主流派のエコノミストたちが仮想通貨をあまり高く評価していないことは何も秘密ではない。ビットコイン、イーサリアム、その他のコインは「史上最大のバブル」を作り出し、仮想通貨は「真面目な支払方法でもなければ、資本を蓄える良い方法でもない」というのが、少なくとも、それぞれバンク・オブ・アメリカとヌリエル"Drドゥーム"・ルビーニの見方である。

 しかし、伝統的な金融専門家は仮想通貨はその不安定性のため現実の通貨としては使い物にならないと膨大な時間を費やして主張するが、実際には様々な場所で仮想通貨をお金として使い、ピザや靴など何でも買うことが可能である。

 ところで、お金として最も使いやすい仮想通貨はどれだろうか? 当たり前かもしれないが、その答えはビットコインである。その理由は簡単で、他の仮想通貨よりも広く支払い手段として認められているからである。だが、本稿の分析が示すように、他の仮想通貨も小売業者や企業に次第に認められるようになってきている。また、そのより優れたスケーラビリティーのため、数か月または数年先には、元祖仮想通貨を追い越すかもしれない。

当店ではビットコインが使えます

 多くの情報収集サイトでは、どの会社がどの通貨を受け入れているのか概要を提供しているものの、世界中で仮想通貨を支払い手段として認めている会社を網羅した一つの権威あるリストというものは存在しない。その中で最も有用なサイトはヴァーチャル・コイン・スクアッドであると言っていいだろう。同サイトはいま仮想通貨を受け入れている業者の網羅的なカタログを公表しているわけではないが、企業名とその会社が受け入れているすべての仮想通貨のリストを提供している。それゆえこのサイトを見れば、どの仮想通貨が支払い手段として最も広く利用されているかがはっきり分かるのである。

 バーチャル・コイン・スクアッドによると、54社の大企業(実際の数はもっと大きいと思われる)が仮想通貨を受け入れているが、そのうちビットコインを受け入れていないのはメイズフィット(スポーツウエア)とシャイニー・リーフ(化粧品)の2社しかない。マイクロソフト、エクスペディア、モジラ、ショピファイといった他の53社はすべてビットコインを受け入れている。そのうち、25社がライトコイン、13社がイーサリアム、14社がビットコインキャッシュ、12社がモネロ、15社がドージコインを受け入れている。言い換えると、ビットコインは支払い手段として最も使い勝手の良い仮想通貨である。その簡単な理由は、仮想通貨を受け入れている業者はほとんど確実にビットコインを受け入れている一方、他のコインについては必ずしもそうは言えないからである。

 もちろん、55社程度のリストではデータの量が不十分かもしれないが、他のもっと数の多いソースもこうした傾向を裏付けている。ユーズビットコインはビットコイン(と他の仮想通貨)を受け入れている5000以上の企業と小売業者を集めたディレクトリである。どの業者がどの仮想通貨を受け入れているかを一覧表示させることはできないものの、個別のリストをいくつか覗いてみると、同じ結果が見て取れる。事実上すべての企業がビットコインを受け入れているが、大部分の企業は他の仮想通貨を受け入れていない。

 コインマップが提供している情報についても同じことが言える。コインマップでは仮想通貨を受け入れている企業を世界地図から探すことができる。ニューヨークシティーで検索してみると、マンハッタンとブルックリンをカバーする街の中心エリアで136社が見つかる。例えばブルックリンズ・トニー・デリ、ビック・ボーイ・デリ、Gライン・デリのような自前のビットコインATMを備えたデリカテッセンの店のように、こうした企業の多くはビットコインのみを扱っている。
今ビットコインの以外の仮想通貨を受け入れる企業が明らかに増えている。コインマップのウエブサイトを運営するプラハに本拠を置くサトシラボのコミュニティー・マネージャのバック・グェンはコインテレグラフにこう語っている。

「プラハとチェコ共和国について言うなら、私たちは仮想通貨がより広く受け入れられつつあるのを見みている。初めビットコインを受け入れていた店が、ライトコインやイーサリアムを扱い始めている。ビットコインキャッシュを扱うATMまである。もっとも、一番初めに使われるようになった仮想通貨のビットコインがまだ主流ではあるが」

 アルトコインの受容の拡大は人々が次第に仮想通貨に慣れてきていることを意味している。また、その一因として、2月に開始されたコインベース・コマースでは、業者が複数のデジタル通貨で支払いを受けることを可能にするが、このようなビジネス向けの仮想通貨支払いサービスが誕生してきたことも挙げられる。しかし、このような業者はまだ少数派である。大部分の人々にとっては、1つの仮想通貨を世界中で使いたいと望むのであれば、ビットコインが最良の選択肢であると改めて言わねばならない。

Payment method

Image source: Warm ME

国境を越えた決済と税金の支払い

 他の仮想通貨に比べてビットコインの人気が高いことを示す間接的なエビデンスは他にもいろいろある。例えば、ケンブリッジ大学は17年4月に「世界の仮想通貨のベンチマーク研究」という報告を公表し、そのなかで初めてオルタナティブな支払いシステムの体系的研究を行った。研究は消費者から企業への支払いだけを扱うものではなかったが、仮想通貨で支払いを行う企業の86%が海外向けの支払いに関する第一の手段としてビットコインを使っていることが分かった。

 こうした支払いには、海外送金、企業間の支払い、商業的サービスといった様々な用途があるため、顧客に仮想通貨での支払いを可能にしている企業の86%がビットコインを選んでいると単純に断定することはできない。しかし、この結果はビットコインが支払いのために最もよく使われれている仮想通貨であることを示している。このことから、現状のシステムは他のどのデジタル通貨よりもビットコインに最適にできているので、仮想通貨で買い物をしたい人への最良のアドバイスは、ビットコインをがっちりキープすることだと言うことができる。

 とは言うものの、この状況がこれからも長く続くとは限らない。企業が様々な仮想通貨を用いて課金することを可能にする支払いサービスが人気を集めていることに加えて、いくつかの国では支払手段としての仮想通貨の利用を推進しようとする動きがみられる。韓国では、国内最大の取引所ビットサムがウィーメイクプライスやYeogi Eottae等の多くのオンライン・プラットフォームとの提携を進めている。取引では、提携するプラットフォームは複数の通貨(ビットコイン、イーサリアム、リップル、ビットコインキャッシュ、ICON)での支払いが受けられるようになる一方、ビットサムは国内での広い認知を目指して提携や企画を貪欲に展開しようとしている。

 米国の一部の州は住民が仮想通貨で納税や許可費用を支払うことを可能にする法案を検討している。アリゾナでは5月に法案が通過し、州が「納税者が、ビットコイン、ライトコイン等の仮想通貨を使って所得税を納めることが可能か検討すること」を求められている。ジョージアでは2月末、イリノイでは4月に同様の法案が議会に提出されている。いずれもまだ通過はしてはいないものの、これが受け入れられればビットコインのみならず仮想通貨一般を支払い手段として強力に推進することになるだろう。

ビットコインのライバル

 現在それを利用している業者の数ではトップを走るビットコインだが、それ自体の技術的な特性を考えると、ビットコインは必ずしも最も「使い勝手の良い」仮想通貨ではない。

 ビットコインのスケーラビリティ問題については、この論争が始まった2017年以来、いまだ持続的な解決法が見出されていない。ベータ版としてスタートしたがいまだ広く使われるには至っていないライトニング・ネットワークのアップデートの更新を忘れれば、ビットコインでは1秒間に7回のトランザクションを処理できるが、Visaの最大2万4000回には遠く及ばない。最近この問題では国際決済銀行(BIS)が報告書を発表したが、仮想通貨、特に、特にプルーフ・オブ・ワークのシステムに依拠するビットコインのような通貨は、世界経済において通貨として機能するほどのスケールを持ちえない、というのが結論であった。

 それゆえ、ビットコインが評価に値するような大きなスケールでの使用に耐えるという保証はなく、そのライバルの一つがある段階で最も機能的な仮想通貨としてビットコインを超えるという可能性もありえる。例えば、開発者が17年8月1日にビットコインのメインのブロックチェーンを分岐させることにより誕生したビットコインキャッシュのブロックサイズの限界は32MBである。これは、ブロックサイズが1MBであるビットコインと比べ3200%大きく、一秒間に最大224回のトランザクションを行うことを可能にする。

 ビットコインキャッシュを支援する起業家のロジャー・バー氏は主にこのスピードの優位について、4月に見解を述べた

「ビットコインコアは世界中で業者の受けが悪くなっている。ビットコインキャッシュは世界中で業者の受けが良くなっている」

 しかし、ビットコインキャッシュにもそれ特有の欠点があり、例えば、トランザクション費用がビットコインほど安くない。また、支払い手段として選ばれた仮想通貨というビットコインのチャンピオンの座を脅かすのはビットコインキャッシュだけではない。例えばリップルは合意形成メカニズムにマイニングを使用しないため、1秒間に最大5万回のトランザクションを行うことができる。ビットコインコアから分岐したライトコインはブロックインターバル時間が短いため、かつての片割れの4倍の速度を誇る。同じく、イーサリアムは5月に新システムの初期バージョンをリリースした。これによりプルーフ・オブ・ステークによる合意形成メカニズムへの移行が可能になり、スケーラビリティーとトランザクション速度が大幅に向上する。

仮想通貨の採用は確実に増加している

 これまで見てきたように、他の仮想通貨が未来への鍵を握っているのだが、こうした議論はビットコインもそのライバルコインも「本当のお金」ではないと主張している一部の目立つ批評家たちには必ずしも伝わっていない。例えば、カイ・スティンチクームはブロックチェーンをこき下ろす今や有名になった(悪名高い)ブログのポストで、「支払い形態として仮想通貨を受け入れる小売業者の数は減少している」と4月に書いている。こうした乱暴な断定の根拠は、トップ500のオンライン業者の中で、ビットコインを支払い方として受け入れる業者の数は、16年から17年の間に、5社から3社へと減少したと述べているモーガン・スタンレーの報告書が一本あるだけにすぎない。

 しかし、サトシラボのバック・グェンは、全体としての数は実は増加しているのだとコインテレグラフに教えてくれた。

「1年前、(コインマップに)登録している店舗の数は9085店舗だった。今、その数は1万2801店舗になっている」

 すなわち、1年間に3716店が増加したことになる。世界中の企業の数の全体からすれば1万2801などという数は海の中の一つの水滴に過ぎないが、このことが示しているのは、法律や金融専門家の眼にはどう見えようとも、仮想通貨は実際のお金として使用されており、それが広がっているということである。
とはいえ、一部のアナリストは時間の問題だというものの、仮想通貨が支払い方法として広く大衆に受け入れられるのは、まだ何年も先の話である。eトロのクリプトアナリストのマティ・グリンスパンはコインテレグラフに次のように述べた。

「この動きは避けられないもので、世界の一部の場所ではすでに現実に起こっている。長い時間で見れば、経済は発展する時期も困難に見舞われる時期もある。経済が安定している限り、独立通貨への需要はさほど大きくはならない。だが、政府や銀行への信頼が低い場所では、仮想通貨が力を持つ傾向がある」

 このような事態は、例えば、トルコで発生している。トルコリラのインフレは今年2桁に達し、ヨーロッパ主要国の通貨よりも仮想通貨を所有する人が増えている。このことは、仮想通貨が無力な政府を犠牲にして成功する稀なチャンスを獲得していることを示している。そして、スケーラビリティーの問題は仮想通貨がこうした可能性を今すぐ最大に生かす準備ができていないことを示している一方、仮想通貨による支払いが広まっていることで、将来の成長のための安定した基礎がすでに準備されつつある。