メタバースとは

メタバース(Metaverse)とは、メタ(meta-)と宇宙(universe)を組み合わせた造語だ。SF作家のニール・スティーヴンスン氏が1992年に発表した小説「スノウ・クラッシュ」が初出とされている。小説に登場するネット上の仮想世界をメタバースと呼んだのだ。

それが転じて、近年はインターネット上に展開される先進的な仮想空間サービスを指す総称として、メタバースという用語が用いられるようになった。


​​メタバースの始まり

一説にはリンデン・ラボが2003年にリリースした仮想空間サービス「Second Life(セカンドライフ)」が、最も仮想世界の概念に近い世界初のメタバースだといわれている。しかし、メタバースには実は明確な定義は存在しない。

古くは、まだメタバースという言葉はなかった1986年にルーカスアーツ(ルーカスフィルム・ゲームズの前身)が開発した、マルチ参加型オンライン仮想環境「Habitat(ハビタット)」がメタバースの元祖ではないかという意見もある。

ハビタットは、テキスト中心のパソコン通信時代に登場したグラフィカルなコミュニティプラットフォームだ。2Dの世界ではあるが、ユーザーはアバターを作成し、グラフィカルなユーザーインターフェイスのもとでコミュニケーションを楽しむことができた。当時は、サイバースペースもしくはビジュアル通信とも呼ばれていたサービスである。

一方のセカンドライフは、完全な3Dモデルによる仮想空間の世界だ。自身のアバターを駆使し、仮想空間内を自由に歩き回ることが可能だ。他のユーザーとアバターを介してコミュニケーションを図ることもでき、完全な仮想世界をインターネット上に展開している。

元祖メタバースのセカンドライフの様子
セカンドライフの行き先の1つAkijima 出所:Second Life 

セカンドライフには、リンデンドルというバーチャルなデジタル通貨が存在する。仮想空間内では建物を建てたり、アイテムを作成したりすることが可能だ。それらの建物やアイテムは、セカンドライフ内のみでデジタル通貨を用いて売買することもできる。

セカンドライフと同時期に、「Ultima Online(ウルティマオンライン)」や「EverQuest(エバークエスト)」などMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)と呼ばれるゲームも流行していたが、これらもセカンドライフと同様に3D仮想空間を有している。

MMORPGもまた、仮想空間内でプレイヤーキャラクターを操作し、アイテムやゲーム内通貨をやり取り可能だ。しかし、背景にストーリー性があるものや、決められた目的や敵などを倒したりするものは、メタバースと呼ばれることはあまりなかった。

明確にメタバースと呼ばれていたものの多くは、アバターによるユーザー同士の交流や仮想空間内での商業活動など、コミュニケーションを主目的に活用されているものが主流となっている。また、その時代の最先端技術が導入され、構築されるものが多い。

バーチャルリアリティ(VR)の分野では、メタバースはVRアプリケーションであると定義する学術書も存在する。VRアプリケーションにおけるメタバースには、3Dによる仮想空間を持ち、自己投射できるオブジェクト(アバター)が存在する。その上で、複数のアバターが同一の仮想空間を共有し、かつその空間にオブジェクトが創造できるものと定義されている。

2021年時点のメタバースには、VRの概念や拡張現実(AR)の要素が加わり、さらにブロックチェーン技術や仮想通貨、NFT(Non-Fungible Token)が応用されつつある。

SFの世界だった理想のメタバースの実現が、より現実味を帯びてきた印象だ。


なぜメタバースが注目されるようになったのか

2021年に入ってメタバースは、急に注目を浴び始めている。なぜ注目されるようになったのか。その理由の一つが、Facebookの動向だ。

FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏は2021年7月22日、同社は今後5年以内にソーシャルメディア企業からメタバース企業へ移行すると、米国のテック系ニュースサイトThe Vergeに語った

ザッカーバーグ氏の発言以来、世界中のニュースメディアが「メタバース」について報道するようになったのだ。

メタバースはソーシャルメディアの延長線上にある先進的なコミュニティの形である、という世界観をザッカーバーグ氏が語ったことで、人々の間にも急速にその世界観が定着しつつあるといえる。

Facebookは2021年10月17日にも新たな発表を行った。今後5年間に欧州連合(EU)圏内で高度なスキルを持つ人材1万人程度を採用し、メタバースの構築に取り組むというものだ。9月にはメタバース構築用として5000万ドルの資金を拠出している。ついには2021年10月28日に社名をFacebookから「Meta」にリブランディングした。

また、FacebookはVR用ヘッドセット「Oculus Quest 2」を使ったリモートワーク用のVRアプリ「ホライゾン・ワークルームズ」の試験版を公開した。ホライゾン・ワークルームズは、アバターを介してバーチャル会議に参加することができる仮想空間環境だ。

奇しくも2021年は、NFTによるアートやアイテムが高額で取引されるなど、NFTの存在感も増している。NFTもまたメタバースを構築するための技術要素の一つであるため、メタバースにとっては都合の良いタイミングとなった。

メタバース内で扱われるアバターや建造物、アイテムなどをNFT化することで、その世界観はより充実し、さらなる理想のメタバースが構築できることが見込まれている。併せて、そうしたもののやり取りを仮想通貨によって取引可能にすることで、メタバース内でのエコシステムが完成する。

2021年になってこうしたメタバースを構築するための技術要素やニュースが立て続けに公開され、メタバースの実現の兆しも見え始めてきた。その実現の可能性はまだ誰にもわからないが、この動きには注目せざるを得ない。


ブロックチェーン・NFTを導入したメタバースの事例

メタバースは大きく分けて、ハビタットやセカンドライフのようにブロックチェーン技術がなかった時代から存在するものと、ブロックチェーン技術誕生後に登場したものに分けることができる。注目されているメタバースは、後者になる。

2Dの世界から3Dの世界へと進化した仮想空間にブロックチェーン技術が付加されることにより、メタバース内のクリエイティブな活動に対する対価として仮想通貨が支払われたり、メタバースをベースとした経済活動を行えるようになるなど、エコシステムの構築を可能にする。

ここでは、ブロックチェーン技術を活用する代表的なメタバースについて紹介する。

Decentraland

Decentralandの様子
出所:Decentralandより作成

スタートアップのDecentralandは、メタバースを構築する際にICOにて2400万ドルの資金をわずか数十秒で調達し、多くの注目を集めた。

2015年に誕生したDecentralandは、名前が示す通り分散型のメタバースということで話題になった。イーサリアムブロックチェーンベースのDecentralandは、LANDと呼ばれるNFT化された土地を基盤とする仮想空間を、アバターにて歩き回ることができる。

アバターのファッションやLAND上に設置されるオブジェクトなどもNFTとして作成することができ、それらを販売することもできるのが特徴だ。

またDecentralandは、ネイティブトークンMANAを発行し、メタバース内の通貨として利用している。日本国内においてはMANAを取り扱う仮想通貨取引所がないため、Decentralandに参加するのは難しいが、ブロックチェーンベースのメタバースとしては古参の一つなので、覚えておくと良いだろう。


The Sandbox

The Sandboxの様子

出所:The Sandboxのブログ

The Sandboxは、2012年に携帯電話向けに開発されたゲームプラットフォームをベースとする伝統的なゲームシリーズの最新版だ。2018年8月にAnimoca Brandsという台湾の企業によって買収され、ブロックチェーンを基盤としたメタバースプラットフォームとして発展を続けている。

最新版のThe Sandboxは、3Dボクセル(ブロック)による仮想世界で、物や建物を作るなど様々なゲーム体験ができる。ユーザーは、所有する土地(LAND)やキャラクター、アイテムなどをイーサリアムブロックチェーンベースのNFTとして売買することも可能だ。

The Sandboxは、ネイティブトークンSANDを発行し、メタバースにて利用できる主要トークンとして利用する。The Sandboxにおいてコンテンツ制作者は、ゲームのアセットやゲーム体験を収益化することが可能になるのが特徴だ。


Cryptovoxels

Cryptovoxelsの様子出所:Cryptovoxelsより作成

Cryptovoxelsは2019年に誕生したばかりの新進気鋭のメタバースだ。イーサリアムブロックチェーンベースのメタバースである。CryptovoxelsはOculus QuestをはじめとするVRブラウザを搭載したヘッドセットにも対応している。

ユーザーはオークションやマーケットプレイスでNFTである土地を購入し、お店やギャラリーを作って、その中にNFTオブジェクトを配置できる。

NFTオブジェクトは、外部サービスを利用して作ったコレクティブルと呼ばれるものであり、それらNFTオブジェクトはマーケットプレイスのOpenSeaなどと連携させることで、その場で売買することが可能になる。メタバース内にて、NFTアートギャラリーの運用ができるのだ。

Cryptovoxelsは、プログラミングの知識がなくても編集できる世界の構築を目指しており、すべてビルトイン機能でブラウザから利用できるのも特徴だ。


ブロックチェーン・NFT導入後のメタバースの進化

古くからあるメタバースの概念では、セカンドライフの時代においてもすでに完全にメタバースの要素が含まれていた。セカンドライフは、3Dによる仮想空間を持ち、アバターによる交流を可能とすることで互いに空間を共有し合い、空間にオブジェクトなどを創造することができた。

しかし、理想的な仮想世界としては、セキュリティの概念が希薄で、まだまだ危険な要素が多く含まれていたのだ。

セカンドライフ内ではユーザー間でデジタル通貨のやり取りができたため、外部サービスを利用して法定通貨を受け渡し、セカンドライフ内でデジタル通貨を渡すといった方法で擬似的な取引所のようなことも可能だった。空間内の土地を売る不動産業者も外部サービスでは存在していた。

ただし、これらは第三者によるサービスを併用していたことから、お金を払ってもセカンドライフ内での受け渡しが行われないなど、詐欺も少なくなかった。仕組みは口約束のようなものであり、統合されたシステムもなくその状況を追跡するような仕組みもなかったのだ。

当時はブロックチェーンの概念や仮想通貨も存在していなかったために、これらを解決する方法は、当然だがなかった。また、メタバース自身もそうしたやり取りを意図していないため、すべてはユーザーによるアイデアもしくはノウハウという概念に過ぎなかったのである。

メタバースは、こうした歴史を経て、ブロックチェーンやNFTといった技術が登場したことで、いよいよ理想のメタバースが実現できるのではないかという気運が高まりつつある段階にある。

ブロックチェーン技術を応用したNFTは、アートやメタバース内のアバターやアイテムといったデジタル資産に、作者や所有者の情報を追記することができるようになる。

メタバース内にて作成したアイテムをNFT化することで、これらは外部サービスであっても今後は安心安全に取引ができるようになるのだ。

第三者が運営するNFTマーケットプレイスであっても、ブロックチェーンにより発行されたNFTであれば誰もが安心して売買できることになる。

同時にメタバース内通貨も仮想通貨に置き換えるだけで、これらも安全な仮想通貨取引所を介してやり取りすることができるようになり、問題なくグローバルな環境で取引が可能なメタバースの構築ができるのだ。

メタバースのセキュリティ強化は、コミュニティの発展系として、アバターによる交流をそのままビジネスに応用することができたり、メタバース内のクリエイティブな活動に対する対価として仮想通貨が支払われたりと、メタバースをベースとした経済活動をも可能にすることは想像に難くない。

FacebookがSNSの発展系としてメタバースを視野に入れているのは、もはや必然ではないだろうか。

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