ここに述べられている見解や意見は、あくまで筆者/寄稿者のものであり、筆者の所属する世界銀行、またはコインテレグラフおよびコインテレグラフジャパンの見解を反映するものではありません。

 仮想通貨の時価総額はわずか1年前には200億ドルだったのが、今年になって過去最高の8000億ドルにまで高騰した。歴史上、これほどの急騰をみせた資産は仮想通貨以外にはない。仮想通貨市場がニッチなものであるうちは、政府も無視しておくことができたが、今や無視することができないほど大規模なものとなってしまった。賢明な政府は仮想通貨がもたらす金融革命を受け入れるべきである。対抗するのは無意味であり、失うものが非常に大きくなるだろう。

中国政府は大きな税収のチャンスを失った

 1年前には中国の取引所が取引量の90%以上を占めていたが、この割合は昨年11月にゼロとなった。その2か月前の昨年9月に中国政府が全ての取引所の閉鎖を決定したためだ。このため、中国の投資家が一斉に売りに走ったため、ビットコインの価格は4500ドルから3000ドルに急落した。その後何が起こったか? 仮想通貨市場は、以前と同じように回復力と非脆弱性をみせた。中国市場が失われてしまったものの、仮想通貨市場は復活し3000ドルまで下落していたビットコインの価格は5倍になった。

Global Market Capitalization of all Cryptocurrencies

 

 この禁止措置によって、中国の投資家は何十億元もの損失を被った。保有するビットコインを慌てて売ってしまい相場の反発を逃してしまったためだ。しかし、最大の犠牲者は、間違いなく中国政府自身である。仮想通貨取引所を閉鎖し、市民が仮想通貨の値上がりによって利益を受けられないようにしたことによって、中国政府は何十億元もの税収とGDPを失ってしまったのだ。

 しかし、実際には懸念は他のところにあった。中国政府は、市民が仮想通貨を用いることによって資産統制をすり抜け、人民元の下落から資産を守ることを懸念したのだ。資産統制が結局のところ失敗に終わってしまうということを歴史が教えてくれているにもかかわらず。財産を持ち出そうとする人は、必ずその方策を見つけるのだ。

 人々がのどから手が出るほど望んでいるビジネスは実際には禁止することができない。実際の所、中国では禁止政策によって仮想通貨市場をアンダーグラウンドなものにしてしまった。中国国内では、ピアツーピア取引のためのウェブサイトが多数現れている。こういったアンダーグラウンド市場の実際の規模を把握することは不可能であるが、中国でもいまだに仮想通貨取引は健在であり、政府はコントロールする術を完全に失ってしまった。

日本は仮想通貨大国に

 他方、日本は逆の立場を取っている。人口問題や財政問題を抱え、公債額がGDPの250%に達している日本は、経済成長を生み出す方策を見つける必要がある。そのため、仮想通貨市場を無視したり禁止したりするのではなく、きちんと規制することに決めた。中国が国内の仮想通貨取引所の閉鎖を決定したのと同じ昨年9月に、日本政府は11の取引所を登録した。日本の目的は非常に明確だ。それは、仮想通貨大国となることである。

 このような仮想通貨に親和的な環境の中、日本円での仮想通貨取引が急激に増加し、すでに第一歩としての成果を上げている。野村證券の最近の推計によれば、ビットコイン単独でも日本のGDP成長率の0.3%分の押上げに貢献しているという。皮肉なことに、中国政府によって閉鎖される前には世界最大の仮想通貨取引所であったフオビは、現在は日本に移転し、2つの取引所の開設を計画している。

各国政府が進むべき道

 多くの政府は、いまだにどのように仮想通貨と向き合えばよいかわかっていない。その主たる理由は、仮想通貨について理解できていないからである。確かなことは、弱小、不安定、独裁という特徴をもつ体制は、仮想通貨に対して反発するであろうということである。仮想通貨が、人々に対して自由をもたらす非常に強力なツールとなるからである。民主的に選出されうまく機能している政府にとっては恐るべきことはなく、むしろ、仮想通貨がもたらす金融革命によるさらなる経済成長と、仮想通貨のキャピタルゲインに対する税収の増加という両者の面で得られるものが大きい。

 仮想通貨は、どこへも行ってしまうことはない。ビットコインでもイーサリアムでもないかもしれないが、一部の仮想通貨はまもなくどこでも使えるものになるだろう。20年前に、郵便サービスを保護するために電子メールの導入に反対していたか? 仮想通貨に反対することは、それと同じことで反対しても止められない。仮想通貨をやめるとすれば、インターネットをやめなければならなくなりかねないが、そんなことは起きない。 確かに仮想通貨の値上がりのペースは落ちているが、それは一時的に過ぎず、そう長く続くものではない。

 変化は想定外のところからはじまる。著名なガーナ人銀行家パパ=ワッサ・チーフィ・ンデュオムは、ガーナ銀行に対して外貨準備高の1%をビットコインに投資するよう呼びかけた。これが、各国中央銀行が通貨発行の独占権を失ったことと、仮想通貨と共存し、競争していかなければならないことに気付くことになる次の段階である。

 大部分はまだ気が付いてないが、法定通貨による支配はすでに終わりに向かっている。

著者略歴:ビンセント ローネイ(Vincent Launay)はワシントンDCにある世界銀行本部のインフラストラクチャーファイナンス専門家。 パリのHECから金融の修士号、及びCFA資格を取得。