フランスは仮想通貨の友好国/嫌悪国という分類が難しい国家だ。今年のG20サミット会期中、フランスはブロックチェーンのパイオニアを目指すと宣言した。一方で、フランスのICOはスイスのような近隣国と較べるとはるかに少ない。

 フランスは4月26日、仮想通貨取引益の課税率を大幅に引き下げた。フランスで仮想通貨はどのような状況にあるのか、最近の規制変更を経てどのように評価できるのか、見てみよう。

仮想通貨規制Crypto regulation

 世界中の政府が、ブロックチェーン技術の使用をさらに規制しようとする動機は、いくつか存在する。第一に、資金の流れを監視することは、組織犯罪と戦うという国の使命に合致する。それが可能であるかどうかはまだわからないが、この目的だけでも、ブロックチェーンが存在するかぎり、国が注意を払い続けるに十分だ。

 第2に、どの国も国内のビジネスを活性化させようとしており、法整備は競争力を高めるのに不可欠だ。ブロックチェーンのイノベーションが成功する環境を整えるための法規制の重要性は、以下のように説明することもできる。信頼環境の確保は投資に役立ち、投資はイノベーションに役立つ。さらに、いまだ合法性を必要としている技術と関連するプロダクトへの、一般ユーザーの関与を促すことにもつながる。

欧州における規制-最近の動向

 昨年から今年にかけて世界各地で法整備に拍車がかかったが、それはとくにヨーロッパにおいて顕著だった。スイス金融市場監査局(FINMA)はトークンをカテゴリー分けした。わかりやすく、実用的なスイスの分類法は、ヨーロッパ全域で議論の際に参考にされるだろう。スイスが「クリプト・バレー」とも呼ばれ、業界の世界的リーダーになれたのもうなずける。同様に、イタリア経済・財務省も、同国における仮想通貨の使用を分類する法令作成に着手している

 いくつかのプロジェクトをすでに成功させているフランスは、世界の仮想通貨地図において、今ではヨーロッパ有数の前向きな政府だ。となれば、フランスの法的枠組みはどのようなものなのかが気になってくる。

フランスの現状

 今年1月15日、フランスのブルーノ・ルメール経済・財務大臣は、仮想通貨の規制を目的とする作業部会を設置し、ジャン=ピエール・ランドー氏が座長に就任した。ブロックチェーン技術の可能性をランドー氏がどのように見ているかは公表されていないものの、同氏は14年に「21世紀のチューリップ、ビットコイン熱に注意」と題した意見記事をフィナンシャル・タイムズに寄稿したことで知られている。これは、フランスが仮想通貨関連のイノベーションを壊そうとしていることを示しているのだろうか。

 恐らく、そうではないだろう。パリに住むブロックチェーンに詳しいイニシャル・コイン・オファリング(ICO)アドバイザーのローラン・ルルー氏は、コインテレグラフに次のように語った。

「法的状況及びビジネスが置かれている状況は全般的に非常に良好だ。エマニュエル・マクロン氏[現フランス大統領]は経済相だった当時、フランスの仮想通貨業界との会議を広く開催していた。『ミニボンド』の話題として始まった議論は、国会の様々な討議グループや、AMF[フランス金融市場庁、フランスの証券市場の規制当局]のような国家機関と民間企業の協議という形で、現在も続いている」

 ブルーノ・ルメール氏もブエノスアイレスで開催されたG20で、ブロックチェーンを強固に支持する立場をとったように見える。ルメール氏は「フランスはブロックチェーン革命を見逃すことはできない」と述べ、フランスは国際的ブロックチェーン開発において先駆的立場を担うとしたのだ。

(我々はこの革命を見逃すことはできない。…フランスは明日の世界を築くために積極的にならなければならない)

 事実、フランスで初めて大規模なICOを実施したiExec(17年4月にローンチ)を支えるコンピュータ科学者のジル・フェデク氏は、コインテレグラフに次のように語った。

「フランスの規制当局者は技術面に関してはたいへん知識が豊富で、この分野の起業家と積極的に対話を持とうとする姿勢を一貫して示してきた」

 最近の動向を振り返っても、仮想通貨の規制の枠組みを設けようとする大きな動きがフランスでいくつかあったことがわかる。

  • 17年12月8日、ブロックチェーンを通した証券取引の可能性に関する法令を政府が公布
  • 17年12月22日、AMF(金融市場庁)がブロックチェーン、仮想通貨、ICOに関する公的協議の結果を発表
  • 18年1月15日、ジャン=ピエール・ランドー氏が座長を務める仮想通貨の規制を目的とする作業部会を、ブルーノ・ルメール経済・財務大臣が設置
  • 18年4月26日、国務院がビットコインの課税に関するより詳細なガイドラインを開示。これについては本稿の後半で詳説する

問題その1:フランスには「ブロックチェーン規制」が存在するのか

 フランスの法律は米国同様に、成文と、法律を適用して解釈された判例とに基づいている。ブロックチェーン技術にまつわる問題は、以下の2つの規制の影響を受ける。

  • ブロックチェーンの問題の中には、既存の規制-マネーロンダリング関連法、刑法、証拠法、税法など-がデフォルトで適用されるものがある
  • これに加えて、ブロックチェーン技術のみに適用される規制も生まれつつある。たとえば政府が17年12月8日に公布した、ブロックチェーンを通じた証券取引の可能性に関する法令がこれに当たる

 裁判所がブロックチェーン仮想通貨の訴訟をすでにいくつか取り扱ってきた米国とは異なり、フランスでは、最近の国務院のビットコイン課税の例を除けば、この件に関する判断は今のところ存在しない。

 したがって、たった1つの文書とたった1つの判断から成るフランスにおけるブロックチェーンの「法的枠組み」は、現在のところ、ほぼ未検証だ。

問題その2:規制当局は特定のトークン分類を支持しているのか

 すでに述べたように、様々なトークンの分類法がこれまでに提案されてきた。こうした分類法は、それぞれの国で公的議論の指針となることから、トークンを巡る法的枠組みの整備における重大な要素だ。フランスのFINMAと見なすことのできるAMFは、17年末にブロックチェーン業界の代表者らと協議し、2つのおもな結果がもたらされた。

 第1に、トークンを以下の2つ(FINMAは3つ)のカテゴリーに分類/定義した。

「ユーティリティ・トークン」ICOプロモーターによって配布されたテクノロジー及び/もしくはサービスの、トークン保有者による使用を許可することにより、使用許可を与えるトークン。

「証券トークン」金融上の特権もしくは決定権を提供するトークン。こうしたトークンは、保有者に金融上の権利もしくは投票権を与える。トークンによって付与された政治的及び/もしくは金融上の権利は、現行法の下では場合によっては、こうした証券が「金融商品」に分類されることにつながる。

 第2に、ICOの望ましいベストプラクティスがまとめられた。

問題その3:フランスにおけるICOの法的枠組みは?

 フランスのICO業界はまだ初期段階にあり、スイスや米国、シンガポールに較べるとごくわずかだ。

TOP 10 COUNTRIES PER ICO AMOUNTS (% OF PROJECTS)

 上述したように、フランスではICOの特別な法的枠組みはない。このため、銀行や会計事務所-いかなる事業においても最初に関わる相手-が仮想通貨関連のビジネスに関与することに極めて慎重になる。とはいえAMFは、ICOのガイドラインは発表している。

 このガイドラインでは、トークンの分類以外にも、ホワイトペーパーに明記すべき情報がいくつか提案されている。すなわち、いかなるホワイトペーパーも、以下を明記すべきとしているのだ。

  • ICOに関連するプロジェクトとその展望の説明
  • トークンによって付与される権利
  • 紛争が生じた際の管轄裁判所
  • ICOの枠組み内で調達した資金の経済上、会計上の扱い

 これらのルールとその他の「ベストプラクティス」-まだ法的に定義されていない-を順守しているICOは近い将来、ホワイトペーパーを提出することによって、AMF(あるいはその関連機関)から「証明書」を取得できるようになるだろう。ブロックチェーン・パートナーの法律アドバイザーを務めるウィリアム・オローク氏はこう説明する。

「フランスはICOにまったく新しい枠組みを導入しようとしている。フランスの仮想通貨業界によって提唱された『ベストプラクティス』のほとんどを組み込んだ、自主的証明書システムだ。こうしたベストプラクティスを順守しているICOは、規制当局による公的証明書を申請できるようになる。この証明書はICO市場を、AMF(あるいは関連機関)によって認められたICOと、未規制のICOに実質的に二分することになるだろう」

 証明書の重要性は計り知れない。オローク氏は、コインテレグラフが取材してきた起業家が直面した困難と同じ状況を語る。

「現在のところ、銀行口座を開設するというような単純なことも、仮想通貨のプロジェクトではむずかしい場合がある」

 証明書システムが導入されれば、合法的ICOは、銀行や会計事務所といった重要な第三者と、よりたやすく関わることができるようになる。この自主的アプローチが国際的に見て非常に革新的であることも興味深い。ローラン・ルルー氏は次のように話す。

「証明書を与えるというフランスのアプローチは、たとえばスイスにおける『サンドボックス的制度』とは対照的だ」

 とはいえ、誰もがこの証明書システムに完全に満足しているわけではない。フランスの仮想通貨事業者協会、ル・セルクル・デュ・コインの会長、アドリ・タッカル・バタイユ氏はこう語る。

「『ユーティリティ』という概念は、ある意味で、規制当局が『なにも問題はない』という振りをして、行動を起こさない口実になる。投資家にとってはリスクが高くなりかねないにも関わらず。対照的に米国では、規制当局のデフォルトの姿勢はトークンを『証券』として扱うもので、それによって投資家の保護を最優先させている」

 投資家保護と、軽い規制に留めたイノベーションの間の妥協点をどこに置くのが最良なのかは、いずれはっきりするだろう。意外なことにフランスでは、珍しく後者が優先されているようだ。

問題その4:フランスで仮想通貨資産を取引する個人への課税

 フランス人の大半は、フランスではビットコインの課税に関して「法的空白」が存在すると考えているが、これは事実ではない。財政総局(フランスの国税局)が執筆編集している公報「税務公報(Bulletin officiel des impôts) 」は14年、仮想通貨の課税に関する明確なルールを発表している

  • 仮想通貨の売却によって得た収益は、不定期なものであれば「非商業カテゴリー」の所得税の対象となる(すなわち、時折Ebayで販売して収益を得たような場合。専門的活動にならない限りにおいては、所得税申告の「非商業」に分類される)
  • 活動が経常的である場合は「産業・商業的利益」税制の対象となる(すなわち、専門的活動による収益)
  • 帳簿上に蓄えられている仮想通貨のギフトのような一方的な譲渡の場合も、譲渡税の対象となり、国際条約の適用の対象となる

 国務院の4月26日の決定により、フランスにおけるビットコインの課税の詳細が明確化された。体系化するために、不定期の収益は現在以下のように定められている

  • ビットコインを不定期に売買したことによって収益を得た時は、原則として「動産のキャピタルゲイン」
  • 販売者が「本システムの生成とオペレーション」に直接参加している時(マイニングによる収益を指す)は、例外的に「非商業的利益」

 直接的影響は、フランスが累進課税(14~45パーセント)から19パーセントの一律課税へと移行したことだ。この決定はビットコインにのみ言及しているが、その精神において-また実質上も-ほかのコインにも適用されるだろう。

 アドリ・タッカル・バタイユ氏は、世界レベルにおけるフランスの立ち位置を見て、競合する管轄区域を持ち込むことに慎重だ。

「最近の税制の修正は小口投資家にとってはいいことだが、大口投資家にとっては以前よりも大きな制約として働く。投資家が金融的により魅力的な国へ大挙して脱出する恐れがある。真の解決策は、最終的に欧州レベルで整備することだろう」

問題その5:フランスでICOを実施する企業にとっての仮想通貨資産への課税

 14年のガイダンスは、これまでのほとんどの法律同様、個人への課税にほぼ焦点を当てている。一方でICOの税法上の取り扱いについては、いまだ不透明だ。このため、ジル・フェデク氏は以下のように語る。

「証明書システムは、ICOをどのように実施すべきかについてのガイドラインを提供するものになると見られる。たとえば、ホワイトペーパーに何を明記すべきかといったことだ。これは重要なことだが、仮想通貨資産を会計的見地から見てどのように処理すべきかということは明確にならない。つまり、『証明書システム』の導入後も、ICOからもたらされた仮想通貨資産をどのように会計処理すべきかは、はっきりしないままだろう。他方で、最近の国務院の決定により、仮想通貨取引の課税については、クリアになり始めている」

 企業の貸借対照表で仮想通貨資産をどのように会計処理すべきなのかが、主な疑問点だ。会計処理が課税を決めるため、この疑問は大きな不安を生む。いつになったらはっきりするのか。ウィリアム・オローク氏によると、早くても今年末になりそうだという。

「業界にとって是非とも必要なのは、仮想通貨資産の会計ルールが明確になることだ。それがはっきりすれば、課税についても道筋がつく。18年末に発表が予定されている税制改革に、明確なルールが盛り込まれるものと予想している」

 それでも、フランスでは有望なブロックチェーン・プロジェクトが、投資家や研究グループ、テクノロジー・インキュベーターらから成るエコシステムの発展と手に手を取って日々増加している。

有能で前向きな規制当局だが…やるべきことはまだ多い

 フランスの国会議員はブロックチェーン起業家に協力的なばかりか、ブロックチェーンを支える技術についてもかなり詳しい。このためフランスはリーダーシップを発揮して、仮想通貨業界を前進させることができる立場にある。

 これまでのところ国会議員は、仮想通貨の取引と譲渡に関する法的枠組みを整えることに注力してきた。一方で、仮想通貨資産、とりわけICOの文脈における仮想通貨資産の会計ルールは、まだ定まっていない。次はなにが起きるのか。コインテレグラフは今後も随時動向を報道していく。

 

本記事は、コインテレグラフ編集長のルクレツィア・コルネルと連携し、パリのベンスーサン&アソシエのテクノロジー弁護士、ピエール・デ・ボアスメニュと共同執筆した。