格付け企業大手のフィッチ・レーティングスは、1日に公開したノートで、安全な資産に完全に裏付けられていないステーブルコインが普及することは、短期信用市場の不安定化を引き起こす可能性があると指摘した。

一方で、安全で流動性の高い資産に完全に裏付けられたコインでは金融市場のリスクは少ないという。フィッチは、「完全に裏付けられたステーブルコイン」の例として米ドル裏付けのUSDコイン(USDC)を挙げている。ただし、「フットプリント(利用量や利用範囲)が潜在的にグローバルもしくはシステミックであれば、依然として懸念する可能性がある」と警告した。

一方でテザーを「リスクの高い資産配分を採用している」ステーブルコインと指摘。2021年3月に開示された情報によると、テザーは準備金の26.2%を現金、受託預金、リバースレポ、政府証券で保有。フィッチは、テザーのコマーシャルペーパー(CP)の保有額が準備金の49.6%である203億ドルであることを強調し「米国やEMEA(欧州、中東、アフリカ)のほとんどのプライム・マネーマーケットファンド(MMF)の保有額よりも大きいかもしれない」と急速に増加していることを警告した。

「USDTの突然の大量償還は、CP市場が売り圧力に見舞われているときに発生した場合、短期信用市場の安定性に影響を与える可能性がある。特に同様の準備金を保有する他のステーブルコインの大量償還と関連した場合は影響が大きくなる。」

フェイスブックが進めるステーブルコインのディエム(Diem)は、フィッチが注目するトークンの一つだ。ディエムは、準備金の80%をリスクの低い政府証券と提案している。残りの20%を現金で保有し、同リスクと流動性プロファイルを持つ短期の政府証券に投資するMMFにオーバーナイト取引する。

フィッチは、ディエムのように急速に浸透する可能性のあるプロジェクトは、ステーブルコインに対する規制の強化につながる可能性があると指摘。「ステーブルコインの準備金の清算に関連する、潜在的な資産の伝染リスクは、規制強化の圧力を高める可能性がある」とした。

2020年や2007〜2008年に発生したように、短期的な信用スプレッドが大幅に拡大した場合、米国の規制当局がテザー社と同様の資産配分をしている事業体は安定しない可能性があると警告していることを指摘した。

さらにステーブルコインが崩壊するような何らかのイベントが発生したとしても、「当局がステーブルコインを救うために介入する可能性は低い」と主張。ステーブルコインの償還が広範なCPの売りにつながり、市場の流動性を圧迫し、CPの新規発行を妨げる場合には、ディーラーやプライムMMFを支援するために介入するだろうと予想した。