新型コロナウイルス後の世界では、仕事や生活の全てを見直さなければならないかもしれない。社会的にどんなルールや規範が新たに生まれるのか?今後必要になる産業は何か?すでに答えを模索し始めている人もいるだろう。
そんな時、シリコンバレーの異端児でペイパル創業者のピーター・ティール氏の著作「Zero to One(ゼロ・トゥ・ワン)」を読み直してみるのもいいかもしれない。2014年に出版された同書は、新しい何かを生み出す企業を作るために必要な心得について書かれている。既に存在するものをコピーする(1→n)より新しい何かを生み出す(0→1)ことの重要性を主張する。
ゼロ・トゥ・ワンは、これまでの常識が通じない新型コロナ後の新たな世界において参考になるような示唆的な内容も含んでいる。多くの経済学者の意見に反して「独占は進歩の原動力」と述べたり、米国に蔓延する「あいまいな楽観主義」では銀行家や法律家が重宝されると批判したりするなど多くの格言を残しているが、とりわけ現在注目に値するのはグローバリゼーションの限界についての件だろう。
希望はグローバリゼーションではない?
新型コロナの世界的な流行には間違いなくグローバリゼーションの影響があっただろう。コロナ収束後も再び世界はグローバリゼーションを推進する方向に舵をきれるのか?多くの議論があるはずだ。
米国第一主義を掲げるトランプ大統領が当選する2年以上前、ティール氏はグローバリゼーションの限界を本書で指摘していた(ティール氏はシリコンバレー出身者の中では珍しくトランプ大統領支持だった)。
ティール氏は、グローバリゼーションにとって転換点となったのは2000年のドットコムバブルだと主張。テクノロジーに対する盲信が招いたバブルと反省する投資家や起業家は多く、熱気を失った彼らはテクノロジーが達成できる未来を明確に描くことを避けるようになったという。
「人は未来を誰にも予想できないものとして受け入れるようになり、四半期ではなく数年先にしか評価の出ないような長期計画を立てる起業家は変人と思われて相手にされなくなった。テクノロジーに代わってグローバリゼーションが未来の希望になった」
ティール氏によると、グローバリゼーションが未来の希望になった世の中においては、以下の4つが「スタートアップ界の戒律」になったという。
- 少しずつ段階的に前進すること
- 無駄なく柔軟であること
- ライバルのものを改良すること
- 販売ではなくプロダクトに集中すること
しかしティール氏は、むしろ真実はその逆だと主張。1. 「小さな違いを追いかけるより大胆に賭けた方がいい」2.「出来の悪い計画でも、ないよりはいい」3.「競争の激しい市場では収益が消失する」4. 「販売はプロダクトと同じくらい大切だ」と真逆の心得が正しいと述べた。
ティール氏は、中国企業に代表されるようにグローバル社会では差別化の難しいプロダクト(コピー商品)で競争する傾向があり、新たなテクノロジーで世界を変えるという明確な目標が持てなくなっていると不満を述べている。
新型コロナウイルスによって人々の多くがこれまで支持してきたグローバリゼーションは退化するかもしれない。しかし、その時、ティール氏が言うような「1999年的な熱気と尊大さ」を「少し」持つことで未来を再び切り開けるかもしれない。
(参考:Zero to One(ゼロ・トゥ・ワン)ピーター・ティール with ブレイク・マスターズ 瀧本哲史=序文/関美和=訳 NHK出版)