ソフトバンクグループの孫正義社長が、Yahoo! Japanの「平成、そして新時代」インタビューシリーズに登場し、令和は「AIインターネットの時代」になると発言した。仮想通貨・ブロックチェーンに関する言及はなかった。
「AIインターネット時代」
孫社長は、インターネットの今後は「収穫、ハーベストの時代」とし、収穫を大きく左右するカギとなるのはAI(人工知能)と指摘。次のように続けた。
「もうAI以外の案件は持ってくるな、というくらい、今、僕自身もAI一筋です(中略)僕は今、もう99%、AIに集中している。そのくらい振り切っても、世界ではなかなか難しい勝負になっています。」
インターネットの黎明期、ソフトバンクの本業はパソコンソフトの卸と出版で、「インターネットからの収益は売り上げの0.1%くらい」だったにもかかわらず、孫社長は「もうインターネット以外には興味がない、パソコンの仕事は持ってくるな」と完全に振り切ったことを回顧した。
その上で、「AIを使いこなすAIインターネット企業とそうではない素のインターネット企業では、100対1ぐらいの差が開いていく」と予想。「頭のいいネットワークと、単につながっているというネットワークとでは、決定的に差がつく」とし、「ヤフーも気をつけなければいけない」と述べた。
孫社長はとりわけAIによってコンピューティング能力が大きく向上すると強調。GPUやTPU、クォンタムコンピューティングなどでコンピューティングの能力が約100万倍になれば「人間の頭が考えられる程度のロジックはすべてAIも考えられるようになる」とし、人の働き方・生き方が大きく変わるとだろう予測した。
そんなAIインターネット時代への最大の障壁として孫社長が懸念しているのが、日本の否定の文化だ。
「新しい時代が来たというときに、振り切りすぎるぐらい振り切ってもなおかつ難しいわけですよ。なのに、中途半端な理解の学者も含めた“大人”たちが相も変わらず、「そっちに行ったら危ない」とか、「そっちに行くとこんな問題点がある」とか、言うわけです。これはもう百害あって一利なし。僕は日本にとって最大の害はそういう人たちだと思うんですよね」
ハードウェアに固執して米国や中国、韓国に後れを取っている現在の日本において、AI時代も「インテリぶって、斜めに見るような人たち」が足を引っ張ることを孫社長は懸念した。
その上で孫社長は「いかがわしくあれと。それで、大ぼらを吹こうよと。夢を持って大きなビジョンを描こうよと」と主張した。
インターネットと仮想通貨・ブロックチェーン
今回の孫社長のインタビューの中に、仮想通貨・ブロックチェーンという言葉は1回も出てこなかった。
しかし、10年前のビットコイン誕生から始まった仮想通貨業界とインターネットの黎明期を重ねる人は多い。また、2018年の仮想通貨バブル崩壊を2000年代初めのドットコム・バブル崩壊と重ね合わせ、仮想通貨業界にアマゾンのような有力企業が誕生するのはこれからという見方をする人もいる。
さらに従来のインターネットを変えるのは、ブロックチェーン技術とみる人もいる。
仮想通貨イーサリアムの共同設立者であるジョゼフ・ルービン氏は、自分たちのデータを自分たちが管理するウェブ3.0の時代が、ブロックチェーン技術によってもたらされると考える一人だ。政府や大企業によるデータ集積・販売の結果、個人のプライバシーが侵害されるという懸念が高まる中、ウェブ3.0への期待は高まっている。
もちろん、AIとブロックチェーンの連動に関する動きも出ている。
孫社長は昨年6月、仮想通貨に対して否定的な見解を示したものの、ブロックチェーン技術は使っていくという考えを表明。ブロックチェーンに関しては「まだ始まったばかりの技術」とし「ブロックチェーンなどを使った技術に取り組んでいる」と述べた。
実際、ソフトバンクは昨年、ブロックチェーンを基盤とした高セキュリティの認証ソリューションを、米国のスタートアップ企業クラウド・マインズ・テクロノジーと共同開発したと発表した。
令和の時代にインターネットはどのように進化するのか。
「99%」AIに集中している孫社長の構想に仮想通貨・ブロックチェーンが占める割合はまだ少ないのかもしれない。また、仮想通貨やブロックチェーンに対する世間のイメージもいまだに良くない。しかし、仮想通貨・ブロックチェーン業界も孫社長の言うように「いかがわしく」あり続けるべきだろう。