パクソスが10月15日にステーブルコイン「ペイパルUSD(PYUSD)」を誤って300兆ドル分発行したという前代未聞の出来事は、確かに深刻ではあるものの、同時にブロックチェーンが伝統的銀行システムをどう変革し得るかを示す実例ともなった。
パクソスはこの誤発行を「内部的な技術エラー」と説明している。しかし重要なのは、このミスがブロックチェーン上ですぐに発見・修正されたという点だ。
この出来事は世界協定時刻(UTC)で10月15日午後7時12分に発生し、発行されたトークンはわずか22分後にすべてバーン(焼却)された。オンチェーン上で即座に発見されたため、被害は未然に防がれた。
これが伝統的な銀行システムであれば、同じようにはいかなかっただろう。
「ミスは起こるが、ブロックチェーンは透明性で修正できる」
OKXオーストラリアのケイト・クーパーCEOはコインテレグラフに対し、「どんな金融システムでもミスは起こる。ただし、ブロックチェーンではそれが可視化され、追跡可能で、迅速に修正できる。それこそが強みだ」と述べた。
クーパー氏は、オーストラリアの大手銀行2社で約10年間幹部を務めた後、仮想通貨業界に転じた人物だ。同氏は今回のパクソスの事例を、ブロックチェーンの透明性とオープン性が金融監督を刷新する好例と捉えている。
「銀行員としての経験から言えば、可視性こそが信頼を生む。エラーを露呈させる仕組みこそが、ガバナンスを強化し、金融システムにおける価値の流れを近代化する」とクーパー氏は語った。
クロスチェーン型ステーブルコイン流動性プラットフォーム「エコ」のライン・サックスCEOも、ブロックチェーンがもたらす説明責任の高さを強調した。
「オンチェーン上のステーブルコインエコノミーにおいてしばしば見落とされるのは、発行者に対して透明性を強く求めるという点だ。今回のような事例は極端だが、それでも非常に示唆的だ」とサックス氏は述べた。
「このレベルの透明性とリアルタイムの調整能力は、現在の中央銀行システムでは見られないものだ」と同氏は続けた。
銀行でも過去に「入力ミス」トラブル
2024年4月、米シティグループは本来281ドルを入金すべきところを、誤って8.1兆ドルを顧客口座に振り込むという事故を起こし、訂正までに数時間を要した。この件が報道されたのは、実際の発生から約10か月後のことだった。
同月には別のシティグループ職員が、顧客口座番号を誤って金額欄に貼り付け、60億ドルを送金しかけたというトラブルも起きている。この件も10か月後にようやく報道された。
さらに2015年には、ドイツ銀行が誤って取引先に280億ユーロを送金してしまったケースもある。これらは氷山の一角であり、公にならなかった事例も多いとみられる。
パクソスにとっては「防げたはずのミス」
一方で、この出来事はステーブルコイン発行企業がトークン発行に関する内部統制やリスク管理をさらに厳格化すべきことも浮き彫りにしたと、ファイアブロックスのセキュリティ・信頼プロダクト担当副社長シャハル・マダー氏は指摘する。
「300兆ドルの発行は防げたミスだ。ステーブルコインの採用が進むなか、各発行体はトークンのライフサイクル全体を管理できるよう、セキュリティポリシーを厳密に設定すべきだ」とマダー氏は述べた。
同氏はさらに、「発行、送金、バーンはいずれも極めて重要な操作であり、“ソフト”な管理や手作業の確認に頼るべきではない」と付け加えた。
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