ブロックチェーン技術が役立つといわれている分野の一つにサプライチェーン管理がある。複雑なサプライチェーンにおいては、複数の参加者間の信頼や透明性の確立が必要な上、世界が「脱炭素化」に動く近年では持続可能性の担保も求められているからだ。実は鉄鋼・金属産業でもブロックチェーン技術を活用して、サプライチェーン全体の炭素排出量を効果的に追跡しようという動きがある。
米マッキンゼー社の報告書によると、現在、世界全体の温室効果ガス排出量の4~7%を鉱業が占める。国連が定める「持続可能な開発目標」達成にむけて、業界の脱炭素化は喫緊の課題だ。
今月、世界経済フォーラム(WEF)は鉱業・金属関連企業7社のサプライチェーン全体で炭素排出量を追跡するための概念実証を開始した。「鉱業・金属関連企業ブロックチェーンイニシアティブ」(Mining and Metals Blockchain Initiative)として知られる取り組みで、米Anglo American社、英Antofagasta Minerals社、オランダのEurasian Resources Group、スイスGlencore社、独Klöckner社、ペルーのMinsur社、印Tata Steel社などが参加している。
WEFの鉱業・金属産業部門のヨルゲン・サンドストロム(Jörgen Sandström)氏は「鉱業界の先進的な企業はブロックチェーンの破壊的な可能性を理解し始めている。同時に、うまく活用するためには業界全体のコラボレーションが必要であることも認識している」とコインテレグラフに語った。 同氏によると「責任ある調達」を達成することを目的とした多くのブロックチェーンプロジェクトのこれまでの課題は、多国に散らばる企業間の協調だったという。WEFが今回立ち上げた取り組みは、この問題を解決する目論見だ。
今回の取り組みはまず銅のバリューチェーンにおける二酸化炭素排出量の追跡に焦点を当てる。オランダのブロックチェーン開発企業Kryhaが提供するプライベート・ブロックチェーンを使い、鉱山から製錬所、またこれらの場所で使われる機器のメーカーにおける温室効果ガスの排出量を追跡し、リサイクルにつなげる。現在は実証実験段階だが、サンドストロム氏は同取り組みを銅だけでなく全ての主要な金属に広げる予定だ。
鉱業は二酸化炭素排出削減目標の達成が遅れている分野だ。マッキンゼーによると、鉱業企業が公表している現在の削減目標はパリ協定で定められた目標を大きく下回っている。
契機となるのがコロナ危機だ。新しい経済成長を見据え、脱炭素化とグリーン化が待ったなしで求められる。「業界はより高度な持続可能性とトレーサビリティを求める消費者、株主、規制当局からの要求に対応しながら、鉱物や素材の需要の増加に対応していく必要がある」(サンドストロム氏)
ブロックチェーンがどう役立つか
鉱業や金属業界が持続可能性基準を達成するために鍵となるのがブロックチェーン技術かもしれない。
エネルギー技術関連ソフトウェア開発のFlexiDAO(アムステルダム)のジョアン・コレル氏(Joan Collel)によると、炭素排出量削減の実現にはまず(スコープ1、2、3等の)すべてを正確に測定する必要があり、そのためには複数のサプライチェーンネットワーク間の高度な統合と調整が必要であるという。「製品の持続可能性認証とトレーサビリティを保証するために必要なデータを企業間で共有する必要がある。定量化して管理できるようにするのが不可欠」(コレル氏)
ここで活躍するのがブロックチェーンの分散型台帳だ。「異なる場所にまたがる異なる主体のデータをリアルタイムで登録しその消費の炭素強度を計算することができる」(コレル氏)
さらに転送されたエネルギー量を概説したデジタル証明書を作成し、いつ、どこで排出量が発生したかを正確に示すことも可能だ。鉱山や金属のサプライチェーン全体に信頼性、トレーサビリティ、監査可能性を提供し、炭素排出量の削減に貢献するというのがビジョンだ。
データ取得と検証が課題・解決には企業間連携がカギ
もちろん課題はまだまだ多い。大手国際会計事務所KPMGの米暗号資産サービス部門のサル・テルヌーロ共同代表(Sal Ternullo)はコインテレグラフの取材に対し、データソース及びデータの正確性の担保、および検証法などが最も難しい部分であると指摘している。「(排出量を追跡しようとする)ブロックチェーンプロトコルやソリューションは多くあるが、データの取得と検証の課題は考慮されていないことが多い」(テルヌーロ氏)
また同氏によると、排出量をどのように追跡すべきかについて明確な基準がないことが、これらの課題をさらに悪化させているという。米サステナビリティ会計基準審議会(Sustainability Accounting Standards Board)の基準を選ぶのか、それ以外の基準を使うのか、企業は他社との連携も踏まえて検討しなくてはならない。
WEFのサンドストレム氏は、銅のバリューチェーンにおける炭素排出量を追跡することに焦点を当てた現在の概念実証実験においては、企業間連携を実現することを意気込む。また、データの問題に関しても産業ぐるみで取り組むことで解決できると見ている。
カギとなるのは「産業ぐるみで連携すること」のようだ。これはデータ共有や新しいコラボレーションの方法を必要とするすべてのエンタープライズ・ブロックチェーン・プロジェクトに言えることだ。最後は社会問題を皆で協力して解決しようとする人としての姿勢が大事ということだろう。