開発者らが5月8日、計画されていたイーサリアムのネットワークの改善版をリリースした——この新しいバージョンのコードはキャスパー(Casper)と呼ばれている。Hybrid Casper Friendly Finality Gadgetはネットワークを「過剰なエネルギー消費、マイニングハードウェアへの平等なアクセス、マイニングプールの中央集権化、ASIC(特定用途向け集積回路)の新興市場」などのマイニングに関連する問題から遠ざけるために導入されたもので、その最終的なゴールはネットワークをPoWからPoSシステムへ移行することにある。

イーサリアムニュースによれば、ネットワークに対するこれまでで「もしかすると最も重要」である変化について、分かっていることを見てみよう。

エネルギー消費とコミッション

 17年は仮想通貨の価格が指数関数的に上昇するという憶測によって盛り上がった一方で、ビットコインやイーサはどちらもトランザクション速度が非常に遅いため、現在の形のままでは法定通貨の代替となる完全に成熟した通貨にはなれないかもしれない、という議論が浮上した

 さらに懸念されたのは、主要な仮想通貨をマイニングするのには大量のエネルギーを必要とする点である。そのため、どこの土地なら最も利益率が高くなるのかを判断するために、各国においてマイニングコストとエネルギー消費率を比較することが最新のトレンドになっているのは、ジャーナリストやアナリストの間では特に驚くようなことではない。

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 今日まで、主要な仮想通貨の開発者たちは、スケーラビリティに関する問題を解決することができずにいる。とりわけ、イーサリアムは莫大な数のマイナーがいるにもかかわらず、スケール性が不十分である。仮説上は、より多くの人々が仮想通貨をマイニングすればするほど、ネットワークが扱えるトランザクションが増えるように見えるかもしれない。現実には、それらのマイナー全員が同時に1ブロックを処理しようとするため、生成の複雑さが増大してネットワーク帯域は変わらない。つまり、マイナーの数が1000倍に増えたとしても、1ブロックの生成には依然として10秒がかかり、電力コストは著しく増大する。

 スケーラビリティの不足が直接影響するのは、コミッションの高さだ。マイナーはより大きな報酬を狙ってコミッションの高いトランザクションを選ぶ。これは、低コミッションのトランザクションが数日から永遠の間、蓄積され処理されるのを待つことに繋がり、ブロックチェーンを処理されないリクエストだらけの世界へと変えてしまう——言うまでもなく、それは処理不能な少額の決済だらけの世界だ。

 その上、ここ数ヶ月で根本的にまったく新しい問題が発生した。市場に出現した非常に強力なASICマイナーは、一箇所のマイニングプールで大きな割合のハッシュを占有し、ネットワークを中央集権化してしまう可能性を増大させるため、分散型ネットワークにとって深刻な脅威となっているのだ。

イーサリアム諸島

 こういった問題を解決しようとする試みにより、トランザクション速度がより高速な「新しいビットコイン」の開発を狙ったビットコインのハードフォークが流行することとなった。それに引き続いて、イーサリアム、モネロ、ライトコインといった最も人気のある仮想通貨の間でもフォークが流行した。このムーブメントは「反ASIC」という名前が付けられ、ASICマイニングによる支配の脅威が現実のものとなるにつれ、より多くの支持者が集まりだしたのだ。

 このあふれる問題を解決するための合理的なアプローチのひとつが、これまでにイーサリアムのチームによって示されている。同チームは2つのアルゴリズム——プルーフオブステーク(PoS)とプルーフオブワーク(PoW)のパラメータを組み合わせたプロトコルを開発するという決断をしたのだ

 この新しいプロトコルはキャスパー - Friendly Finality Gadget(FFG)と呼ばれており、これはイーサリアムのブロックの生成と供給の原理を完全に変更すると同時に、ブロックチェーン全体の総合的な複雑さを減少させるものになっている。

 イーサリアムの開発者たちは、主要な仮想通貨が直面しているすべての問題の根源は、PoWの原理であると確信している

「PoWは分散型のコンセンサスに関しては効果的だが、信じられないほどの量のエネルギーを消費し、経済的な合目的性がなく、そしてカルテルに抵抗するための効果的な戦略もない」

 その上、PoWアルゴリズムで作動するブロックチェーンのパフォーマンスには限度があり、秒間数十回のトランザクションを提供できる見込みはほとんどない。

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 こういった理由から、イーサリアムのチームはPoWからPoSアルゴリズムへの移行を計画している。2つのアルゴリズムの違いについてだが、PoWの場合は、ユーザーはエネルギーを消費するリアルのコンピュータを購入し、コストに比例したレートでブロックの計算を行う。PoSの場合、購入の対象となるのはシステム内のバーチャルコインであり、それがブロックを計算するバーチャルコンピュータに換算される。このアプローチ下では、ブロックに署名できる確率は計算力ではなく、ユーザ(バリデータ)のアカウントのコイン数に依存する。もし、バリデータがトランザクションの承認に参加することを決めたら、彼らの資金は凍結され、ブロックの承認ごとに報酬が与えられる。

Proof of work

 キャスパーのプロトコルは、PoWからPoSに移行する際の中間ステップになるもので、双方の原理の発展性が組み合わせられている:

「イーサのデポジットとスラッシングコンディションの使用、そして改変したフォークの採用を通じて、FFGは下層のPoWブロックチェーンのファイナライズを可能にしている。ネットワークの安全性がPoWからPoSへと大きく移行するため、PoWのブロック報酬は減少することになる」

シャーディング

 PoSアルゴリズムがキャスパーに導入されることに加え、もうひとつ目新しい技術が開発されている——シャーディングである。ノードは供給されたレジストリの一部のみを記憶し、各ノードはその他のノードの情報に依存するように下層で数学的処理を行うことによって、システムの透明性と説明責任を保証するというのがそのアイデアだ。

イーサリアムネットワークの創設者ヴィタリック・ブテリンは、シャーディングの原理を同じ諸島に属する島々に例えて比較した:

「イーサリアムが何千もの島々に分割されたところを想像してみてほしい。各島は好きなように行動できる。各島は独自の機能を持っており、その島に属する誰もが(例えばアカウントが)互いに交流することができ、そして島の全ての機能を欲しいままにする自由を持っている。もし彼らが他の島と連絡を取りたいと思ったら、何かのプロトコルを使わなければならないだろう」

 言い換えれば、イーサリアムの主要チェーンは別々のチェーン、もしくは互いとメインブロックに関連しているシャードに分割される。シャードの目的はトランザクションの並列処理を提供することにある。各ノードはそのシャードを別々に処理することができ、それと同時にまとまったノードは並列で動作可能で、ネットワークの帯域とトランザクション速度を数倍に増加させる。それと同時に、スケラービリティの課題も解決される。

マイナーとバリデータ:レスキューレンジャー

 シャード内のトランザクションの承認は、マイナーと共にキャスパーのシステムにおいて重要な責任者となるバリデータによって行われる。バリデータはコインの演算の正当性を保証し、またシステム内の一種のエスクローとしての役割を果たし、そのデポジットを使ってトランザクションを承認する。これは次のようの動作するはずである——バリデータが、ブロックチェーンに含まれるべきだと彼らが考えるブロックを発見したら、デポジットの一部をこのブロック上に配置することでそれを承認できる。このブロックがブロックチェーンに追加された場合、バリデータは彼らが出資しているシェアに比例した報酬を受け取ることになる。そうはならずに、もしバリデータが正しくない、もしくは悪意のあるブロックを承認してしまった場合は、彼らはそのデポジットを失ってしまう。

 バリデータのもうひとつのタスクが、50ブロックごとのチェックポイントの作成だ。これはブロックチェーンの完成を保証し、チェックポイントよりも前にトランザクションが戻ってくる可能性を除外することでネットワークのセキュリティを著しく向上させる。イーサリアムの開発者ヴラド・ザンフィル氏によれば、どのような改ざんや攻撃の試みも、経済的な見地から言えばバリデータにとって関心のないことだろうという:

「もしあなたが51%攻撃に参加していたら、あなたのASICファームは全焼したみたいになるだろうね」

 バリデータが承認を行えるようになるための最小のデポジットサイズは1500ETHに設定されており、これは失うには大きな額であるし、改ざん計画に参加する前に考え直してみる十分な理由にもなるだろう。

 開発者はまた、グラフェンのようなより最先端のブロックッチェーンシステムと競うために必要となる、ネットワークとイーサリアムの能力のさらなる開発にとって重大な条件である、スケーラビリティの問題に対する解決方法も提供している。

 この処理速度の向上は開発者によって、関与するノード数を小さくしたことと、主要な作業を軽量なクライアントに移譲することにより達成された。それゆえにトランザクションの処理速度は離れたコンピュータ上で実行するよりもかなり速くなり、同時にネットワーク全体が多くの一般的なノートPCで動作可能になり、しかも分散型であることは完全に維持されている。

 その上、ネットワークのセキュリティは複雑なPoWから完全なPoSへと大きく変化し、バリデータとマイナーの両方に報酬が与えられる。それと同時に、イーサを生成するマイナーに対する報酬は5分の1に(現在の3ETHから0.6ETHに)減少する。これによりASICマイナーにとってはコインの魅力が減り、ネットワークの中央集権化リスクを減らすことになる。

 バリデータも報酬の受取人になるが、その額はもっと小さい。その報酬の合計はブロックあたり0.82ETHでしかなく、現在の額のほぼ4分の1である。ヴィタリック・ブテリンによれば、将来的にイーサリアムの開発者はPoWのアルゴリズムを完全に排除し、バリデータに対するブロック毎0.22ETHの報酬のみが残る予定だという:

「キャスパーとシャーディングのメカニズムをフルに使って与えられる年間報酬の概算を出してみよう。現在の予想値は1000万ETHを5%の金利、年間50万ETHで賭けて、ブロックごとにおよそ0.22ETHになる」

 同時に、2つの理由によってネットワークの効率性が著しく向上する。第一に、マイニングを使わずに提供されるPoSアルゴリズムのコンセンサスの裏側でエネルギーコストが削減され、ETHの必要な排出量が保証される。第二に、どのマイナーが最大の計算力を持っているかを見つけるよりも誰が最大のシェアを保有しているかをチェックするのは簡単なので、ブロックの生成時間が最小限に削減される。

最新のニュース

 18年5月初頭のEdconカンファレンスで、イーサリアムのクリエイターであるヴィタリック・ブテリン氏が、「フレンドリー・ゴースト(訳者注:米国のテレビアニメ「Casper the Friendly Ghost」に由来)」の新しい詳細について発表を行った。具体的に言うと、キャスパーはバリデータの報酬システムに加えて、ペナルティシステムを提供する予定だという。新しい報酬システムの主な原理は次のようなものだ——掛け金が大きければ大きいほど、利率が低なる。例えば、250万ETHの所有者は10%の年次報酬を受け取るが、1000万ETHの所有者の場合は——たった5%だ。

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 ペナルティの額はバリデータの過失の深刻さに依存し、100%に達する可能性もある。特に、ネットワークから頻繁に不在になる場合にバリデータには罰金が課されることになる。シャードやウォレットを置いているハードディスクに問題が発生した場合、デポジット額の2%の罰金が課せられる。バリデータのグループのシャードに同時に不具合が発生した場合、ペナルティは相当に高額になり、2桁のパーセンテージで計算されることになる。ブテリン氏は同時に、このアプローチの最大の問題はハッカーの攻撃リスクであることに言及した。なぜならこの場合、共同ペナルティはデポジットをまったく持たないバリデータを放置する可能性があるからだ。

 「フレンドリー・ゴースト」関連の最新のニュースが5月8日に届いた。イーサリアムの開発者の一人であるデニー・ライアン氏が、キャスパーのアップデートの初版をGitHubに公開したのだ:

「v 0.1.0ではクライアントや外部監査がもっと簡単に契約や変更点を追えるよう、リリースのタグ付けがより明確になった」

 彼はまた、クライアントの開発者がこれからは自分たちの言語でソフトウェアを書いて試すことができるようになったことを付け加えた。

キャスパーから我々は何を期待できるのか?

 キャスパーFFGのローンチは18年の夏から秋にかけて計画されている。そのシステムはイーサリアムのソフトウェアの前バージョンと互換性がないため、アップデートはハードフォークを通じて実装されることになる。

 スケーラビリティのソリューションとして、キャスパーは開発者と一般ユーザー両方にとって重要なブロックチェーンのアップグレード、そしてソリューションであり続ける。イーサリアム財団は、ネットワークを分散化・効率化し、業界が競争力を持てるように長期的な改善を行うべく、蓄積したすべての経験を投入するのに3年の歳月を要した

 帯域の増大によって、より多くのトランザクションを高速で処理可能になることが期待でき、それは大企業がそのネットワークをベースとした複雑な仕組みを作ったり、エコシステムを開発することができるようになることを意味する。プラットフォームの裏側にいる忠誠心の高く熱狂的なコミュニティがその開発に貢献し、機能を向上させるのを支えてくれるだろう。

 新しい報酬システムが実際に機能するかどうか、バリデータがそのプロトコルをどう管理するかについてはやるべき仕事が依然として多くあるが、はっきりしていることがひとつある——キャスパーの登場は近付いてきている。