欧州証券市場監督局(ESMA)は、仮想通貨産業の拡大と伝統的金融機関との連携が進む中で、仮想通貨が今後、金融市場の安定性に対する脅威となる可能性があると警告を発している。
ESMAのナターシャ・カゼナベ事務局長は、4月8日に欧州議会の経済・金融問題委員会に提出した声明の中で、「仮想通貨価格の急激な下落が、将来的に金融システム全体に波及するリスクを排除できない」と述べた。
もっともカゼナベ氏は、仮想通貨が現在グローバルな金融資産全体の1%に過ぎないことから、「伝統的な金融市場に大規模な波及効果を及ぼす段階には至っていない」とも指摘している。
同氏は、仮想通貨に対して寛容な政策をとる米国を中心に、仮想通貨と伝統的金融市場との相互接続が急速に進んでいると述べ、より厳格な監視体制の必要性を訴えた。
「暗号資産市場は、予測困難な形で急速に進化している。我々はその動向を注意深く監視しなければならない」とカゼナベ氏は述べ、次のように続けた。
「たとえ小規模な市場であっても、その混乱が金融システム全体の安定性に影響を与える火種になることがある」
FTX破綻やハッキング事例も念頭に規制強化を示唆
カゼナベ氏は、現時点での懸念材料として、仮想通貨の現物型ETF、ステーブルコインの利用拡大、さらにはハッキングや詐欺、スキャンダルといった要因を挙げている。最近の事例としては、バイビットにおける14億ドル相当のハッキング被害や、2022年11月のFTX破綻などを代表例として取り上げられた。
欧州連合(EU)はすでに、仮想通貨のリスクに対応するための法的枠組みとして、2023年に「暗号資産市場(MiCA)規制」を導入している。
カゼナベ氏は、MiCAを「仮想通貨規制における画期的な一歩」と評価する一方で、「安全な暗号資産というものは存在しない」とも述べており、将来的なリスクを軽減するためにはさらなる規制強化が必要になる可能性を示唆している。
仮想通貨普及で米国に遅れをとる欧州
米国では仮想通貨の普及が加速している一方、カゼナベ氏によれば、欧州の銀行の95%以上は依然として仮想通貨関連事業に関与しておらず、消極的な姿勢が続いている。
ただし、個人投資家による仮想通貨への関与は増加傾向にあり、欧州投資家のうち推定10~20%が仮想通貨を保有しているとされている。。
一方、米国の仮想通貨保有率は15~28%程度と報告されており、個人レベルでの仮想通貨普及が欧州を上回っている状況が続いている。