コインテレグラフはこのほど、パリティ・テクノロジー社の共同創業者兼CEOであるユッタ・シュタイナー博士に話を聞くことができた。そもそも何が彼女をイーサリアム(ETH)の世界に引き込んだのか、そしてブロックチェーンの相互運用性を高めるためにどのような計画を抱いているのかをインタビューした

 先頃、スイスのツークで開催されたTechCrunchイーサリアム・ミートアップの期間中、シュタイナー氏は、彼女の数学と科学のバックグラウンドがいかにブロックチェーンの仕事と結びついているか、そして新しいポルカドット(Polkadot)プロトコルがいかにウェブ3.0時代の先触れとなり得るかを詳細に語ってくれた。

モーリー・ジェーン(MJ): まずは、簡単に自己紹介していただけますか?

ユッタ・シュタイナー(JS): ユッタ・シュタイナーです。パリティのCEOを務めています。パリティは、私がイーサリアムの共同創設者の一人であるギャビン・ウッドと一緒に3年前に始めた会社です。私自身は、以前はイーサリアム・ファンデーションで仕事をしていて、イーサリアム・プラットフォーム立ち上げ前にセキュリティを担当していました。

 それ以前は、元々応用数学が自分のバックグラウンドなので、ちょっと長めの大学生活を送って、PhDを取得した後はコンサルティングの世界に少しだけ足を踏み入れました。それから、スノーデンによる暴露が話題になっていた頃ですが、オンラインで実際に何が起きているのか、私たちのデータに何が起きているのか、これは一体どういう仕組みになっているのか、ということにどんどん興味を持ち始めました。

 それから、たくさん本を読むようになり、たまたまその分野の初期のプロジェクトであるメイドセーフに出会いました。そして、その文脈で人々がイーサリアムについて議論しているのを目にしたのですが、それが約4年前です。データのアクセス管理にイーサリアムをどう活用するかという話でした。それからイーサリアムのメンバーに出会ったのが、基本的には自分が関与するようになったきっかけです。

MJ: ということは、全ての始まりはイーサリアムだったということですか?

JS: そうですね。ビットコインについても読んだことがあって、数学の観点から興味深いとは思っていました。ただ、そのポテンシャルに初めて気付いたのは、イーサリアムで実際に何ができるかのという議論に出会ってからです。抽象化がこのレベルで行われているのが、本当にいいなと思ったんです。

MJ: イーサリアムとの関係について少しお話していただけますか?

JS: 当時は、それで実際に何ができるのかに興味を持ちました。この大きな視点でデータを見るというのが面白かったのですが、ちょうど同じ頃に、ジェシ・ベイカーに出会いました。彼女はちょうどProvenanceという会社を始めようとしていて、サプライチェーンの透明性を確保するために、製品用のFacebookのようなものを作ることを考えていました。製品の背景にどんな歴史があって、どんな人たちがいて、プロセスがあって、といったことを可視化するという考えですね。

 結局、私はイーサリアム・ファンデーションでセキュリティの仕事をすることになりました。でも、その時に問題解決に当たりながら、その技術が、メインストリームになるのに必要なレベルには本当に達していないことに気付き始めていました。そこで感じたフラストレーションから、パリティという会社が生まれたんです。

 私たちはもっと基盤技術に取り組んで、それを進歩させたいと考えていました。それが私の数学と科学のバックグラウンドと、ある意味いい感じで結び付いたんです。だから、技術をそういう方向で進歩させられるというのは、かなり楽しいですね。

インタビューの様子はこちらで視聴することもできます:

MJ: では、パリティとは正確には何をする会社ですか?新しいポルカドット・プロトコルとどのような関係があるのでしょうか?

JS: 私たちは、初期イーサリアムで学んだことを基本的には全て取り入れて、新たな実装方法を考え出して、パリティを立ち上げました。

 最初は、純粋に相互運用性を中心に据えて、アイデアが大きく進化していきました。2~3年前にはプライベートチェーンとパブリックチェーンについての議論が始まり、賢明な議論だと感じましたし、スケーラビリティを最適化する方法としても、道理にかなっていると感じました。

 ところが、時間の経過とともに、ガバナンスなどのテーマがますます問題になってきました。私たちは、より本物のテクノロジーを目指し、こうした全ての問題により簡単に適合して解決できるように、このテクノロジーで次に採用すべき抽象化のレベルとはどのようなものかを真剣に考え始めたのです。

 私たちがパリティでやっているのは、根本的に新しいオンラインサーバーの構築方法を考えることです。ウェブやウェブ上のアプリケーションがいかに進化してきたか。私たちは、何をするにしても、どんなサービスを使うにしても、中央集権型のサーバーに依存する必要があります。そこに全てのデータが保存され、サービスがどのように機能するか、争いがあったら何が起こるかを決める権威のようなものが存在します。

 そして、私たちが構築しようとしているのは、基本的には、ユーザー側にもっと多くのエージェンシーが存在し、サービスプロバイダーとサービス利用者との間の隔たりがより小さいシステムです。それによって、相互のやり取りがピアツーピア型のはるかにオープンなものとなり、FacebookやGoogleを経由しなくても、友人、あるいはやり取りをしたい相手であれば誰とでも、シームレスにやり取りできるようになります。

 それが、私たちがウェブ3.0と呼ぶ次世代ウェブの姿です。

 そして、それが現在ポルカドット、あるいはポルカドット周りの技術が置かれている位置です。Substrateは、私たちが概念実証(PoC:Proof of Concept)のためにテストネット上でリリースしたばかりの技術で、ユーザー独自のステートマシンを起動するための非常に汎用的なフレームワークです。

MJ: 実際にウェブ3.0の時代に突入するのに、どれぐらい時間がかかると思いますか?

JS: 当社は、ポルカドットの来年末のリリースを目指しています。今のところ、それは、実際にアプリケーションが見られるようになるという意味ではなく、漸進的なプロセスになると思っています。つまり、より分散型、ピアツーピア型のアプリケーションを実現するために利用できるものは既に存在します。クロスチェーン取引のように、相互運用性を実現するためのソリューションもいくつか存在します。

 私は、これから数年かけて、先行する実装例として、ポルカドットを基盤として利用するアプリケーションが見られるようになればと考えています。私たちが解決しないといけないことの多くは、ユーザビリティとユーザーエクスペリエンス関連のもので、これには恐らくもう少し時間がかかります。また、多少中央集権型のシステムを持つ方が有利な場合も時には存在します。というのは、特定のケースにおいては、効率性を大きく高められるからです。どこで妥協すべきかは、私たちにもまだわかりません。

MJ: 「このウェブ3.0の趣旨がよくわからない。Facebookを使うのは好きで、よく知っているし、自分のデータを取得されても気にならない」という方がいたら、あなたは何と答えますか?

JS: Facebookのようなシステムを、相互交流のシステムとして本当に不完全たらしめている基礎メカニズムがどのようなものかを理解していない方が相手だと、難しいですね。 ただ、特に最近ケンブリッジ・アナリティカ絡みで明らかになったことは、これらのプラットフォームがどれほど強力かを政府に見せつけるものだったと想像します。聴聞会でそのことが示されました。

 現在は、答えを見つけるために、全てのサービスにスポットライトが当てられています。政府が、こうしたサービスを通じた干渉を恐れているからです。個人的には、ある程度分散型サービスに有利に働くような規制が登場するだろうと考えています。ヨーロッパでは既にGDPRが制定されたので、データ保護に関する指令は存在します。これがブロックチェーンに対して実際にどのように機能するかなど多少の疑問は存在しますが、私は、全く規制を受けない政府に対してはあまり権限を与えないようにしようという意志が、政治の側にかなり存在すると考えています。

MJ:「忘れられる権利」の条項が原因で、GDPR絡みの問題を経験したブロックチェーン企業があるのを知っています。絶対に何も忘れられない、というのがブロックチェーンの核心的な部分でもありますからね。この矛盾がどのような形で現れていると見ていますか?

JS: 今後2~3年をかけて、監督機関や立法の側から明確な説明があればいいなと思いますね。原則的には、ブロックチェーン技術を信じる人たちと、GDPRを推進した人たちは、数多くの目標を共有していると思います。ユーザーに力を取り戻す、というの基本です。GDPRの草案がブロックチェーンの人気が出る直前に出されたため、あまりにも限定された形で起草されたのは不運なことです。

 要するに、政治の対応は遅れがちですが、私は人々がこの技術のポテンシャルを認識して、例えば、サンドボックスを設けるとか、より明確化できるような方法を実際に見つけてくれることを望んでいます。

MJ: 規制の枠組みを設けて、全て正しく対応しているような国を挙げていただくことは可能ですか?そのような国は既に存在しますか?

JS:  全て正しく対応している国ですか?

MJ: では、ほぼ正しく対応している国ということで!

JS: スイスは興味深いと思いましたね。だって、小さい国は有利ですよね?あるいは、比較的有利ですよね。そういう国は、常に妥当性を維持するために努力してきたので、より機敏に、環境の変化により素早く適合する必要がありましたから。

 私たちは規制のイノベーション、あるいは各国間の規制競争を数多く目撃することになると思います。それがある程度は起業家を助けることになりますが、これはグローバルなテーマなので、その効果は限定的です。私たちが構築しているテクノロジーは、ウェブ全体を対象にしたものなのです。全て正しく対応している方を見たことがあるかどうかはよくわかりませんが、最近は人々の流動性が高まり、ビジネスができるのであればどこにでも移動するようになったのは結構良いことだと思います。それが、規制競争にも影響を及ぼすでしょう。

MJ: 先日、仮想通貨業界における女性の立場に関するミームをリツイートされているのを拝見しました。メディアが「仮想通貨業界で女性はどこにいるんだ?」と叫ぶと、一人の女性が「ここにいるわよ!」と叫び返すというものです。女性で仮想通貨業界にいるのはどういう感じか、何回くらい聞かれたことがありますか?

JS: このテーマについて、そしてどんな対策が必要かについて、本当によく見解を求められます。そして、恐らく、このテーマに関して私がフラストレーションを感じる大きな原因は、そうした議論は通常、非常に繊細なものなのに、女性があまり多くないというただの不満だけが最終的に活字になったりすることです。記事のメイントピックが、皆がランボルギーニに乗っているという話になったりすることもあります。とても有益だとは思えません。

 私は、人々の仕事の内容について話す方が、よっぽど有益だと考えます。

人がランボルギーニを運転している姿を見ても、全く感動的だとは思えません。私が仮想通貨業界に転身し、仕事をするようになった理由は、そんなところにはありません。この業界で働く人々を見て、このテーマに興味を持ったのです。

 私はそのことが語られるべきだと思っています。

MJ: パリティは、17年11月に、イーサリアムを保管するウォレットが凍結されるという問題を経験しました。4月には、ハッキングから復活するためのイーサリアムに関する提案によって、凍結ウォレットが再びニュースの話題となりました。この提案は、最終的には否決されています。

 パリティとしては、ウォレットの「解凍」は依然検討されているのですか?

JS: 全般的なガバナンスの問題をどう修正するかなど、答えを見つけるために、イーサリアム内でさまざまな努力がなされています。なぜガバナンスが重要かというと、カバナンスの問題が解決されていれば、例えばフォークを実行するか、あるいは資金の凍結を解除するかといった意見の分かれる問題について決断を下す場合に、対応策を見つけるのがより簡単になるからです。

 そして、この議論は根本的に必要だと私は信じています。というのは、私たちはまだこの点について、つまり自分たちが分散型システムを実際どうガバナンスしてきたいのかについて、答えが出せていないからです。コミュニティと協力して、その答えを導き出そうと努力しているところです。

 私は、この分野でイノベーションを促進したいのであれば、実験を邪魔しないようにすることが必要だと確信しています。凍結につながった最適化の手法は、当時としては非常に考えられたものだったのです。

 また、実際のところは、スマートコントラクト、安全なスマートコントラクトを作成するために必要なツールはまだ存在しないのです。そして、人々が資金にアクセスできなくなった時に起きた問題は、ウォレット凍結の問題だけではなかったのです。他にも問題が存在していたのです。私は依然として、人々が資金へのアクセスを失うという事態を招いたインフラ内のバグを、適切に修正したソリューションを見つけられることを願っています。

MJ: ユッタさんは、個人的にも仮想通貨の市場に参加していますか?取引や保有をされているのか?

JS: 参加できると良いのですが、その時間がないんです!会社と家庭の両方を見ていると、個人的に参加する時間はほとんどありません。

MJ: 今回はお話しする時間をいただき、ありがとうございました!

JS: ありがとうございました