ブロックチェーン技術の出現は、グローバル社会全体のさまざまな分野で関心を集めてきた。金融から政治、経済、自動車、テクノロジーまで、ブロックチェーンは多くの分野で根付き始めようとしている。現在、この技術革命から恩恵を受ける可能性のある最新の分野は、通信のようだ。

 7月11日にマーケットウォッチから出された予測記事では、通信業界におけるブロックチェーン市場は今後5年間でほぼ10億ドル(約1100億円)に到達するとみている。

ブロックチェーンによって通信分野においてすでに現れている成長や、ブロックチェーンで動作する携帯電話の開発の動きを考えれば、この数字は実際、驚くようなものではないだろう。

 自動車業界では既にブロックチェーン技術を応用した研究や実験が進められている。ポルシェのブロックチェーンDappsBMWのコバルトレジャーメルセデスの安全運転リワードプラグラムなどだ。自動車業界と同様の動きが、通信業界で起こると予測するのも自然な流れだろう。

ブロックチェーン携帯の登場

 携帯電話メーカーは一貫して、イノベーションやテクノロジーの最先端にいる。例えばこの分野の2大企業であるアップルとサムスンが、互いに一歩優位に立とうとして、毎年、より大きく性能の良い携帯電話を発売している。

 そして現在、新たにブロックチェーンをベースとした戦いを始めようとする携帯電話メーカーが登場している。新しいメーカーは、仮想通貨に特化した携帯電話を創ろうとしている。

 しかし、それは携帯の画面に仮想通貨のボタンがあるだけのハードウェアではないだろう。ブロックチェーン通信業界の新しいプレイヤーが導入しようとしているビジネスモデルも、普及していくことになるだろう。

シリンラボズが11月に新製品

 シリンラボズはスイスに拠点を置くスマートフォン開発会社だ。同社は11月にブロックチェーンベースのスマートフォンを発売する予定だ。このプロジェクトの資金調達は、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)によって行われた

 シリンはICOで1億5780万ドルの調達に成功した。その大部分にあたる1億1000万ドルは、最初の24時間で達成したものだ。このことからも、同プロジェクトやその可能性に対する極めて強い関心が伺えるだろう。同社は調達した多額の資金をもとに、携帯電話メーカーへの道を突き進んでいる。

 シリンが開発している携帯電話は「フィニー」という名前で、販売価格は1000ドルとなる予定だ。

 このブロックチェーン携帯が普通の携帯電話と異なる点は、アンドロイドベースではあるもののシリンOSで動作し、コールドストレージの仮想通貨ウォレットや、トークン変換サービス、ブロックチェーンをベースとしたアプリの「DAppストア」が備わることだ。

 ただし、この携帯を購入するには、シリン社の仮想通貨トークン(ERC-20トークンベース)が必要だ。ICOで発行された合計5億7300万枚のトークンの40%は、すでに販売済みとなっている。

HTCも独自の製品を開発

 ブロックチェーンベースの携帯電話で先行している企業は、シリンだけではない。有名な台湾の家電企業HTCも、ブロックチェーンで動作するスマートフォンを発売しようとしている。

 HTCでブロックチェーン・仮想通貨関連戦略の責任者を務めるフィル・チェン氏によれば、同社の新製品は「HTCエクソダス」という名前になる。

 チェン氏は、発売予定のスマートフォンが、ビットコイン、イーサリアム、ライトニングネットワーク(LN)、ディファニティ(Dfinity)ネットワークなど、多数のブロックチェーンプロトコルをサポートすると強調している。

 シリンのスマホと同様に、エクソダスも仮想通貨ウォレットやなどの機能を備える予定という。

ファーウェイも参入か

 HTCがスマホの開発を進め、シリンは発売まであとわずか数ヶ月なのに対し、ファーウェイもブロックチェーンベースの携帯電話に向け、最初の一歩を踏み出そうとしている。

 ファーウェイはDAppsに対応できるスマホの開発を目指し、オープンソースのオペレーティングシステムである、シリンOSのライセンスを取得しようとしていると報道されている。これは未確認情報ではあるものの、この分野が勢いを得ている状況から判断すれば、想定外とはいえないだろう。

携帯メーカーだけではない

 ブロックチェーンへの進出を目指しているのは携帯電話メーカーだけではなく、通信業界全体が同様の動きを見せている。HTCとシリンがブロックチェーン携帯の開発に取り組んでいる一方で、ウェブブラウザーのオペラは最近、内蔵型仮想通貨ウォレットをリリースした

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Image source: Opera YouTube

 しかし、独自のブロックチェーン製品をリリースする前から、オペラはこの分野に関心を持っていた。今年1月にはオペラのスマホ版ブラウザーにクリプトジャックを防ぐ機能を搭載している

 テクノロジー業界の巨人であり、ブロックチェーン技術の新興勢力でもあるIBMも、通信分野におけるブロックチェーンの可能性を検討し始めている。

 IBMは1月に、通信事業でのブロックチェーンの有用性に関するブログ記事を投稿。内部プロセスの簡素化や、ブロックチェーンをベースとしたデジタルサービスの構築、及びIoTを含むビジネスエコシステムにおける信頼性・安全性・透明性の提供といった、その可能性に言及している。

「ブロックチェーンは現在のところ、最も評判の高い技術の1つである。あらゆる業界が、ブロックチェーンが自らの分野にもたらす影響と、この新興技術から恩恵を受ける方法を調査している。通信サービスプロバイダー(CSP)業界も例外ではない」

 IBMはこれまでに、通信業界の経営幹部レベル174人に対する調査を行い、通信サービスを提供する組織の36%がすでにブロックチェーンを検討しているか、積極的に関与していることを明らかにした。

 この調査では、通信業界の経営幹部たちがブロックチェーンの可能性があるとみているポイントも明らかになっている。透明性・信頼性・正確性といった部分に強い関心を向けている。

IBM

Image source: IBM

 経営幹部の41%が、ブロックチェーンがデータの管理や正確性を確保することで、自社の戦略を支える可能性があるとみており、38%が取引の信頼性向上に効果的と考えている。

 さらに、34%は詐欺やサイバー犯罪に対するセキュリティーを改善する可能性を認め、28%が取引のコストを削減し、スピードを向上させるだろうと述べている。

マーケット参入の好機は今

 もしマーケットウォッチの予測が正確であれば、通信分野におけるブロックチェーン技術の市場規模が、18年時点の4660万ドルから、2023年までに9億9380万ドルへと急拡大することになる。そうなれば、今は多くの企業にとって絶好の出発点であるように思われる。

 通信の世界は変化している。セキュリティーに対する関心が高まっており、OSS/BSS(経営支援システム/業務支援システム)プロセスへのサポートも増えている。

 通信の分野には、急成長しているこの技術に対処するための、明らかな変化が起こっている。ただ、それはまだ若い技術であるが故に、解決が必要な点も数多く存在する。しかし、ブロックチェーン携帯と共に最前線に立ち、セキュリティーを支えるためブロックチェーンを実装することで、多くの企業がアップルやサムスンといった巨人を乗り越え、この分野におけるリーダーになれるだろう。