金融庁が設置した仮想通貨交換業等に関する研究会は14日、第11回の会合を開き、金融庁の事務局から報告書案が示された。仮想通貨デリバティブ取引やカストディ業務、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)への規制から、「暗号資産」への名称変更まで、今後の仮想通貨規制の全体像があらわになった。

今日の研究会の議論では報告書案について大きな異論は出ず、今回の案をもとに最終報告書が作成されることになりそうだ。

時事通信産経新聞の過去の報道では、金融庁は来年の通常国会で資金決済法と金融商品取引法の改正を目指すとされている。今回の報告書案をもとに、仮想通貨への新たな規制が整備されるとみられる。

以下、報告書案で示された制度的対応の主なものを示していく

顧客財産の管理・保全の強化

2018年に2回の流出事件が発生したことを踏まえ、流出リスクへの対応のため、ホットウォレットで保管する仮想通貨に相当する額以上の純資産額及び弁済原資の保持を求めることが適当であるとしている。

また倒産リスクへの対応についても触れている。顧客から預かった仮想通貨を保護するため、「仮想通貨交換業者に対し、顧客を受益者とする信託義務を課すことも考えられる」と指摘しているが、信託銀行・信託会社の態勢整備の必要から現時点では全種・全量の仮想通貨を信託にするのは困難だとしている(将来的に、十分な態勢が整備されれば、信託をするのが望ましいとも述べている)。

自主規制団体との連携

仮想通貨交換業者の適正な業務遂行を確保するため、過剰な広告・勧誘を行わないことや認定自主規制団体との連携などに言及している。

自主規制との連携としては、認定自主規制団体に加入していない交換業者に対しても自主規制の効力が及ぶような仕組みを整える考えが示されている。具体的には自主規制団体に加入しない企業があった場合、自主規制に準ずる社内規則がないといったケースで、登録拒否や取消要件を設けるというものだ。

問題のある仮想通貨の取り扱い

匿名性の高い仮想通貨については、マネーロンダリングに悪用される懸念が研究会の中では過去にも指摘されていた。実際にコインチェックは既に、モネロやダッシュといった仮想通貨の取扱いを止めている。

報告書案では、仮想通貨の安全性は技術革新で急速に変化するとし、「問題がある仮想通貨を予め法令等で明確に特定することは困難」だと指摘。「現状、行政当局に対する事後届出の対象とされている仮想通貨交換業者が取り扱う仮想通貨の変更を事前届出の対象とする」ことが適当だとしている。

あるメンバーからは、「ビットコインがバージョンアップして匿名性が増すケース」や逆に「匿名通貨が非匿名のファンクションをつける可能性」があることから、「銘柄に縛られた議論より、実態に見合った議論が必要では」という意見も出た。

風説の流布や相場操縦などへの対応

有価証券に適用される不正行為の禁止、風説の流布の禁止、相場操縦の禁止といった措置を課すことが考えられると言及(インサイダー取引規制については禁止すべき行為と定めることは困難とも)。また仮想通貨交換業者に対しては、不公正な行為の有無の審査を求め、そうした行為が判明した場合には、取引停止といった措置を求めることが適当だとしている。

仮想通貨カストディへの対応

顧客の仮想通貨を管理するカストディ業者について、一定の規制を設けることも盛り込まれた。登録制や内部管理態勢の整備、仮想通貨の分別管理、弁済原資の保持といった規制を行うことが適当だとした。

メンバーからは、カストディでないウォレットに関しても規制が必要ではないかという声が出た。9月におきたZaifの巨額ハッキング事件では、「カストディ型ではないウォレットから盗まれた資金が送金されている実態がある」という。このメンバーは、アドレス照会に関する警察への対応やログの保存など、「非カストディ型のウォレットに関して規制をかけていくことは考えられる」と話した。

仮想通貨デリバティブ取引への対応

仮想通貨のデリバティブ取引については、ほかの資産のデリバティブ取引と同様の業規制を適用することが基本だとする考え方を示した。

証拠金取引での証拠金倍率については「適切な上限を設定することが適当」と述べているが、具体的な数字は示されていない。注の表記の中では、自主規制団体による上限4倍の規定が既に規定されていることと、EUなど海外では上限2倍となっているこちについて意見があった旨を記載している。

証拠金取引の倍率についてメンバーの中から「米国やEUの例を見れば、日本だけが4倍にするのはおかしいのではないか」という声が出た。これに対して日本仮想通貨交換業協会の奥山泰全会長は、「海外も2倍でフィックスされていない」と指摘。「レバレッジは4倍で良いという風には思っていない」とし、ボラティリティなど見ながら、柔軟に対応していく重要性を強調した。

ICO規制

ICO規制については、第10回での議論をベースに考え方が述べられている。ICOの性格に応じて、金融商品取引法もしくは資金決済法に基づく、対応を進めていく方向だ。

「ICOの性格に応じて、投資商品の販売と認めれるものについては投資に関する金融規制を、支払・決済手段の販売と認めれるものについては決済に関する規制を、それぞれ参考にしながら、必要な対応を行うことが適当と考えられる」(研究会 報告書案より)

投資性を有するものについては、情報開示の仕組みや第三者によるスクリーニング、トークン流通範囲に差を設ける仕組みなどの必要性を検討している。

業規制を設ける場合の経過措置

仮想通貨デリバティブ取引などに業規制を導入する際、経過措置として「みなし業者」を置くことになるが、その場合の対応についても触れている。具体的には以下のような対応を示している。

・業務内容や取り扱う仮想通貨等の追加を行わない

・新規顧客の獲得を行わない(少なくとも、新規顧客の獲得を目的とした広告・勧誘を行わない)

・ウェブサイトに登録を受けていないことを表示する

「仮想通貨」から「暗号資産」への呼称変更

第9回の研究会でも議論となった点だが、国際社会では Crypto Asset の表現が用いられるようになっており、法令上の「仮想通貨」の呼称を「暗号資産」に変更することが考えられるとしている。

メンバーからは、仮想通貨から暗号資産に呼称を変更するよう求める声は多い。あるメンバーは「国際的な動向を踏まえれば、日本だけが『仮想通貨』を使い続けることは具合が悪い」と指摘。「日本は前年に改正資金決済法を制定したことで世界に先駆けたが、2017年の仮想通貨上昇によって当時と状況が変わってしまった」と述べた。また別のメンバーは「我々が仮想通貨に期待したことは別のことであり、この報告書は、その点については否定していない」と発言。「暗号資産に偏ってしまった点については規制すればよい」と話した。

その他 メンバーからの提案

行政コストについて

仮想通貨交換業者に金融庁が求める最低資本金1000万円であることに対して、「安すぎるのではないか」という声がメンバーから出た。現在、金融庁に登録申請を含め問い合わせをしている業者は160社超とされるが、「160社も審査するのでは大変では?」「行政コストを考慮してもう少しハードルを上げた方が良い」という意見が相次いだ。

また、あるメンバーが、「何社になったらしっかりと自主規制を対応できるのか」という率直な質問を奥山氏に投げかける場面もあった。現在日本仮想通貨交換業協会は、16ある仮想通貨交換業者を19名の職員で対応しているという。奥山氏は「一概に何社が良いとは言えない」としつつも「現在の16社というのはいささか少なすぎる」と述べ、「しっかりと運営する業者が一つ一つ増えていくことが大事」と話した。

さらに、みなし業者の長期化を懸念する声も出た。「原則として、一定の期限を設けて特定の事案が発生したら延長するのが好ましいのでは」という提案がなされた。

新規コインについて

交換業者が新たな仮想通貨を取扱う際に、発行者から一定量のコインを受け取るなど経済的な便宜を受けて上場させるケースがあるという指摘も出た。あるメンバーは「たいした企業ではないけど上場させてくれと言うのは、株式の世界ではない」と発言。発行者と事業者との利害関係について注意喚起をする必要があると述べた。これに対して奥山氏は、「交換業者が扱うものに関しては自主規制団体も審査を行うことになるので、利益相反とか協業で利益を得ようとする行為が出ないようにモニタリングを進める」と話した。

ハードフォークへの対応

交換所で取扱うコインは、金融庁が事前審査を行う。しかし、コインがハードフォーク(分裂)した場合はどうするのかという質問が出た。あるメンバーは、先月15日にハードフォークしたビットコイキャッシュについて言及し、「今まで(フォーク後に)どちらがメインになるかはっきりしていたが、今回は分裂から1カ月経っても時価総額が拮抗している」と指摘。顧客資産を守るため、「分裂をした場合は、3~6カ月様子を見て改めて評価する」などの措置を検討した方が良いのではないかと提案した。