モネロ(XMR)の開発者たちは3月24日、前代未聞の声明を発表した。 プロジェクトの開発リーダーであるリカルド・スパーニャ氏が、通貨のプロトコルを6ヶ月ごとに変更すると警告したのだ。特定用途向け集積回路(ASIC)耐性を維持するのが目的だ。

 この対策は、マイニング機製造大手ビットメインが、強力なマイニング機のアントマイナーX3 ASICを発表した後に着手された。これはモネロやバイトコイン(BCN)、そしてイーオンコイン(AEON)などの仮想通貨の基盤であるクリプトナイト・アルゴリズムの計算用に特別に設計されたマイニング機だ。

 ビットメインの勢いは、同分野の巨人であるAMDやエヌビディアの名声を揺るがした。3月26日にウォール街のサスケハナ社が、ビットメインの新しいイーサリアム・マイナーが競争力を高めるとの見方を述べてからは、これら2社のシェアは急降下している。

マイナーメーカーが市場を独占する

 仮想通貨市場が停滞している今日、利益を得る唯一の方法はマイニングかもしれない。これにより、ビデオカードと特定ASICチップの最大メーカーは、新しい生産的なデバイスのモデルを市場に投入することになるかもしれない。ASICを用いたマイナーは、CPUやGPUユーザーを凌駕し、最も強力な機器を備えた最大のプレイヤーの間で、マイニングの集中という脅威を作り出している。

 ブロックチェーン・コミュニティーにいる複数の人間は、ネットワークの安全性に影響し得るこのような集権化に懸念を示している。実際、マイナー競合が分散していれば、ネットワークを侵入者から守り、システムとその参加者の安全性を高める。それゆえトークン開発者は、ASIC機器の使用に人為的な障害を引き起こさせる必要に迫られているのだ。

 バーンスタインの分析によると、ASICマイナーの生産に関する現在の独占状況と、マイニング機械市場全体における地位の拡大により、ビットメインは昨年、エヌビディアと同額の約40億ドルを稼ぎだした。 エヌビディアがこの額の利益を生み出すのに24年かかったのに対し、ビットメインはその6倍の速さでその額に到達したということは、特筆に値するだろう。

アントマイナーX3の開発者は月に4500ドルの収益を約束

 クリプトコンペアで述べられたように、この新しいASICは、月に4500ドルまでの利益を所有者に提供し得るが、その計算過程は主にモネロネットワーク処理におけるデバイスの関与を前提としており、これはXMRネットワーク機能の混乱させる可能性をはらんでいる。Antminer X3

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モネロの反応

 モネロの開発者はこれに対して、アントマイナーX3の支払い不能性についての中傷的な記事を発表した。モネロの開発リーダーであるリカルド・スパーニャ氏は自身のツイッターで、モネロのコア開発グループ(CDG)が、ハッシングアルゴリズムを定期的にアップデートするため、それはモネロでは「作動しない」と忠告した。

 さらに、今後のハードフォークは、ASICからの潜在的な脅威を防ぐため、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)プロトコルの重要な変更を目的にしているという。マイニングの集権化を防ぐため、プロトコルは定期的に変更し、新しい高性能デバイスを使用してのモネロ計算を不可能にする。どのような種類のASICチップでも、XMRマイニングを防ぐことができるようになった最初のアップデートは、すでに発表されている。

 公式モネロ開発チームによるアルゴリズムのアップデートに対して、数人の専門家は支持を表明している。ネオスクリプト・アルゴリズムを使用している仮想通貨ゴーバイト・プラットフォームの共同設立者であるアントニオ・モラッティ氏は、自分も「同じことをしただろう」と発言した。彼はコインテレグラフに対して以下のように語った:

「ゴーバイトは、その試作段階に置いてX11だった。そして何人かのユーザーは、すでにASICを使ってマイニングを始めていた。それから我々はネオスクリプトを使用することにしたのだ。GPUの温度が他のアルゴリズムより劣っていたとしてもだ。XMRは新しいアルゴリズムを持つと思う。私も同じことをしただろう」

 シアコインの設立者デイビット・ヴォリック氏は、掲示板レディットにこう書いた

「ビットメインは歴史的に非常に貪欲であって、数ドルでも多い稼ぎのためなら、そのエコシステムや彼らの顧客、そして共同体の幸福を犠牲にすることを厭わなかった」

 

ハッシュレートの急上昇

 ビットメインの新機器の潜在的な脅威を防ごうというモネロの措置は、今年2月の半ばに観測された、処理ネットワークにおけるハッシュレートの上昇(1.07 GH/sまで上昇した)に原因があるかもしれない。この時、XMRトークンのマイニングプロセスの価値も急上昇したのだ。

 

Monero (XMR) Network Hashrate Chart

Image source: Coinwarz

 何人かのユーザーは、そのハッシュレートの上昇と、その後のビットメインによる中古デバイス売却の発表を、関連させて考えている。1ヶ月前、人気のあるレディットユーザーの一人は「彼らの顧客が幾らかの利益をあげることができるように(もしくはできると思えるように)、ビットメインはASICの発表と販売の時期について徹底的に計算していたのではないか」と投稿した

 彼は次に何が起こるのかについて、こう説明している 。「できたての新しい型の商品が投入されるにあたって、中古機器を市場で一斉に売り捌くのだ」

 

ビットメインの評判:開発者は「不安」を感じている

 新しいモデルの発売を開始する以前に、ビットメインの評価はすでに曖昧だった。1月には、シアコインのために設計されたアントマイナーの一般発売によって創出された、異常に高いネットワーク値という消極的な噂が流れる中にあって、シアコインは、そのアルゴリズムのサポートを完全に拒否したのだ。

 シアコインの創始者デイビッド・ヴォリック氏と彼のASIC製造企業であるオベリスクは、ビットコインマイニング機器をほとんど独占しているビットメインとの予想外の競争に投げ込まれた。

 ヴォリック氏は、彼のレディットへの投稿の中で、シアコインの開発者は不安を感じていると言い、彼の不満を表明した。

 

その後、シアテックのリーダーであるザック・ハーバート氏が、ビットメインに対しての公式ゴーサインを出し、彼は「ビットメインがシアプロジェクトに害を与える直接的な行動を取らない限り、ソフトフォーク経由でのA3マイナーを無効にはしない」と述べた。

 

採掘か購入か?

 アントマイナーX3は、クリプトナイト技術に基づいて仮想通貨の生産に貢献し得るが(ダークネットコイン、イーオンコインなど)、XMRを採掘するための以前の設備は、大抵の場合、モネロの取引売買による潜在的利益に匹敵するまでの利益をもたらさなかった。

 Reinisfischerの分析によると、XMRマイニングは「利益を生むが、マイニングエーテルほど儲かるわけでもない。」さらに、「それは一年ほどの稼働で壊れる可能性がある」。例えば12月では、3880ドル(12のGPUの平均額)で、10日で1940ドル稼ぐことができる。

Monero Chart

Image source: Coinmarketcap

 クリプトコンペアによると、同じ値段でGPUでマイニングすれば、月に325ドルしか稼げないという。

Chart

Image source: Cryptocompare

 喫緊の安全問題を除けば、一般的に言って、ビットメインの活動は個々人の仮想通貨の状況に影響を及ぼさない。

 これが、アントニオ・モラッティ氏がコインテレグラフに語ったことである。彼は、現在の技術の潜在的な競争相手である分散型マイニングの原則で動くゴーバイト・プラットフォームの設立者だ。
「これ以上のPRスキャンダルなしで、XMRは彼ら自身でもっと成熟できるだろう」

なぜクリプトナイトアルゴリズムが使われるのか?

 クリプトナイトの基本的な役割は、通常のPC所有者と特殊なASICデバイス所有者との間のトークンの生産性についてのギャップを取り除くことである。アルゴリズム技術は、コンピュータのRAMに予測不可能な配列のデータブロックを割り当て、そのデータをRAMに一時的に格納し、各アクセス時には計算しないことによって成り立っている。

 同じスクリプトアルゴリズムに比べて、クリプトナイト構造には、いくつもの技術的な利点がある。

  1. ブロック間の時間間隔の短さ(60秒以下の処理スピード)。
  2. 円滑に排出量を落とす。
  3. 他のアルゴリズムでマイニングしている時に比べ、中央処理装置(CPU)とグラフィックスカードの加熱が少ない。
  4. CPUとGPUを共に使うので、RAMへのアクセスが早くなり、処理スピードを上げる。

 このハッシングアルゴリズムの利点の中には、CPU使用に適した条件がある。そこでは受動的な収入も可能だ。(例えば、クリプトナイトを使えば、インテルイーオンE3ユーザーの幾人かは、月に2ドル程度着実に受け取ることができる)。

 

次は誰か?

 ビットコイン、ライトコイン、ダッシュ、ディークレッド、そしてシア。これらの仮想通貨は一つまた一つと、ASICマイナーの餌食となっていった。マイナーは、特殊化したデバイスの登場後、仮想通貨がより集権化したと考えることもできるが、実際的にそれはまだ証明されていない。

 クリプトナイト・ハッシングアルゴリズムのアップデートを通して、モネロは、ASICマイナーと戦う過激なやり方に着手した、最初の主要な仮想通貨となるかもしれない。そのアルゴリズムがどれほど修正されるのか、またそれがアントマイナーX3モデルの売り上げに影響するか否かは、これから明らかになっていくだろう。