェーンの透明性を利用すれば、規制当局や取引所、仮想資産サービスプロバイダー(VASP)が詐欺を阻止できる可能性があると述べた。
「ブロックチェーンを使っていることは、正しく活用されれば取引の出口で詐欺を阻止できるチャンスとなる」と語った。
政府当局も本格対応へ
こうした被害拡大を受け、各国政府も動き出している。11月12日、米司法省は中国系の国際犯罪組織による東南アジアの仮想通貨投資詐欺を取り締まるため、「詐欺センター・ストライクフォース」を創設した。
同時に、アジア太平洋地域(APAC)の法執行機関は、チェイナリシス、OKX、テザー、バイナンスと協力し、豚の屠殺詐欺関連の4700万ドルを凍結する措置を実施した。
政府や捜査機関は、詐欺のオンランプ/オフランプ(現金化経路)を遮断し、関係者に制裁を加え、民間との協力を強化する戦略を進めている。
ウェスト氏は「国際組織犯罪への対抗策は、制裁、起訴、外交的圧力など、あらゆる手段を使うべきだ」と述べた。
注意すべき危険信号
豚の屠殺詐欺には、注意すべき典型的な兆候がある。多くの詐欺と同様に、まず感情操作が利用されるため、実際に会ったこともない人物がオンライン上ですぐに強い好意を示してくる場合は特に警戒が必要だ。
やり取りしている相手が、個人情報や職業的な経歴を共有することを頑なに拒む場合も、疑わしいポイントとなる。
さらに、相手が金銭を求めてきた瞬間――たとえ「緊急事態だ」と説明をつけても――それは豚殺し詐欺の主要なサインのひとつと言える。
また、「リスクなしで稼げる」「簡単に利益が出る」といった投資話を持ちかけ、巨額利益を示す偽のスクリーンショットを提示して投資を促すケースも典型的な手口だ。
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