ロイター通信が8月30日、石油に裏付けられたベネズエラの国家仮想通貨であるペトロ(PTR)に関する調査報道の記事を掲載した。この記事は、これまでのペトロの取引記録に基づく事実や証拠と、政府による主張との照合を試みるものだ。

ロイターはベネズエラ中部のアタピリレに記者を派遣。この場所は、新仮想通貨の裏付けとして必要な50億バレルの石油を供給できると同国の大統領が述べている、380平方キロメートルの地域の中心部に位置する。

ベネズエラ経済でハイパーインフレが蔓延する中、マドゥロ大統領は8月20日、問題を抱えていたボリバル・フエルテ(VEF)から5桁切り下げとなる新たな法定通貨、ソブリン・ボリバルを導入した。この新通貨は、ベネズエラ石油1バレルの値段である約66ドルの価格が付けられたペトロに紐づけられている。

ベネズエラ出身のエネルギー政策専門家であるフランシスコ・モナルディ氏はロイターに対し、石油が豊富だとされるこの地域には、埋蔵された石油を採掘するための道路、パイプライン、発電施設といった「重要なインフラが欠けている」と語り、「この地域への投資計画は無く、より条件の良い他の場所より先に開発されると考える理由は無い」と指摘した。

ロイターの記者は、この地域では石油産業が活動している痕跡はほぼ無く、風雨に晒された採掘装置が散在するだけだと述べている。

この記事はさらに、ラファエル・ラミレス元石油大臣による最近の意見記事にも言及した。同氏はこの地域の再開発には最低でも200億ドルはかかると概算している。これは負債を抱える国有石油会社のPDVSAにとっては天文学的な数字だ。ラミレス氏は「ペトロには、政府の空想の中だけに存在する恣意的な価格が付けられている」と記したという。

ロイターが指摘しているように、現在ペトロは国際的な大手仮想通貨取引所では取引されていない。香港に拠点を置くビットフィネックスはロイターに対し、米国による制裁を受けて公式にペトロの取り扱いを禁止したと語った。コインベース、ビットトレックス、クラーケンといった他の取引所は、ペトロを取り扱わない理由についてのコメントを拒否したという。

ロイターは、ペトロの取引に対応していると言われる16社の小規模な取引所のうち7社のインターネット上での所在を確認できなかった。他の7社はコメント要請に応じなかったと報じている。インドに拠点を置くコインセキュアのみが、ベネズエラからのロイヤリティと引き換えにペトロへの対応を公式に約束している

ロイターはさらに、ペトロの販売によってこれまでに33億ドルの資金を調達したという、マドゥロ大統領の公式声明に対する調査を試みた。ペトロのホワイトペーパーによると、シンガポールで開発されたNEMトークンがこの計画の「準備」トークンとして利用され、その後ペトロに交換される。

ロイターによると、3月の記録では、ベネズエラ政府が運営していると言われるNEMアカウントが、2月末に発表されたICOの一環として8240万トークンを発行したという。5月上旬には、このうち約2300トークンが200個の匿名アカウントに移されたことが判明しており、ロイター通信の計算によると総額はおよそ15万ドルにのぼる。

4月には、1つのNEMアカウントが約12個のアカウントに対し合計でおよそ1300万トークンを発行したという記録があり、これによって約8億5000万ドルが調達されたとロイターは試算している。このトークン発行は「大手投資家」を対象にしたものだと言われているが、現在のところ、ペトロにこの規模の投資を行ったと公式に認めた人物はいない。

英国のブロックチェーン・データ企業エリプティックに勤めるトム・ロビンソン氏は、ロイターに対し次のように語った。

「取引活動の少なさを考えると、これは確かに典型的なICOとは異なる。誰かにペトロが発行されたという証拠も、いずれかの取引所で活発に取引されたという証拠も見つけられなかった

ウグベル・ロア大臣ロイターに対し、このコインを支える技術はいまだ開発中であり「誰もペトロを利用できていない…いかなるリソースも受け取られていない」と語ったという。

ロイターの調査報道が出る前から、ベネズエラ国内外の専門家から懸念や疑惑の声が相次いでいる。インフレを専門をとするジョン・ホプキンス大学のスティーブ・ハンク教授は、「これはベネズエラがよくやるゴマカシだ」と痛烈に批判している。